対価の時、来たれり(第52回 使用お題「言い訳はしない」「大きな手と小さな手」)

 あなたの大きな手が、わたしの小さな手を握る。

 「どうしてこんなことに…」

 言葉が分からないかのように小首を傾げ、あなたの手をぐっと握り返す。

 あなたには知らずにいてほしい。

 わたしが何をしたのかを。

 あなたと人生を共にしたくて、わたしは魔女と取引をした。

 魔女に処方してもらった若返りの薬で、あなたと同じ齢になってから、あなたの前に現われた。

 ただ、その薬は万能ではない、と魔女には言われていた。

 若返りの薬は、時間を無理矢理遡らせるもの。理(ことわり)を外れた技には反動が必ず返ってくる。突然に薬の作用が消え、止めていた時間は動きだして、暴走する。

 その「時」はいつになるのかは、魔女にも分からない。

 明日なのかも知れないし、十年後になるのかも知れない。あるいは、遡った時点から老いていき、天に召されるまで起こらないかも知れない。

 さらに、暴走した時間がどう動くのかも分からない。

 ひどく若返るのか、ひどく老いるのか、少しだけ若返るのか、少しだけ老いるのか、それは天の采配でしかない。

 それでも若返りを望むのか、とくどいほどに念を押された。

 その「時」が、いま来た。

 わたしの身の上を、あなたは幾度か尋ねてきた。そのたびに、笑ってはぐらかしてきた。

 今度も、言い訳はしないでおく。

 若返りの薬を使ったことを、今も後悔していない。

 あなたにわたしを看取らせずに、わたしがあなたを看取るのなら、これ以上の幸せはないのだから。

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