第11話 愛猫と冒険者登録する

「すみません、よろしいですか?」

兵士が声をかけると少しあせた色合いの金髪をお団子に結い上げた受付の女性は、目を落としていた何かの冊子から視線を上げた。


「あら、兵士さん。

という事は、例のバジリスクの件かしら」


受付嬢達の中では年かさの方に見える女性は、幸歌の目から見て、できる女感をガンガンに漂わせた、少し近づきがたい印象を与える、きつめの綺麗なお姉さんだ。


「はい、そうです。

こちらがバジリスクを討伐して下さった方です。

冒険者登録もまだされていないそうなので、お手数ですが、報酬とあわせてお願いします」


「承知致しました。

ご案内ご苦労様です。

後は私が受け持たせて頂きますわ」

受付のお姉さんがにこりと笑む。


「よろしくお願いします。

では私はこれで」

それに兵士は頭を下げると、後ろに控えていた幸歌を振り返った。


「あ、ありがとうございました!

お世話になりました!」

慌てて頭を下げる。


「いいえ!

お役に立てて何よりです!

ご活躍お祈りしております」

そう残して去って行く兵士を見送ると、幸歌は受付へと向き直った。


「多村幸歌といいます。

よろしくお願いします」

受付の女性へ頭を下げる。


「ベロニアよ。

ご家名があるのかしら。

タムラサティカさん?」


家名?と一瞬思うが、きっと苗字の事だろう、と幸歌は予想する。

「幸歌が名前です」


「ではお名前で呼ばせて頂くわね、サティカさん。

ご家名でお呼びするのは庶民には慣れていないの」

「はい、お願いします」


頭を下げて了承するが、幸歌、という名前はこの国の人には発音しにくいのか、若干違って聞こえる。

しかし、訂正もしづらい…


「では、報酬をお渡しする前に、冒険者証が必要ですから登録に行きましょう。

今回は私が付き添いますわ」


どうすればいいのか全くわからない幸歌は、ありがたくその申し出を受ける事にする。


「ありがとうございます」

頭を下げると、

「いいのよ。

この街の冒険者ギルドに多大な貢献をして下さったのだから」

ベロニアは微笑んで立ち上がる。


受付台に仕切られた区画から出てきた彼女に案内され、冒険者ギルドの2階へと上がった。

勿論福もついて来る。

「賢いのね」

それを見たベロニアは微笑む。

福は当然だと言わんばかりにつん、と顎を上げてすまして歩く。


広いホール状に受付の仕切りを挟んでどこかに通じる扉のあった1階の構造とはだいぶ違い、2階は廊下の左右にいくつかの部屋が並んでいる。

その中の1室までベロニアは迷いなく歩くと、扉を軽くノックし、開けた。


「バジリスク討伐を達成された方をお連れ致しました」

「ありがとう」

即座に返る応えに、ベロニアは幸歌を振り返えると中に入るよう促す。


「失礼します」

頷いて幸歌はベロニアの開けてくれている扉を潜って、部屋の中へと入った。


「ようこそ、エリストの冒険者ギルドへ!

この度は本当にありがとうございます!」

中へ入るなり、小太りのおばさんが、揉み手をせんばかりの勢いで、幸歌に迫ってきた。


「え、いや、あの…!?」

幸歌の戸惑いに構わず、おばさんは

「さあさ、冒険者証を発行いたしましょうね!

こちらへいらして!」

と幸歌の手をとり、ずいずいと中へと引っ張っていく。


「魔獣使いなんて始めて!

しかもこの街の冒険者では手に負えなかったバジリスクを倒して下さるなんて!

全く素晴らしいわ!

はい、ここに手を置いてね!」


何を言う隙も与えられず、透明な水晶を平たくしたような厚みのあるプレートに手を当てられる。


「まあ、魔法の素質もお持ちなのね!

素晴らしいわ!

でも職種は魔獣使い、と…

ああ、そうそう、その猫…に見える魔獣の登録もしておかなくてはね!

お名前は決まっているのかしら?」

一方的にまくし立てられるが、そこでようやく問いかけが入る。


「あ、福と言います…」

「服?変わったお名前ねえ。」

「いえ、幸福の福です!」

絶対に間違われている!と察して幸歌は素早く訂正する。

愛猫の名前の間違えなんて、絶対に許せる事ではない。


「あなたのお国ではそう表現するの?

よくわからないけれど、洋服でない事はわかったわ。

とりあえずあなたのお名前の下に追加で記入しておくしかないかしらねえ?

魔獣使いなんて始めてだもの」

喋りながらも登録処理をしてくれているのだろう、おばさんもこちらは普通に球状の水晶に手をかざしている。

すると、その手元にある日本の免許証大のカードに光が走り、何やら文字が刻まれていくのが見える。


「サチ、カ・タムラさん?

そしてフクちゃん。

職種、魔獣使い。

登録完了しましたわ」

にこにことおばさんは出来上がったらしいカードを幸歌に手渡してくれる。


ようやくプレートから手を上げた幸歌は静かに感動しつつ、そのカード…冒険者証を受けとる。

この世界の文字は読めないはずだが、猫神様…ではなく、フォルさんのおかげか、なんと書いてあるのか幸歌は理解する事ができた。


名前 サチカ・タムラ

フク

職種 魔獣使い


明記されているのはそれだけだ。

ファンタジーにありがちなレベルやランクなどの記載はない。


「冒険者証やギルドの説明はベロニアにお願いするわね。

私の仕事は登録業務なの」


「わかりました、ありがとうございました!」

発行されたばかりの冒険者証を胸に抱いて、幸歌は深々と頭を下げた。

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