第21話 愛猫と猫じゃらし

ふう、と一息つき、幸歌はベッドに腰かける。

いつもなら部屋着かパジャマでしかやらない事だが、今はクリーンの魔法で綺麗にしたばかりだし、問題ないだろう。


福はしばらくお布団でくつろいで安心したらしい。

今度は色々チェックするためだろう、うろうろと室内を歩き始めていた。

使い慣れた自分のトイレやご飯の場所を確認している。

ベッド近くに戻ると、ペチャペチャと音を立てて水を飲んだ。


そしてベッドの足元の方へ飛び乗る。

幸歌は中央辺りに座って、福が水を飲んだ事を確認して安心し、リュックの中の確認をしようとしていた。

しかしそこに、福のううん、と小さく鳴く声が届く。

それは構って、の合図だ。

話せばすぐ伝わる今でも、控えめに鳴いて訴えるのが愛おしい。


「はい、はい」

両手を伸ばし、福の両前足の下に差し入れ、抱えあげ膝に乗せる。

福は膝の上でごろん、と転がり横になる。

それは今まで外では見せなかった、すっかりリラックスした姿だ。


ゴロゴロと喉を鳴らし、福は膝の上でうごうごと動く。

落ちないようにその背中を支えつつ、頭や喉、体を撫でる。


しばらくそうして福を愛でていたが…重い。

重い上に膝でうごうご動くので、落とさないようにするのに、ひたすら苦心する。

と。

「あ」

ついに福がずるりと幸歌の膝からすべり落ちた。

途端、わおん!と怒りの声を上げた福が、ガブリと手に噛みついてくる。

「いったーい!」

叫び声を上げる幸歌。


「福が勝手に落ちたんでしょー!」

「ねーちゃんが落とした!」

「あんたが動きすぎなのよー!」

と反論、というか幸歌は正論だと思う-するが、怒れる福は再び噛みつこうと向かってくる。

幸歌は慌てて布団を福に被せると、ベッドから逃げ出した。

そしてリュックに駆け寄ると、ある秘密兵器を取り出した。


じゃーん!

猫じゃらしー!


被せられた布団から抜け出した、福の目の色が変わる。

瞳孔が大きくなり、きらりん、という擬音がピッタリの輝きを放つ。

本当なら八つ当たりされだしたら距離を置くのが1番なのだろうが、ここには別の部屋などないのだ。

ならば発散させるのみ!


福の頭上で上下に動かす。

福が後ろ足で立ち上がり、伸び上がって両前足を交互に出し、猫じゃらしを捕らえようとする。

しばらくその動きを続け、遊ばせる。

もちろん時折ちゃんと捕まえさせてあげるのが最重要だ!


その上下の動きに飽きてきた頃を見計らい、今度は布団の上に猫じゃらしを這わせる。

始めはゆっくり福へ近づけ…さっと素早く遠ざける。

目でその動きをひたすら追っていた福が、頭を下に下げ、お尻を左右に振り始める。

と、突然ダッシュをかけ、バタバタと猫じゃらしを追いかけて布団の上を駆け回る。

そんな動きをひたすら繰り返す。

何十分そうして遊んだだろうか、すっかり幸歌はくたくただが、福はまだまだ遊びたそうに、動かなくなった猫じゃらしの前に行儀よく座って待っている。


疲れた…幸歌にとって、この猫じゃらしというのが、猫をお世話する上で一番大変だと思う。

福は猫じゃらしで遊ぶのが大好き過ぎるのだ。

本当に誰か代わってほしい…。

そう考えた時、雷のようにある閃きが幸歌に舞い降りた。

これは…使える!!!

幸歌は今の美少女顔には似つかわしくない、悪い笑みを浮かべた。


それは桜色の艶めく髪、それに彩られた、小ぶりな顔に絶妙なバランスで配置された魅力的な各パーツ。

長い睫毛に影を落とされた、あどけなそうなつぶらな瞳。

細く美しい弧を描く眉。

極上の音楽を奏でそうな可憐な唇。

それらの美術品には、誰も刻んで欲しくはない、とそう願わずにはいられなさそうな、それはそれは悪どいものであった。

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