第12話 愛猫と冒険者になる
「特別に個室を用意しているからそちらをお使いになってね」
おばさんはにこにこと幸歌を見送ってくれた。
「ありがとうございます」
頭を下げて部屋を後にする。
ベロニアに連れられ、また別の、先ほどよりはこじんまりとした部屋へと通された。
テーブルとソファが設置されており、小さな応接室といった雰囲気だ。
互いにソファに座り、福が定位置である幸歌の膝に飛び乗ると、ベロニアは謝罪の言葉を口にした。
「ごめんなさい、あなたの名前、サティカさんではなかったのね」
「あ、はい、サチカ、です。
でもいいんです、発音が難しいようですからサチと呼んで下さい」
「ありがとう、そうさせて頂くわ」
ベロニアはホッとしたように微笑む。
そうすると少し険のある表情が和らぎ、美人さんだなあ、と率直に感じる。
でもきっと、そんな表情男性には見せなくて、恋愛には縁遠い仕事に生きる女性だろうと幸歌は感じる。
正直勿体ない。
「じゃあサチ、冒険者ギルドについて説明するわね」
ベロニアさんの丁寧な説明を要約すると大体以下の通りだ。
ただし、幸歌の理解できた範囲では、ではある。
冒険者ギルドは他国にも存在する。
しかし教育制度まで導入されているのは、ここエレミン王国だけらしい。
というのも、それを設立したのはこの国の騎士団長であるフォルさんだからだ。
冒険者というのは、一攫千金を夢見る荒くれ者が多いイメージだったが、実際には他の職業にはつきづらい孤児や、家督を継げない次男以下がなる事が多いらしい。
そこで困るのが孤児出身の人間だ。
勿論何の戦闘訓練も受けていないし、ろくな装備もない。
それでは一般で受けれる職業斡旋的仕事…草むしりや掃除など、何でも屋的仕事しか受けれない。
それでは成長しない、実入りも少ない。
フォルさんが導入した教育制度のお陰で、助かっている人々は数知れないらしい。
美形だが軽いノリの変わり者、というイメージを改めようと思った幸歌である。
ただ、魔法の素質の高い人間、神の声を聞いた人間…いわゆる神の奇跡的魔法の使える神官さんは貴重なので、魔術結社や、教会が保護する働きは以前からあったらしい。
ただそれも見いだされれば、の話ではある。
話が少し逸れたが、冒険者ギルドは他国にも存在するので、冒険者証は共通して使える。
また、受付に渡せば、これまでの業績…どういった依頼を達成した、失敗したなどの実績が記される魔道具があるため、冒険者が引き受ける依頼が妥当かどうか、判断されるらしい。
つまり、幸歌がこれまでみてきた本やアニメ、ゲームのようなレベルやランクといった、目に見える概念はなく、実力は実績で判断されるもののようだ。
そのため、冒険者証はとてつもなく重要なものとなる。
くれもぐれも紛失しないように、と念を押された。
決して体から離さぬよう、装着できる商品も沢山販売されているから、と購入も勧められる。
また、登録の際本人の情報をしっかりと刻まれているため、他人にはギルドでの利用はできない。
再発行に多額の金銭が必要となるのも、お察しである。
また依頼については、特定の人物や村などが持ち込んだ依頼の他、ギルドが発注する場合もあるらしい。
それらは一般依頼として通常、掲示板に貼り出される。
特別に名指しで依頼される、指名の依頼というものもある。
高名な冒険者や、馴染みの冒険者に依頼したい場合に行われるという。
他、依頼外でも魔物の身体の一部を持ち帰り、証とすれば討伐費が魔物の強さに応じて支払われるらしい。
装備品や食材など、何らかの素材として使われるものを持ち帰れば、それもまた買い取りが行われるとの事だった。
「以上になります。
何か質問はありますか?」
懇切丁寧な説明に、幸歌は首を横に振った。
「いいえ、大丈夫だと思います。
ありがとうございます」
「ではこれよりあなたは正式に冒険者としてギルドに認められました。
おめでとうございます」
にこやかな祝福に、幸歌の胸が仄かな喜びに溢れる。
「ありがとうございます…!」
こうして福の食欲のお陰で、幸歌はあっさりと冒険者として認められることができたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます