第9話 女騎士窮地編
△ △ △
女騎士「くっ! 私を椅子に縛り付けるとは! なにをするつもりだ! 離せえええ!! だ、誰だこのオークは!?」
オーク「ブヒヒヒ……こりゃあいいなぁ。ヤリやすくて助かるぜぇ!」
山賊「くっくっく、だからそいつは俺の仕事仲間だよ、顔ぐらい覚えろ……
そいつはなかなか面白い特技があるやつでなぁ。今日はそいつで遊ぼうと思ったのさ……こう見えてもそいつ、腕のいい美容師なんだぜ?」
オーク「カットが終わったぜ」
女騎士「これが……私……?」
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女騎士「おのれ……この私をどうするつもりだ!」
薄暗い部屋の中で、鎧の女は叫ぶ。流れるような金髪、色素の薄い肌。平素ならば凛々しさと勇敢に満ち溢れたその表情には、今は恐怖と動揺が浮かぶ。
彼女は今、拘束されていた。自由を奪われ、目の前の男に生殺与奪を握られている。
女騎士「答えろ!」
山賊「くっくっく、元気なお嬢さんだな……これは躾がいがありそうだ……」
彼女の自由を奪った男は、黒々とした髭を生やしていた。樽のような体型。目には残虐と嘲笑がある。
女騎士「どのような理不尽に会おうとも、私は屈さない!」
誇り高き女騎士の、孤独な戦いが始まる。
▲ ▲ ▲
騎士「とりあえず撮影場所の住人から情報集めましたけど、
樽体系、中年男、ヒゲ、サングラス、の特徴の人間が女騎士に常に付き添って撮影していたそうです」
騎士団長「それが誘拐犯か。常に一人……もしくはかなりの少人数だと思ったが当たったな」
騎士「根拠は?」
騎士団長「動画には女騎士と撮影者しか基本映っていない。撮影にひとりしかつかないのは恐らくその男しかいないからだ。誰か協力者がいるなら女騎士を外に出すときに手を借りたいところだろう。それをしないのは協力者がいない、もしくは限定的にしか借りられないから」
騎士「えー、撮影場所をマッピングしてみましたが……京都はいってないが名古屋北陸北海道広島埼玉千葉その他……観光どころはだいたい行ってるなぁ」
騎士団長「ふむ。騎士、動画の記録された日時感覚を見てくれ」
騎士「えぇっと……東北やら地方は次の動画までの間隔が長いですね。関東地方近隣は短い間隔で撮れてる」
騎士団長「やはり、か。恐らく拠点は関東、それも近隣に住人があまりいないところだな」
騎士「……なぜそう断定を?」
騎士団長「簡単な話だ。関東から離れた場所は行き来に時間がかかる。それに何日かの宿泊とプラス編集する時間も考えると間隔が伸びるのは当たり前だ。
しかし関東、近場での撮影なら移動時間もかからずに日帰りもできて編集もすぐにできる」
騎士「た、たしかに……」
騎士団長「それぞれの撮影場所から関東方向へ線を引くと……」カキカキ
騎士「あの、団長……?」
騎士団長「ふむ、線の交わり先は埼玉県……秩父か」
騎士団長「埼玉県……秩父……たしかにそれなら動画にやたら山仕事に関するものがあったのも納得できる」
騎士「あの……」
騎士団長「椎茸狩りや竹の子掘りの動画は地名が乗っていない……恐らくアジトもかなり近場で撮影したものだろうな」
騎士団長「樽体系の中年髭男、秩父にいる可能性……これらからさらに犯人像を絞るか……」ブツブツ
騎士「団長! カニカマどうぞ!」ポイッ
騎士団長「はあああああん!!カニおいしいよおお!!」ムシャムシャ
騎士「も、元に戻った……」
△ △ △
女騎士「な、なんだその赤く焼けたナイフは!? それで私を拷問するつもりか!」
山賊「くっくっく、違うな、これはこう使う! これでパルミジャーノレジャーノチーズの塊を削ると!」
女騎士「ああ! 一瞬でチーズが溶けて得も言われぬ芳香が!」
山賊「このトロトロのチーズを蒸したジャガイモの上に乗せて……さあ召し上がれ!」
▲ ▲ ▲
騎士団長「カニおいしい」ムシャムシャ
騎士「それで、犯人に目星はついたんですか」
騎士団長「うーん、動画を見ると女騎士の撮影者への反応はとても自然だ。演技を強制させられているような兆候や虐待を恐れている様子もない。撮影者との信頼関係を築いているように見える……ストックホルム症候群、とは違うな」
騎士団長「どのようにして女騎士とこんな関係を作れた? セックス、あるいは薬物か洗脳……やっぱりこれただの彼氏じゃないの?」
騎士「彼氏だとしたら連絡つかないのがまずおかしいでしょ」
騎士団長「いやぁ女騎士って仕事モテるからねぇ。私も就職仕立ての頃はモテてモテて」
騎士「じゃあなんであんた処女なんだよ……」
騎士団長「そんときはまだ自分を大事にしたほうがいいかなぁって……今めっちゃ後悔してる……
合コンとか行くとさぁ『私、会社員』『僕、公務員』『宇宙海賊さ』『私フリーター』っていう中で『女騎士やってます』っていうと周りの人がみんなこっち向くの」
騎士「今なんか左腕が銃の男いなかった?」
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