第9話 愛猫と異世界の街を歩く(兵士さんつき)

フォルに釣られて膝の上の愛猫の事も忘れ立ち上がった挙げ句、手の甲に口づけを受け、呆けた幸歌を見上げ、咄嗟に床に降りた福はわうん、と不満げな声をあげた。


「ねーちゃんのくせに生意気な」

「何が!?」


プイッと顔を背けて、福は毛繕いする。

生意気とは愛猫には言われたくない言葉である。

そのままわずかの間何が言いたいんだ、と睨んでいると、コンコン、と控えめなノックの音がした。


「はーい?」

返事をすると扉がほんの少し開かれ、兵士がおずおずと顔を覗かせた。

「騎士団長様からご案内を承った者ですが」

その視線は部屋を落ちつかなげにさ迷っている。

「あ、ありがとうございます。

お願いします」


出口に近づくと、福も毛繕いを止めてついてくる。

こういう面では幸歌は福を信頼している。

昔外出時、外にいた彼がついて来て、コンビニに行くために交通量の多い道路の方へ行こうとしただけで大声で鳴いて注意してくれたくらいだ。

それも複数回。

近所の小学生にギョッとした顔で見られ恥ずかしい思いをしたのは今も忘れられない。


猫にしては忍ばず、僕が通るよ!!と言わんばかりにわざと大きく足音を立てて歩いて来る福を見つけると、兵士はギョッとしたように身を引いた。

あ~…バジリスクを咥えて巨大な姿で現れた福を警戒されていたのか…

察した幸歌は兵士に笑顔で話しかけた。


「大丈夫ですよ、今は普通よりちょっと大きいだけの猫ですから。

お仕事お疲れ様です」

すると兵士は頬を赤らめ、

「い、いえ!自分の職務でありますから!!」

直立不動で敬礼をしてくる。

なんだかちょっと面白い人かもしれない。


福はふーと何故だかため息を吐き、兵士の足元をすり抜け、先に出ていく。

おわっ!?と、兵士は福が通った方の足を上げた。

それを振り返って確認し、意地悪な表情をしている福を見て、幸歌は声に出さずに口だけでめっ!と言った。

また面白くなさそうな顔をする福。


「すみません、案内お願いします」

「あ、はい!」

焦ったように兵士は福をちらちらと確認しつつ、歩きだした。

幸歌が続くと、その後に福もついてくる。

兵士はその順番に少しは安心したのか、やっと前を向いて歩きだした。



★★★



門横の建物を出て、改めて見る異世界の街は石造りの建物が並んでいた。

日本の木造の家とは違う、古いヨーロッパの街並みのような…

ザ・ファンタジー!!

幸歌は内心グッと拳を握る。

門を入ったばかりの大通りのそこは、結構な人通りがあり、やはりここは大きめの街なんだなあと感じさせる。

その人通りを見込んでか、沢山のお店らしき看板を掲げた建物が並んでいる。

中には露天のように店先に商品を並べている店もあり、興味深く眺める。

そういった店は食品や装飾品が多そうな印象だ。

流石異世界、見たことのない野菜か果物かわからない物が並んでいたりする。

バジリスクの討伐報酬を貰った後、見て回るのが楽しみだ。

どこからか漂ってくる肉が焼けるいい匂いにも、絶対に行こう!と心に決める。

そんなきょろきょろタイムもわずか数分。


「ここが冒険者ギルドです」

兵士が立ち止まり、幸歌を振り返った。

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