第7話 愛猫と騎士団長に会う
「ではついてきて頂けますか?」
騎士団長、フォーリル・レスティは幸歌に笑顔を向けると、そう問いかけた。
「はい!」
またもや即座に頷いてしまう幸歌に、愛猫の微妙な表情を浮かべた顔…飼い主以外には認識もできないだろうが…は見えない。
「あ、今降りますので待って下さい!」
慌てて愛猫から降りようとわたわたし、察した福が屈むのに、
「慌てないで。
ゆっくりで大丈夫ですよ」
とフォーリルはあえてだろう、のんびりとした調子で声をかけてくれる。
「ありがとうございます」
ようやく地面に降り立った幸歌は、バジリスクを咥えなおした福を、それを見ないように意識しつつ、促して彼の後に続いた。
道を開けた兵士の間を通り抜け、あからさまに距離をとる人々に頭を下げつつ先を行かせてもらう。
「で、でかい…」
「なんて魔物?」
などと言うヒソヒソ声が耳に痛い。
猫でーす!
これ猫ですからー!!
そうしてアッサリと門をくぐり、幸歌と福は異世界初の街へと辿り着いた。
だが、街の様子を眺めるよりも早く、フォーリル・レスティの
「ではこちらへどうぞ」
の声にすぐに視線を門横の扉に戻された。
推測するに、兵士の詰所や、怪しい人物を尋問したりする部屋がありそうな位置です…
ここに来てようやく内心冷や汗を感じる彼女に、フォーリル・レスティは首をどうしました?と言わんばかりに傾げて、扉を開けて幸歌をエスコートしようとしている。
その笑顔は優しげで、まさにパーフェクト!としか言い様のない紳士的なものだ。
逆らう言葉など幸歌には見つけられない。
「アリガトウゴザイマス…」
そう言って一歩踏み出した所で気づいた。
この扉のサイズ、当然標準的人間サイズであり、今の福では通れない!
「あ、あのすみません、うちの猫が通れないんですが!」
慌てて扉を支えたまま横に立つ騎士団長に訴える。
が、彼は何でもない事のように笑顔を深くした。
「ああ、それなら大丈夫」
その言葉と共にフォーリル・レスティの視線を受けた愛猫は、ふん、と鼻を鳴らすと咥えたバジリスクを下に置いた。
そして見る間に、しゅるしゅると小さくなっていき…普通の猫…よりは二回りほどは大きいが、いつもの見慣れた大きさ、猫と言えるサイズになったのだ。
「元のサイズに戻れるの!?」
驚き叫ぶ幸歌に、
「じゃないとお布団に寝れないじゃん」
すげなく返して胸元の毛繕いをする福である。
うん、そうだネ、毛繕いするならついでに、その胸元にべっとりついたトカゲちゃんの血もキレイにしてネー
二人のやりとりを可笑しそうに眺めていたフォーリル・レスティが再度腰を折って幸歌を促した。
「ではどうぞ、お嬢様」
自分は彼のような美形で立派な人物にお嬢様などと言われるような女性ではないんだけど…
そうくすぐったさを感じつつも、幸歌は促されるままに扉をくぐった。
当然足にじゃれつくように福が続く。
「あ、バジリスクの死体は厳重に処置を頼むよ~」
ついでのように軽い調子で騎士団長が兵士にかけた言葉に、
「僕のご飯!!」
と即座に福が不満の声をあげる。
「もっと美味しいものあげるから、さ?
あのまま置いておくわけにも、持って歩かれるわけにもいかないんだよ~」
バチン、と音がしそうなウインクに仕方なさそうに福は鼻を鳴らす。
向けられたわけでもない幸歌の方が、始めての完璧美貌男性のウインクに、くらくらしそうになった。
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