第15話 愛猫がパーティーメンバーを審査する
混みあう受付近くを離れ、まだ人の残る掲示板へと向かう。
どんな仕事があるのか、そしてパーティー募集もあるのか確認してみようと思ったのだ。
「福、ちょっと待っててね」
人の好き嫌いが激しい愛猫に、掲示板近くでそう声をかけ、にゃーという返事を背に、自分だけ人混みに突入する。
しかし。
「うーん、よく見えないなあ」
女性としては普通の身長だったはずだが、若返った影響で縮んだのか、周囲の男性達の身長が高いのか、掲示板の内容がハッキリと見えない。
そういえば周囲は男性ばかりで、女性の姿はあまりない。
「あの、オレで良ければ、代わりに見て来ましょうか?」
「え?」
不意に声をかけられて、そちらを向く。
そこにいたのは、栗色の髪に深い青い目の少年だった。
前の世界で言えば、高校生くらいに見える。
今の自分の見た目より少しだけ年上くらいだろうか?
優しげで整った、優等生的なその見た目は、クラスで男女問わず人望があり、学級委員なんかに推薦されてしまいそうな印象だ。
急に振り返った幸歌に驚いたのか、思慮深そうな青い瞳を見開いている。
「あ、いや、ごめん!
見えなくて、困ってるみたいだったから!」
慌てたように続ける少年に、感謝の笑みを向ける。
「そうなんです。
ただ、どんな依頼があるのかと、自分が組めそうなパーティーの募集ってあるか見たいから、自分で確認しないといけないかも…」
申し訳なさそうに続けると、少年の表情が輝いた。
「君もパーティーを探してるの?」
「あなたも?」
「そうなんだ、あ、オレはセリュって言います。
士官学校に入りたくて、冒険者になったばかり。
職種は戦士です。」
優等生的な見た目と、思慮深そうな瞳から、勝手に知的な職種なのかと勘違いしかけたが、意外な事に、少年は戦士職についているらしい。
あれか!
勉強も運動もできるとかいうまさに人気者タイプなのか!
と人より少し勉強はできたものの、致命的に運動ができなかった幸歌は、訳のわからぬジェラシーを微かに抱く。
「私はサチです。
職種は魔獣使いです」
「魔獣使い?
聞いた事ないけど…」
「今の所、えーっと…話せる巨大な猫に戦ってもらうしかないけど、魔法を覚えるつもりです」
「猫が戦うの?」
セリュは困惑した表情を浮かべている。
うん、そうだよね!
私もそんな事突然言われても戸惑うわ!
と幸歌は大いに同意するが、如何にも人の良さそうなこの少年を逃す手はない。
ただのカンだが、動物好きそうだし!
「私が乗れるくらい、大きくなれて、強いんです!
私もちゃんと魔法、使えるようになります!」
必死にアピールすると、セリュはやや困ったようにだが、笑って頷いてくれた。
「わかったよ、強い獣を使って戦わせる職種なんだね?
今オレの他に2人いるんだけど全員魔法が得意な職種じゃないから、他のメンバーを探してたんだ。
よかったら君もどうかな?」
「よろしくお願いします!」
即座に頭を下げた。
「待って待って!
すぐ決める前にちょっと聞いて!
その…他の2人はまだ成人してなくて心配で誘ったんだ。
それにまだ全員男なんだけど…
それでも大丈夫かな?」
幸歌の事も慮るように確認する彼は、紛うことなき善人、極度のお人好しのようだ。
心配でパーティーに誘うとは…損得を越えたその姿勢に尊敬すら抱く。
自分も心配されて誘われているとは気づかずに、幸歌はこくこくと頷いた。
「大丈夫です!
いずれ女性も入ってくれたらなあ、とは思いますけど」
正直に告げる。
他2名はまだわからないが、目の前の少年がいる限り、自分だけが女性である事の不都合は、ほとんど心配しなくて良さそうだという確信があった。
それどころか、必要以上に気をつかってくれそうだ。
「わかったよ。
とりあえず他の2人にも会ってみて?
それから全員で決めよう?」
セリュは全員の意見を尊重してパーティーを結成したいようだった。
そう提案されて幸歌は頷く。
「向こうで待ってるから行こう」
促されて掲示板から離れると、人混みから少し離れた位置で待つ福と目が合う。
「あ、あの子が私の猫の福です!」
愛猫に駆け寄り、セリュを振り返り、紹介する。
「確かに大きな猫だね…
猫ってそんなに大きくなるんだ」
「いや、今は普通の状態でもっと大きくなるんですけど…」
「え!?普通?!普通の猫の2倍はない?」
純粋に驚かれてしまう。
確かに福は大型猫でもない雑種なのに、やたらガタイがいいけど…
「失礼な若造だな」
福が不服そうな声を上げた。
「あんたも失礼よ!
福がごめんなさい!」
勢い良く頭を下げるが、セリュはきょとんとした表情を浮かべた。
「え、何が?」
「何って、今福が失礼な事を言ってしまって…」
「オレには、普通に鳴いたようにしか聞こえなかったけど…そうか、君にはわかるのか!
魔獣使いってそうなんだね、すごい!
羨ましいな!」
ひどく感激された。
「まあ…性格は悪くなさそうだ。
それに驚きのピュアピュア野郎!
コイツならまあいいかな」
セリュの様子をじっと見つめて福が謎の審査を下す。
「パーティーメンバーとして認めるって事?」
確認すると福は幸歌に視線を移した。
「まあね。
ねーちゃん1人じゃダメらしいから仕方ない」
「良かった!
こっちは大丈夫みたいです!」
喜び手を叩いて再度セリュを振り返ると、
「ああ、うん…良かったよ」
複雑そうな微妙な笑みを浮かべ頷かれた。
幸歌は理由がわからずに首を傾げた。
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