第5話 愛猫の背に乗り街へ向かう

「ちょ、早い、福ー!?」


憧れの愛猫騎乗を果たしたはいいが、モフモフの背中の上で、現在幸歌は振り落とされないように必死であった。

大体、捕まるものが、モフモフの毛しかないのである。

仕事を始め都会で一人暮らしをするようになり、福の脱走を防げるようになってから、彼に首輪は着けていない。

着けていた方が可愛いが、やはり何も着けない方が福はいいだらうし、安全上もやめたのだ。

代わりに勿論迷子チップは埋めさせて貰ったが、今となっては無用の長物である。


「ちょ、福、落ちるってー!?」


舌を噛まないよう必死に叫ぶと、ようやく福は速度を落としてくれた。


「ねーちゃんモヤシすぎ」

「そんな言葉どこで覚えた!?」


またもため息と共に吐かれる言葉に少なからずショックを受ける。

モヤシなのは事実だが、流石に愛する我が子のような福に言われると来るものがある。


「もう街見えて来たからもう少し頑張ってよ」


言われて見れば、微かにそれらしい影が見える。

幸歌の目では、まだはっきりとそれを街と断定できるほどではなかったが、福の目には見えているのだろう。

しかし、そうなると街の近くにバジリスクなんて、随分と危険なモンスターがいたものだ。

この世界、考えていた以上に危険なのかもしれない…。


「わかった、振り落とさないようにお願いねー」


再度しっかりと愛猫の毛を掴ませてもらい、腕と足に力を入れる。

先ほどよりは気をつかって走ってくれているらしい福の背に体を寄せ、やっと少し幸せを感じる。

ああ、モフモフ…

まさか本当に動物騎乗が果たされる日が来るなんて…

振動さえも心地よく感じられる…

うっとりとしかけ、イカン、集中しとかないと落ちる!と自分を戒める幸歌の目に、やっと福が言った影が、ようやくしっかりと見えてきた。


確かにそれは、街のようであった。

きちんと高い壁に周囲を囲まれた、立派な街。

ん?となると見張りの人なんかもいて、入るのに許可が必要だったりする…?

こちとらこの世界来たてで身分証明なんてものは勿論ないし、巨大化した愛猫も一緒である。

背に負うリュックの中身はまだいいとしても(中身の詰め込まれ方に少し疑問を抱かずにはいれないが)、右肩にかけた仕事用の鞄の中身も電子機器で怪しさ満点なのでは?


そして勿論その不安は悲しい事に的中してしまうのだった。

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