第6話 愛猫と街につく
まだ日も傾かない頃、街に近づくにつれ、同じ場所を目指すだろう人とボチボチ遭遇し始めた。
みんな福を見るなりギャーと叫んだり腰を抜かしたり、動きを止めて物を落としたりと反応は様々だが、脅かしてしまっているのは間違いないだろう…
何しろ巨大な猫…だけでも十分だろうに、口にバジリスクのオマケつき。
驚かない方が嘘だろう。
ん?そういえば口に咥えたままどうやって話してたんだろう?
疑問に思いつつも、都度
「すみませーん、大丈夫なんでー!」
「ただの猫ですからー!」
と申し訳程度に通行人に声をかけていく。
ああ、せめて皆さんSANチェック…恐怖判定が必要なくらいまでいってないといいんだけど…
心から願わないではいられない幸歌であった。
やがてどんどんと街の門が近づき、中に入ろうと順を待つ人が見えて来て、福は速度を落として歩き始めた。
近くにバジリスクが出ていたせいか、考えていたような行列はなく、その数は少ない。
行商だろうか、立派な馬車とその護衛らしい武器を持った人達が数人いる程度だ。
あまり待たなくても大丈夫そうかも…ホッとしかけた幸歌だったが、入場を待つ人達の悲鳴と、顔色を変えこちらへ向かってくる兵士とおぼしき、揃いの鎧を着た人たちの姿にそれは瞬時に消え失せる。
「な、何者だ!?」
「武器を捨てろ!」
ヒエーと内心悲鳴をあげる。
武器は持っていないので無理な話だったが、とりあえず前者の問いに答える事にする。
両手は敵意はない、とホールドアップだ。
「幸歌と言います
それと愛猫の福です」
空気を読んだのか、バジリスクをドサリとその場に落とし、福がにゃーんと鳴く。
「な、ば、バジリスク?!」
「まさか…!」
ざわざわと兵士がざわめく。
驚きと共にそこに広がっていくのは怯えの感情。
やはりバジリスクはこの世界でも危険な存在なのだろう。
それを屍にして持ってきた相手に相対する恐怖だ。
これは、街に入るのに難儀するかもしれない…
幸歌が空を仰ぎかけた時、耳を疑うイケボ…彼女好みのイケメンボイスが響いた。
「バジリスクを退治して来て下さったんですね」
反射的に視線が向かってしまう。
そこにいたのは、今度は目を疑ってしまうほどの美貌の男性だった。
陽光のような目映いばかりの金髪をゆるく首もとで赤いリボンで結んでいる。
男性なのに赤いリボンであるのに違和感を感じないほど、それは彼に似合っていた。
瞳は彼の性格を表したかのような明るい碧眼。
それは男性の深い慈愛と優しさを示すかのように笑みに細められていた。
高い鼻も、麗しい唇もまさに完璧な配置で、内心幸歌は美の化身…!!と叫び声を上げた。
「騎士団長様!」
声を聞いた兵士達が咄嗟に振り返り道を開ける。
「いや、役職に様はおかしいでしょ」
それに片手をあげ、軽い調子で応じて彼はこちらに近づいてくる。
見れば彼は身綺麗なシャツにズボンのみ…所謂軽装ではあったけれど、腰に剣を帯びていた。
しかし、見た目に反してノリが何となく軽いような…
「この国の騎士団を任されているフォーリル・レスティと申します。
お嬢さん、よろしければお話を伺えますか?」
にっこりと微笑みかけてくる美貌の男性。
幸歌は一も二もなく頷いてしまった。
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