第25話 台本(プロット)崩壊……。
半身になりながら地を這うエルフは、少しずつ主人公へと近づいていく。
「あ、あの~」
さすがに主人公はエルフ、そしてモンスター二人に声をかけた。
「お、お願い! 助けて!」
まるで今になって気がついた風にエルフは振り返ると、主人公に向かって助けを請う。
「んあ? なんだてめぇは!」
「俺たちの邪魔をするんじゃねぇ!」
モンスター役二人の口から放たれるすごみは、時代劇で悪役のすごみを肌で感じているゴンベーの心さえ
「あ、いや……あの……その……」
突然、しどろもどろになる主人公。
「おいお前、俺たちを誰だと思っていやがる!」
「俺たちはポコペン大魔王様直属、ダレガ将軍様配下の……」
(意外といい役なんだな。将軍の配下か)
トカゲ男の口上に、ゴンベーはちょっとうらやましくなるが
「ツツイータ大隊長様配下の、エルボ中隊長様配下の、クスグル小隊長様配下の……」
(んん?)
「カンチョ正規兵様配下の子分、コモドと!」
そして狼男は胸張りながら
「ガンスとは俺たちの事よ!」
「「わ~はっはっはっは!」」
(つまり、同心の手下の岡っ引きってわけか。それでも台詞があるからいいなぁ)
「いや、その……あの……」
主人公はなおもうつむき、ぼそぼそと口ずさんでいた。
「なんだおめぇ? もしかしてびびっているのかぁ?」
「仕方ねぇよなぁ! ポコペン大魔王様の名前が出ちまえばなぁ」
「あ! そうそう、そのポコペン大魔王”様”! ぜひお会いしたいんだけど、どうすればいいのかなぁ?」
「んあ?」
予想外の台詞にトカゲ男は絶句する。
「……ひょっとしてお前、ポコペン大魔王様の部下になりたいのかぁ?」
狼男はなんとかアドリブで台詞を紡ぎ出すと
「そうそう、ぜひお近づきになりたいと思ってさ」
「「はぁっ!」」
主人公はあっけらかんな顔でとんでもない言葉を紡ぎ出した。
『えっ!』
世界珠さえも主人公のぶっ飛んだ台詞にほんの一瞬、言葉を失った。
どよめく村人役のエキストラ達。
”ワナビー神の気まぐれで、
”俺たち、殺される役になるのか?”
さすがの村長やベテランのジルも驚きを隠せなかった。
そんな一瞬を見逃さず、エルフは起き上がると誰もいない真横へ駆け出すが
「おっと、そうはいくか!」
トカゲ男はしっぽを伸ばすと、エルフの右足首を絡め取り、そのまま宙吊りに持ち上げた。
「ちょっ! いやぁ~! 見ないでぇ~」
エルフは慌ててスカートの前後ろを押さえるが、それでも白い下着が垣間見えてしまう。
『おおっ! 上手いですね。トカゲ男さんにはボーナスですね』
(いや、そんなのんきでいいのかよ……台本崩壊しているぞ)
「そうか……んじゃお前、俺たちについてきな。正規兵のカンチョ様を紹介してやるからよ」
「エルフの小娘を手土産にすれば、俺たちは正規兵の仲間入りさ。ああ、お前はもっとがんばりな。正規兵になりたければ、自分で獲物を狩るんだな。ひゃっひゃっひゃっ!」
狼男、トカゲ男は何とかアドリブを絞り出しながら、機嫌良く主人公に笑いを飛ばした。
「あの~その女の子はどうなるの?」
主人公の言葉に二人は妖しい笑みを魅せる。
「へっへっへっ! お子ちゃまにはまだ早いぜ」
「エルフの小娘はいい”
それを聞き、再び顔を伏せる主人公。
「おいどうした!?」
「いくぞ!」
二人が背中を見せた瞬間! 主人公は両手の平を二人に向かって突き出すと
『【
と、魔法を唱えた。
「「えっ?」」
「ちょ! あんたぁ!」
『ええっ?』
”ええええええええ!”
モンスター二体+エルフ+世界珠+村人すべてが眼を見開き、村人役はあごを落とさんばかりに絶叫をあげた。
主人公の両の手の平から放たれる二つの炎の玉は、トカゲ男と狼男の背中へ向けて一直線に放たれる!
””ドドォォーーンン!!””
「いやあぁぁぁ~~!」
世界珠いっぱいに映し出される炎の爆発。
煙が晴れると、黒こげになったモンスター二体と、ちぎれたしっぽが脚に絡まったまま地面に突っ伏しているエルフの姿だった。
『う~ん、せっかく戦闘指導の元で主人公との剣劇の練習、魔術指導の下、主人公へ放つ簡単な魔法の練習もしたのですが……すべて無駄になりましたね。エルフの下着が”ごく自然に”チラ見していますからよしとしますか』
「……」
ゴンベー以下、開いた口がふさがらないエキストラ達。
「おお、初めての魔法にしてはよくできたぜ! お~い、だいじょうぶかぁ~?」
顔や服がススまみれになったエルフのほほを、主人公は指でツンツンする。
「んん……」
「お、生きてたか」
何とか起き上がったエルフは、主人公を睨みつけると一気にまくし立てた!
「何考えているのよ! 私が捕まったまま【炎爆】唱えるなんてぇ! 『リザードマン』のしっぽがちぎれたからいいようなものを! 私も黒こげになるところだったのよ!」
『これは……半分ぐらい”
世界珠のツッコミも、固まったエキストラの顔を柔らかくするには至らなかった。
「へぇ~”この世界のトカゲもしっぽがちぎれるんだな”。あ、いやぁ~悪い悪い。よく言うだろ。『味方を騙すにはまず敵から』ってな」
「なによそれ! そんな言葉知らないわよ! どこの世界の言葉よ!」
「あ~俺、この世界の人間じゃないんだ。つい今し方、ここへ『転生』したんだ」
「……えっ! もしかしてアナタ? 長老様がおっしゃっていた『救世主様』?」
「救世主? どうかな? なんか神様っぽいのからポコペン大魔王を倒せとか何とか言われたけど……」
「『この世に危機が訪れる時、異界より現れし転生者が世を救う救世主となろう』」
エルフは神妙な顔で言葉を紡ぎ出すと
「嘘……予言の通りになるなんて」
怒鳴りつける険しい顔から、瞳を”ウルウル”させた乙女の顔へと変化した。
『すばらしいです! 例え演技でもあの顔を向けられる男性は幸せ者です』
(まったくだぜ)
ようやく正気を取り戻したゴンベーは、心の中で親指を立てた。
「あ~とりあえずそのポコペン大魔王とやらを話し合いでなんとかしようと思ったんだけどな。君が生け贄にされそうだったから、とりあえずあの二人を燃やしたんだ」
「そうだったの……あ……ありがとう」
エルフはうつむき加減で、わずかにほほを朱に染めた。
”パチパチパチパチ!”
そんな二人の耳に届けられる拍手の音。
「いやぁ~見事な不意打ちだ。俺様の”策略”すら霞んじまいそうだったぜ」
拍手をしながら現れたのは、盗賊風のエキストラの男だった。
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