第16話 愛猫とパーティー結成する

セリュの案内で、近くのテーブル席に座る2人の少年の元へ向かう。

「パーティー参加してくれるかもしれない人を連れて来たよ」

セリュの声に2人が振り返る。


1人は焦げ茶色の髪に明るい空色の瞳。

人懐っこそうな…子犬のような印象の可愛らしい快活そうな少年だ。

中学生高学年くらいに見える。


もう1人は白銀の髪に薄い琥珀の瞳。

その顔を見て幸歌は驚いた。

白磁の顏(かんばせ)に繊細な美貌…それは男性というより、女性と言われた方が納得できる。

その瞳だけが野生の獣のように鋭い光を放っており、彼が女性じゃない事を示しているようだった。


セリュも簡素な服装だったが、2人は粗末と言ってしまっても仕方ない部類だ。

今は2人とも幸歌に目を向けるなり、驚いたような顔をして、固まっていた。


「サチといいます。

魔獣使いです。

よろしくお願いします」


幸歌が頭を下げると、はっとした子犬少年の方が慌てて立ち上がった。


「オレ、スカイ!

セリュと戦士の訓練で知り合ったんだ!

15才!

よろしく!!」

背後に大きく振る尻尾でも見えそうな勢いだった。


「でこっちがスノー。

同じ孤児院出身で、コイツが出てくって言うから仕方ないから着いてきた!」

スノーは短く

「…盗賊」

とだけ告げる。


人見知り?

無口?

幸歌が首を傾げると、説明が足りなかったと思ったのか、スカイが自己紹介を続ける。


「スノーが14才になったからもう冒険者になれるし、孤児院出てくって言うからさ!

コイツ1人じゃ絶っ対!人と協力して冒険とか、ムリだって思ったし!」

にしし、と笑うスカイ。

スノーはそれを聞いて嫌そうに顔をしかめている。


粗末な服装は出身のせいなのかもしれない。

幸歌はあえてそこには触れず、足元に座っている福を紹介する。


「この子が猫の…で魔獣の、福です」

にゃーと福が鳴く。

2人はえ?って顔で福を見る。

「でけー猫!!」

「魔獣…?」

先がスカイで、後の呟きがスノーだ。


「コイツらも失礼なガキだ」

福がふう、と息をつく。

「うお、でか猫ため息ついた!」

福の発言は他の人にはどうやら聞こえていないようなので、幸歌は苦笑だけもらす。


「コイツは中身ガキのまま!

もしリトルデビルと同じように僕をあつかったらヒドイ目に合わせてやるから」

スカイをじとっと睨み付け、福は宣告する。

リトルデビルとは…猫の扱いがわからないちっちゃい子供とかの事だろうか?


「コイツはただの不器用で臆病なガキ。

オスの本能さえ感じない」

じーと見つめられたスノーがその無表情を僅かに訝しげに動かす。


「ねーちゃんに危険はなさそうだから…まあ、だいぶオマケしてやって合格」

福は胸をはり、ふんす、と偉そうに鼻息をつく。

どうやら福のお眼鏡にかなったようだ。


「福は2人も大丈夫ですって!」

喜び笑顔で報告する。

セリュはまた苦笑を浮かべているが、幸歌はスカイとスノーの方を見ていて気づかない。

「なんかわかんないけどやったー!」

スカイは無邪気に喜ぶ。

スノーはまだ訝しげだ。


幸歌は考える。

戦士2人に盗賊。

戦士1人が盾ともう1人がダメージディーラー、攻撃役として、盗賊は斥候に、罠探知解除役。

なら、後必ず必要となるのは、回復役だ。

とすると、自分が回復の魔法を急ぎ覚えるべきだろう。

そうすればこの4人でパーティーはとりあえず回るだろう。


「で、どうかな、みんな?

この4人でパーティー組まない?」

セリュがその場を纏めるように質問する。

「さんせーい!」

スカイは無邪気に手をあげる。

が。

「その女に何できるかわからない」

スノーが冷静に遮る。


またあの説明か、と幸歌は少しうんざりする。

「この子が巨大化して戦います」

「え!?」

「は?」

幸歌の言葉にスカイとスノーが同時に疑問符を浮かべる。

「私が乗れるくらい大きくなって戦います。

それで、魔獣使い」

幸歌は今のところ福頼みである現実に、眉を下げ少し情けない顔になってしまう。


「すっげー!」

スカイは無邪気な歓声を上げる。

疑う事を知らなそうな人物だ。

「早く見たいな!な!」

同意を求められたスノーは無言である。


困って幸歌は続けた。

「私は魔法を覚えるつもりです。

適性はあるそうです。

このメンバーなら、まずは回復を最優先に」

回復魔法があればだけど…と内心思うが、ファンタジー世界なのだからあるだろう、多分!


「…わかった、嘘じゃないなら、反論はない」

スノーも静かに頷いた。

「よっしゃ!お前もよろしくな!」

福の頭を撫でようとその頭に手を伸ばすスカイ。

「馴れ馴れしいぞ!」

シャー!!と福にその手を叩かれた。

「いってーーーー!!!!」

しっかりツメも出ていたと思われる。

スカイはその手をもう片手で握り喚く。

「ご、ごめんなさい!

その子人見知りで狂暴で!」

慌てて謝る。

話ができるようになって油断していた。

福は福だ。

本能のまま気にくわない事には全力で抵抗、攻撃する。


「ごめんなさい、言うのが遅くなって…

その、狂暴なので、近づく時は気をつけて」

「早く言ってよ~」

スカイはすっかり情けない顔だ。

フワフワの頭を触れると思った時に、とんでもない衝撃を受けたのだ、仕方ないだろう。

しゅんと下がった尻尾でも見えそうだ。


「ごめんなさい」

これはひたすら謝るしかない。

幸歌は頭を下げる。

「慣れたら多分、触らせてくれますから」

中にはすぐ撫でさせるような人もいるのだが、それは極まれだ。

「早く慣れてくれよー」

スカイは恨めしそうに福を見るが、福は知らんぷりで毛繕いだ。

やれやれ余計な事で自慢の毛並みが乱れたぜ、とばかりの態度は、言葉がなくとも伝わりそうだ。


「えーと、じゃあとりあえずこの4人でパーティー結成って事でいいかな?

しばらく街の中の雑用しか受けれなくて、みんなお金厳しいだろうし、早めに次の依頼受けたいから」

「モチロン!」

勢いのいい返答と、無言の頷き。

嬉しくて、幸歌は笑顔を浮かべた。

「ええ!」


福は毛繕いの途中で動きを止め、満足げな表情を浮かべていた。

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