第17話 愛猫と街ぶらする

「そしたらみんなでパーティー結成祝いしましょう!」

幸歌は手を叩いてそう提案した。

「結成祝い?」

「はい、未成年の方もいらっしゃるそうなんでお酒はなしですけど。

美味しいもの食べに行きましょう!」

にこにことする幸歌に、少年達は顔を見合わせる。


「でもさっき言った通りオレ達手持ちが…」

セリュが代表して断りを入れようとするが、幸歌は笑顔で返す。

「私大きな依頼達成したばっかりなんです!

パーティーに入れて頂いたんですし、私に奢らせて下さい」

「そんなわけにはいかないよ」

困った顔のセリュ。


だけど幸歌は必殺の一言を考えていた。

「私この街に来たばっかりで、不馴れなんです。

それに1人で食事してて、絡まれたりしないか心配だし…」

これだ!これなら断れまい!

なんたって今の自分は若返った上に、自分でも驚きの美少女になってるっぽいのだ!

受付嬢のベテランお姉さんが心配してくれたくらいだ、きっといけるだろう。

ちょっと卑怯だが、みんな手持ちが厳しいらしいのだから、ここは本来年長者であり、手持ちもある自分が食事だけでも-あわよくば宿も、提供して当然だろう。


そんな幸歌の様子に、福の太く曲がった尻尾がバッタンバッタンと床を叩く。


「あーそっか、そうだよね、ごめん!

せめて宿まで送るよ」

狙い通りセリュが慌てて約束してくれる。

本来なら冒険者たるもの、自分でそれくらいどうにかしろ、なのかもしれないが、このお人好しの少年なら、絶対にそう言ってくれると思っていた。

「ありがとう!

2人も一緒に行こう?」

笑顔で誘うとスノーは渋々といった感じだったが、スカイは素直に了承してくれる。


「今日は凄く混んでますし、明日依頼見るとして、今日はもう行きませんか?」

第一、依頼を受ける前にみんなの装備を整えたい。

そのままじゃ掃除やお使いなんかの戦わない依頼しか受けれない。

そんなの、冒険じゃない!と幸歌は思う。


「そうだね…確かに初心者が入っていくのはためらわれる状況だね」

セリュが同意してくれたので、うんうん、と幸歌は頷く。

「じゃ行こうぜ~」

スカイが軽く言うと、スノーもようやく立ち上がってくれた。


「やった!

じゃ宿に行く前に、軽く街を見てもいいですか?」

装備は明日ベロニアに良いお店を紹介して貰ってから、買い揃えた方がいいだろう。

自分に目利きはできないし、目の前の少年達にも無理そうだ。

ならば、信用できるお店を紹介してもらうしかない。

今日のところは、親好を深めるためにも、街ぶらと食事だ!


「構わないよ。

2人もいいかな?」

セリュが尋ねるのに、スカイもスノーも頷く。

「どうせやる事ないしな~」

「…」

スカイの発言に、スノーは何か言いたげに軽く睨んでいるが、今は気にしない事にする。


「僕はもうお布団行きたい」

不満げな声を上げる福に、

「もう少しごめん!ね!」

と幸歌は腰を落としてその頭を撫でた。

バタバタと尻尾を動かしていた福は仕方なさそうに目を細めた。




「冒険者ギルドは大体どの街も門近くにあるそうだよ」

街について聞いた幸歌に、この街の出身ではないそうだが、1番年長者であるセリュがそう説明を始めてくれた。

「このエリストの街もだけど、以前よりは教育施設を作った影響で少し離れたそうだよ」

そう話しながら4人と1匹揃ってそのギルドを後にする。


「で、どこもそうだと思うけど、その周りには冒険者目当てのお店が集まってるってわけ」

苦笑を浮かべてセリュが立ち並ぶ店々を示す。

今は陽が西に近づいてきたせいか、食べ物の出店が多く呼び込みを行っているようだ。

いい匂いが鼻腔をくすぐる。


「何かオススメってありますか?」

「さあ…オレは食べた事なくて」

セリュが視線を向けると、スカイも首を振る。

「オレらも当然ない!」

節制しているだろう彼らは、こういった店の商品はまだ購入していないようだ。


甘味やフルーツにも興味があるが、今は食事前だし、一緒にいるのは絶賛成長期の男の子達。

ここは肉か!

