2019年
ひとつ足りない(第50回 使用お題「一つ足りない」「観覧車」)
何度も、何度も数え直してみた。
でも結果は変わらなかった。
一つ、足りない。
「やっぱり、ない……………」
ぽろりとこぼれた声が震えている。反対側に座る仲間の顔をおそるおそる見上げた。
仲間は険しい顔をして見返してきた。
私たちの乗る観覧車は、もうすぐ一番高いところまで上がる。それまでに持ち込んだ盗聴器に超小型電源を取り付け、シートの隙間に押し込むのが私たちの任務だった。乗り込んだ直後から組み立てを開始したのだけれど、かなり早い段階で私はそれに気がついた。
爆弾と装置をつなぐためのケーブルが、ひとつ足りない。
鞄の中身をシートにひっくり返し、何度も何度も数えた。けれども、足りないものは足りなかった。
仲間は大きく溜息をついてから、電話をかけだした。本部に状況を報告して、指示を請う。
「今日はなにもせずに撤収、だそうだ」
電話を終えた仲間はそう言って、あからさまに舌打ちをする。
それはそうだろう。今日のためにさんざん準備してきたのに、私のミスで全部だめになってしまったのだから。
持ち込んだものを、急いで鞄にしまう。その間、仲間は黙ったままだった。その静けさが突き刺さる。大声で罵倒されるほうがずっとマシだ。
観覧車が地上に戻ってきて、扉が開く。仲間はさっさと立ち上がり、降りていく。
その後を追いかけようとして、気が付く。
仲間が座っていたほうのシートに、探していた短く小さなケーブルが残っていた。
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