第13話 愛猫のお陰で報酬を得る

「では次に報酬のお支払についてですが、今回の討伐依頼は大変高額なものとなります。

何しろ騎士団長直々に討伐にいらっしゃっていたほどですから。

正直一括でお渡しするより、こちらで一部お預かりしておいた方が良いのでは、と思っているのですが如何ですか?

勿論どこの冒険者ギルドでも、いつでもお渡しできるようになっております」


そう提案すると、ベロニアは、申し訳なさそうに付け加えた。

「その、バジリスクを討伐された実力はおありなのでしょうが、あなたのような少女が持ち歩かれるのには、少々不安が…

勿論特例と言うわけではなく、どなたでも利用されている制度ですよ?」


「あ、はい、ではそれでお願いします」

高額というのがどの程度なのかわからないが、大金を持ち歩くのはごめんなのでありがたく提案を受け入れる。


「承知しました。

バジリスク討伐報酬は20金エルになります。

いかほどお持ちになりますか?」

尋ねられて幸歌は困ってしまう。

エル、なんて通貨はさっぱりだし、金、とつくからには大きな単位なのだろうけれど、どの程度なのかわからない。


そこでふと思い付く。

「この街の宿泊費の平均はどのくらいですか?

しばらく滞在するのに宿をとろうと思っているんですが」

我ながらいい考えだと思う。

これなら自然に必要経費も知れ、通貨の価値もはかれる。


「そうですね、お一人1週間150エルくらいからですが…サチさんはまだパーティを組まれていないので個室ですよね?

そうすると250エル程度ですね。

食事別の普通の宿の相場ですと」


とすると、1週間後また受け取りに来るとしても、絶対に250エルは必要だ。

食事代や雑費も考えると…どのくらいだろうか。

足りなくて即座に取りに戻るのも恥ずかしいので、切りよく1000エルにしようか、と思うが、1000で単位が変わっている可能性もある。


「じゃあとりあえず…800エルお願いできますか?」

「わかりました。

残り19金200エルお預かりしておきます。

お渡しは受付でお願いします。

冒険者証にお預かり金額の記入も必要になりますので。

では行きましょうか?」


早速立ち上がったベロニアに、空気を読んだ福が幸歌の膝から飛び降りる。

それを待って幸歌も立ち上がり、ベロニアと共に1階へと戻った。


ベロニアは自分のいた受付の前で待つよう幸歌に言うと、受付奥の部屋へと入っていく。

間もなく袋を持ち戻ると、受付に座り、幸歌にそれを渡した。


「800エルです。

ご確認お願いします」

1瞬800枚も数えるのか?とうんざりしかけたが、袋に入っているのは8枚のコインだけだった。

勿論その意匠は日本にいた時には見た事がないものだ。

おそらく、100円硬貨のように、このコイン1枚で100エルなのだろう。


「はい、確かに8枚あります」

中身を取り出し、袋はベロニアに返す。

受け取ったコインは、ショルダータイプの財布に入れる。


「では依頼達成と預り金の登録を行いますので、冒険者証をこちらに。

そのプレートに手を置いて下さいね」


言われた通り冒険者証を渡し、登録の際と同じ水晶板に手を置く。

ベロニアが同じような水晶板の隅に冒険者証を置き、中央に何か記入するような動作を行う。

すると冒険者証に光が走った。


「バジリスク討伐と、預り金の記入を行いました。

内容の確認をお願いします」

言われて自分が手を置いている水晶板を見ると、何かの数字とバジリスク討伐の旨、預り金の金額が確かに表示されていた。

魔法だろうか、凄い技術だ。


「はい、確かに。

ありがとうございます」

「いいえ、こちらこそ本当にありがとうございました。

お陰で冒険者ギルドの面目が保てましたわ」

ベロニアはにっこりと微笑む。

はっきりと口にされた特別丁寧に歓迎されていた理由に、幸歌は苦笑を浮かべてしまう。


「僕のお陰だからね!

そのお金もらえたのも!」

福が両前足を伸ばして幸歌の足に触れ、アピールしてくるので

「はいはい、本当にありがとう」

と応えつつ、伸びきったその長い体を抱き上げる。

「もっと感謝するといいよ!」

抱かれたまま福は得意げに鼻をふんふんと鳴らす。


その様子を見ていたベロニアが、

「本当に普通の猫みたいですね…可愛らしい。

その子がバジリスクを倒したなんて…本当に信じられない」

とため息をつく。


それは幸歌だって全く同じ思いだ。

まさか愛猫が巨大化して、ファンタジー界の強敵、バジリスクをトカゲ呼ばわりして食べてしまうなんて、昨日の自分が聞いたら愉快な夢だね、と笑っておしまいだろうから。


とにかくも、福のお陰で当分の間衣食住に困らなくてすみそうだ。

抱き締めた愛猫を撫でながら、幸歌はほっと息をついた。

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