幸歌はそう考え、歩きながらお肉の焼けるいい匂いと、人気のありそうな列のある店を探す。

と、1軒の肉を棒にさし、焼き鳥のように炙っている店を発見する。

焼き鳥より肉の大きさはかなり大きいが。

肉と香草が焼ける芳ばしい香り。

そして少しの人だかり。

あそこにしよう!


「あのお店!

買ってみてもいいですか?」

隣を歩くセリュに尋ねると、頷いてくれたので、小走りに露店へと向かう。


「お兄さん、4本下さい!」

自分の番が来て、幸歌は店主のおじさんに頼む。

ついてきてくれていたセリュが

「4本?」

と呟いているが無視する。

ちなみに福の分は注文していない。

味付けされた人間の食事は猫には毒だ。


「お嬢ちゃん、口が美味いねえ!

おまけに大層べっぴんさんだ!

1本オマケするよ!」

「やったー!

お兄さんありがとう!」

喜んでお礼を言う。

「4本の料金で8エルだ!」

「これでお願いします」

ギルドで貰った硬貨を差し出す。

「おっと100エル硬貨かい!?

釣り銭用意するからちょっと待ってくれ!」

店主は慌てた様子で硬貨を数え始める。

「10エル硬貨9枚に2エルのお返しだ。

それと商品は…持ちきれるかい?」

釣り銭を受けとり、財布ショルダーにしまうと、店主が両手に差し出す肉串を1本受けとる。


「お願いします」

セリュに笑いかけると、セリュは両手に2本ずつ受け取ってくれる。

「ちゃんとナイトつきかい。

良かったよ。

毎度ありがとな!」

「ありがとう、お兄さん!」

幸歌は店主に笑みを返すと、

「割りきれなくなっちゃったなあ…」

と呟く。


「3人でどうにか分けて貰える?」

セリュに問えば、

「え、いいの?」

と問い返される。

「はい、自分だけ食べるの恥ずかしいでしょ。

道連れになって下さいねー」

食べ歩きは1人では恥ずかしい。

彼らは道連れだ。


「お金払うよ」

セリュが言うが、勿論そのつもりは全くない。

「私が食べたいのに勝手に付き合わせるのに、もらえないです」

「…わかったよ、これは頂くね。

ありがとう」

幸歌の強固な意思を感じたのか、セリュは折れる。

「3本は君達で分けてくれる?」

スカイとスノーに肉串を差し出す。

「いいのか!?」

目を輝かせるスカイ。

「1本でいい。

…ありがとう」

スノーは無表情ながら、幸歌に小さく頭を下げる。

「やったー!

食ってみたかったんだー!

ありがとな!」

2本受け取ったスカイは嬉々として肉串にかぶり付いた。

「うっまー!」

それを聞いて幸歌も一口食べてみる。

少々固いが、香草が効いていて風味がいい。

それに噛めば噛むほど味わいが出てくる気がする。

セリュやスノーもその味に満足しているのか、無心に味わっている様子だ。そう言えば、何の肉なんだろう、これ。

聞くの忘れた。


「僕のご飯は?」

考えていると、福が不満げに訴えてくる。

「さっきトカゲ食べたでしょ」

「とられたし!

約束した代わりのおいしいの、もらってない!」

微かに毛が逆立つ。

今その事を思い出して腹をたてているんだろう。

「うーん、宿で用意してもらうから、ね?」

なんとかそうして貰わないと、今晩幸歌は福の八つ当たりの餌食にされてしまうだろう。

それを想像するだけで恐ろしい。

なんとかしなくては…口腔に広がる肉の旨味を噛みしめつつ、幸歌は思案した。

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