第10話 騎士決死編

 ▲ ▲ ▲


騎士団長「誘拐した女騎士をユーチューブ動画に出演させて番組を作る。これは一見すると劇場型犯罪に見える」


騎士「はあ、たしかに女騎士の身の代金など要求する連絡は一切ありませんでしたね」


騎士団長「しかし、動画の内容を見ると女騎士を可愛く、そして丁寧に取ることに集中している。撮影者の声さえろくに入っていない」


騎士「は、はぁ……?」


騎士団長「撮影者自身の主張が無いんだよ。劇場型犯罪とはいわば究極の自己主張。自己を犯罪という方法で訴えかけるのがメインだ。しかし女騎士という存在を撮影することだけがメインになっている」


騎士「えーと」


騎士団長「例えば合間に女騎士への圧力をかけて無理やり撮影しているとすると、その間を編集でカットしなければならない。

しかし動画を見ると不自然な編集点が無い。映像編集の技術もあるが、これは女騎士と良好なコミュニケーションを築いてるからできることだ。

なんだ? なにを目的にしてこの誘拐犯は女騎士を撮影している?」


騎士「あの」


騎士団長「相手にひたすら食事をさせたい性的嗜好者、フィーダーと呼ばれるタイプは極度のいわゆるデブ専であることが多い。女騎士は元々太っておらず、現在の女騎士の体系もそれほど変化がない。太らせる目的ではないんだ。

監禁する目的でもなく、性的嗜好の目的でもない。そして金銭が目的でもない。この誘拐犯の本当の目的は……一体……」ブツブツ


騎士「団長! はいカニカマ!」ポイッ


騎士団長「はあああああん!!カニおいしいよおお!!」ムシャムシャ


騎士「ああ、元に戻った……良かったぁ……怖かったよぉ……!」


 △ △ △


女騎士「おのれぇ! またも私が寝ている間に体を弄ぶとは……! 言え! 私の体に何をした!?」


山賊「くっくっく、無抵抗な美女に、なにをしようとこっちの勝手だろ……? たっぷり楽しませてもらったぜ……

ガサガサのかかとを削ってやったのさあ!」


女騎士「わぁ! ツルッツルになってる!」


 △ △ △


女騎士「おのれ……この私をどうするつもりだ!」 


 薄暗い部屋の中で、鎧の女は叫ぶ。流れるような金髪、色素の薄い肌。平素ならば凛々しさと勇敢に満ち溢れたその表情には、今は恐怖と動揺が浮かぶ。

 彼女は今、拘束されていた。自由を奪われ、目の前の男に生殺与奪を握られている。


女騎士「答えろ!」


山賊「くっくっく、元気なお嬢さんだな……これは躾がいがありそうだ……」


 彼女の自由を奪った男は、黒々とした髭を生やしていた。樽のような体型。目には残虐と嘲笑がある。


女騎士「どのような理不尽に会おうとも、私は屈さない!」


 誇り高き女騎士の、孤独な戦いが始まる。


 ▲ ▲ ▲


騎士団長「ふわああなんか最近騎士が優しいねぇ!」ムシャムシャ


騎士「いやなんか怖くてつい……」


騎士団長「これひょっとして私に恋しちゃった? オフィスラブ到来の予感!?」


騎士「図に乗るなよこのカニカマ女」


騎士団長「うんだから、この犯人は全然主張しないんだよ。女騎士をひたすら可愛く撮ることだけに集中してる」


騎士「ほー」


騎士団長「劇場型犯罪って究極の自己主張なんだよ。でも動画からみると撮影者の主張はない。これはそれとは別のものなんだよ」


騎士「マトモな日本語喋ってる……」


騎士団長「いやぁそれにしても君も男の子だねぇ、巨乳はツラいね!」


騎士「黙れこの年増遊園地」


騎士団長「あれだね、最近の仮面○イダーってやつだね!」


騎士「……なんすかそれ?」


騎士団長「口はそう言っても体は掃除機じゃのう!」


騎士「つまんねぇよ」


騎士団長「とにかく、撮影者……誘拐犯にもう一度メッセージを送ろう。コンタクトを取るんだ」


騎士「でももう他に方法が……」


騎士団長「だからやり方を変えるんだよ。この誘拐犯は女騎士を可愛く撮ることだけにこだわっている。そこが犯人の唯一無二の自己主張だ」


騎士「と、いうと?」


騎士団長「動画を見ると撮影技術や編集、スケジュール管理……おそらくは何らかの映像制作の技術がある。ほぼ単独でこれだけ出来るなんてこの犯人は明らかに素人じゃない。なんらかの職業的経験があるんだろ」


騎士「た、たしかに……」


騎士団長「そういう業界は惰性で入ることはまずない。なんらかの動機や目的があって入るものだ。だから、女騎士がいるかなんてストレートに聞いても答えないよ」


騎士「じゃあなにを」


騎士団長「だから、質問を変えるんだよ。向こうがより求めているものにね」


 △ △ △


女騎士「捕らわれて早数ヶ(以下略


山賊「くっくっく、もうセリフサボるのさえ癖になってるな……今日はスパイスから調合した本格インドカリーだ……チャパティもつけて手で食ってもらう……ん? メールか」


件名・動画の取り方を教えてもらえませんか?


山賊「……ほう」


 ▲ ▲ ▲


騎士団長「この誘拐犯は女騎士という撮影対象を確保している。今更他の人間をアピールしても無駄だ。だから、この誘拐犯がこだわっていることを聞いてあげればいいんだ」


騎士「それで撮影手法を聞いてこいと……?」


騎士団長「必ず何か語りたいことの一つや二つはあるだろうさ。だがそれを封印して撮影することだけに集中している。

だから、それを聞かれれば自ずと彼は答えたくなるに決まってる。教えたくなるんだよ」


騎士「そう、ですかねぇ……」


騎士団長「なお女騎士に手を出している様子は無さそうだから、この誘拐犯は同性愛者の可能性もある。そうなると実際に会う騎士が危険に晒される可能性もあるが」


騎士「ホモなんかに負けない! 絶対に貞操を守る!」


騎士団長「そのときは証拠として撮影しておくから頑張って欲しい」


騎士「何を頑張るんだよふざけんなテメェ」


 ▲ ▲ ▲


騎士(て、いったがなぁ……)


山賊「どうも、連絡受け取りました」


騎士「あ、どうも、初めまして……」


騎士(マジで会えちゃったよ……)



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