第22話 愛猫と持ち物検査する

さてもうそろそろセリュも戻って、あちらの部屋も落ち着いた頃だろうか?

そう考え、幸歌は立ち上がった。

事前に言っておいた、見せて欲しいもの、その確認をしに行こうと思ったのだ。


「福、私はパーティーメンバーの部屋に行って来るけど、お留守番してる?」

一応愛猫に確認をとる。

すると、猫じゃらしがもう動かない、と諦めて横に伸びきって寝ていた福が、さっと起き上がった。

「僕も行く!」

「そう?

寝ててもいいんだよ?」

「ねーちゃん1人を危険かもしれない場所に行かせられない…!」

何やら大げさに呟いているが、1つ置いて隣のパーティーメンバーの部屋に行くだけである。

幸歌は何言ってるんだか、という思いが、その今や清純派美少女顔に出るのを隠せない。


「じゃあ行こうか」

言って福を伴い、部屋を後にする。

一応鞄はリュックに詰め込み、そのリュックは収納箱に入れてカギをかけてきた。

カギはかけたままのショルダー型財布の中に入れている。


隣の隣の部屋の扉の前に立つと、幸歌はその木製の戸をコンコン、と軽くノックした。

「はい」

すぐにそう答えながら、セリュが扉を開けてくれる。


「入らせてもらってもいいですか?」

尋ねると、

「どうぞ」

と招き入れられる。

「何か見たいものがあるとかだったよね?」

「はい」

頷きながら中に入ると、そこは4人部屋のようだった。


4つのベッドと、その脇にローテーブル、上には水が張ってあるだろう、器。

その脇に収納箱。

置いてあるものはほとんど個室と変わらない。

ただ、4人部屋だけあって、個室よりずっと、ぎゅっと詰め込まれた印象だ。

これでは福の猫グッズを置くスペースなどとてもないから、個室にして正解だったと幸歌は思う。

個室でもぎりぎりなくらいなのだから。


スカイとスノーは右側のベッドに2人とも腰かけており、入って来た幸歌を見上げている。

その髪は、そういえばセリュも含めて、みんな湿っているようで、井戸で行水してきたのだろう、と幸歌は察する。

しまった…みんなにもクリーンのスクロールを使うべきだっただろうか?

そう考えるが、後の祭りだ。


「お邪魔します」

一応挨拶。

そして。

「皆さんの装備を見せて欲しいんです」

肝心の言葉を口にした。


恐らくだけれど、彼らはほとんど冒険者と呼べるだけの装備を整えられていない、と幸歌は考えている。

だから明日はまず、ベロニアにお勧めの武器、防具、その他備品の店を尋ね、買い物に行くつもりだ。

だからその前に、しっかりと何が足りないのかを確認しておきたかったのだ。


「装備を?」

セリュに確認され、幸歌は頷く。

「明日、私は装備品や冒険に必要なものを買いに行くつもりです。

だからその前に、皆さんにも何か足りないものがなければ、一緒に買いに行きたいと思って」

すぐ横にいるセリュの顔は見えない。

しかしスカイの視線は泳ぎ、スノーは無表情の顔を伏せた。


幸歌は大きく息を吸ってから、覚悟を決めて口にする。

「いいですか、私たちはもう、互いに命を預けあう、パーティーです。

だから一緒に戦うなら、最低限の装備は整えて欲しい。

幸い私は、前に言った通り、大きな依頼を達成したばかりで余裕があります。

必要なものは、惜しまず買いましょう?

それがお金を早く稼ぐためにも、最善です」

偉そうな事を言っていると思う。

だけどこれは、正論だろう。


武器なしでは敵は倒せない。

防具なしでは敵から身を守れない。

備品なしでは冒険は立ち行かない。


傍らでため息をつく気配。

「わかったよ、オレの装備をまず見せる」

セリュは足早に左の奥のベッドへ向かうと、幸歌を呼んだ。

スカイとスノーも興味があるのかやってくる。


ベッドに置かれていたのは、なめした革でできていると思われる鎧だった。

だが少し古びて見える。

所々擦り傷のような物が目立つ。

そしてベッドの傍らには1本の剣。


「抜いて見せてもらってもいいですか?」

頷いてセリュは剣を手にとり、抜き放った。

しかし、そこに期待したような輝きはない。

歯こぼれなどはないが、切れ味はイマイチそうだ。

多分だけど、2つとも中古の品だろう。


「セリュさんは、士官学校に入りたいって言ってましたよね?」

唐突な質問にセリュは瞬きをする。

「ああ、そうだよ」

「じゃあ多分、将来騎士になりたいって事ですよね?」

「ああ」

「じゃあ盾を買いましょう!」

「え?」

セリュは話について来れていないようだが、気にせず続ける。

「できれば鎧ももっと堅いものを」


幸歌の計算では、戦士の一人には盾役になってもらうつもりだ。

無論、攻撃もやってもらうが、重要なのは敵を全線に止める防御力だ。

後衛…現状では幸歌しかいないが、まで攻撃の手が回れば、すぐに戦線は崩壊しかねない。

小説で培った知識と、ゲームで得た実感を元に、幸歌は勝手にだけど、パーティーの運用について考えていた。


「スカイくんは?」

聞かれて慌てたように、スカイは手にした剣を差し出して見せた。

それは短くて…ショートソードだろうと思われる。

ダメだ、彼にはダメージディーラーをやって欲しいのだ。

それでは攻撃力が圧倒的に足りない。

「鎧は…まだ、ない」

言いにくそうに小声で告げられる。

「じゃ、スカイくんに似合う、カッコイイ剣と鎧買いましょう?」

笑顔を向ければ

「いいのか!?」

と嬉々とした表情で返される。

うんうん、このくらい素直な方がやりやすい、と幸歌は微笑みを深くする。

「勿論!

いいの探しましょう?」

「やったー!」

無邪気に両手を上げる彼は、素直で可愛い。

ああ、大きく振られる尻尾の幻覚が見えそうだ。

頭を軽く振って妄想を追いやる。


「スノーさ、くんは?」

1つ年上のスカイをくん、と呼んだのだから、さんづけはおかしいだろう、と慌てて言い換える。

無言でナイフを示される。

「弓はやらないの?」

「こっちの方が、得意」

得意、と言い切るその姿に、彼は盗賊から暗殺者系統に進んでしまいそうだなーとちょっと背中が冷たくなる。

「全員に余裕があれば遠距離攻撃の武器も持っていて欲しいけど、とりあえずわかりました。

盗賊道具とかはもう揃えられたの?」

盗賊道具…すなわち、カギ開けや、罠解除に必須の盗賊の7つ…かは知らないが、とにかく重要な道具だ。

スノーは首を左右に振る。

「まだ、これから稼いでから」

「すぐに買いましょう!

冒険には必須です!」

つい、勢いこんで言ってしまい、スノーに1歩引かれてしまう。

「…わかった」


そうして判明したことは…全ての武器防具、備品がない!

という頭を抱えたくなる現実だった。

私の所持金で足りればいいけど…頭を抱えたくなる幸歌の足に、慰めるように福がすり、とすり寄った。






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