定規はじき

さかした

第1話

雨と湿気でじめじめするような季節。こんな時分には、外遊びはもちろん控えるが、室内でも何かと蒸し暑いので、下敷きででも扇ぎたくなる。ああ、冷房や扇風機のある教室ならば関係ないのかもしれないが。

そんな室内でも少しはましに過ごすため、この教室内では同じ筆記具のお仲間である定規を用いた、幾分か特殊な遊びが考案された。


ルールはこうである。

まず、遊ぶ場所として一つ机が用意される。そこに、各参加者が一つ、それぞれの

定規と、シャーペンなどを一本ずつ、持参して参加する。

じゃんけんをして順番を決める。

各自、机上に自前の定規を配置する。

この後定規を順に、シャーペン等を用いて動かすことになるが、

各自1回しか自分の順番のときに触れないので、

この際に、端の方の1カ所に圧力を加え、

跳ねるように移動させる、はじくのがコツである。

また跳ねて移動した後、他の定規の上に乗っかることがある。

この状態を俗に「定規を乗せる」と言い、乗せられた側は

すぐさま自前の定規に触れてはじくことになり、3回以内に乗りかかった定規の下から逃れなければならない。逃れられない場合は

アウトと見なされゲームから退場する。

それ以外にも定規を他の定規にあてて机上から落とすという、ある種の高等テクが要される「定規を退ける」という技もあり、その技あるいは自ら机の上から落ちる自爆如何に関わらず、落ちたらその時点で、これもまた、ゲームからの退場を意味する。このように取り組んで最後まで残った定規の持ち主が勝者となる。


こういうわけであまり馴染みのない人は、三角定規などを用いて参加するが、何度も遊んでいるメンバーは、しだいに文房具に凝り出してくる。やれでかい定規だ、いやしかしでかいのは強いと思ったら全然シャーペンで動きはせん、やれ傾斜がある方が目的地まで跳ねさせやすい、けれども自爆しやすい云々と。

そんなある日のこと。


雨天のため、この定規はじきなるゲームを4人で遊んでいたところ、

1人が声をかけてきた。このメンバーの中では初めてだ。

「ルール知ってる?」

「あ、俺実は経験者なんだ。別のクラスでだけど。」

そう彼は言った。

なるほど、わりと大きくて軽いタイプの定規だ、定規自体は悪くはない。

ちょうど終わった頃合いだったので、すぐさま参加した。

まずはそれぞれが机のどの位置に定規を置くか決める。

四人が隅っこ、一人は大胆にもど真ん中だった。

他に障害物として右側に辞書が配置されている。

先頭から順に定規をはじく。さっそく中央の奴が乗せられた。

いや、定規も大きいしこういう展開になってもおかしくない。

何を考えているのだろうか。

定規が大きい場合、自分の定規を相手に乗せやすい反面、自分もまた

相手に乗せられやすい、という欠点がある。

2回目の打込みでかろうじて難を逃れた。

が続く2番手にも狙われ、あえなく脱落。

「くそ、ちょっと試したかったことがあったんだがな。」

残念、やはりその定規で中央は不利だよ。

それで注目の3番手が、先ほどの彼。

操作性の点ではあまり良いと思えぬ定規を、

いきなり隅のプレイヤー目がけてはじく。

それは若干宙を浮いて見事、狙いの定規の上にのしかかった。

それもうまい具合に。というのは机の中心側のみ覆われていないため、

中心側から他の三方の方向へ向かって逃れないといけないからだ。

隅っこなので自爆しないように。

「ぐわわ。やってしもうた。」

しかしあえなくダウンした。

何やら展開が速い。自分の番が回ってくるまでにすでに二人も脱落している。

自分ははじいてひとまず辞書の上に登ることに成功した。

一巡し、一人乗せて退場させたプレイヤー。

その定規は、例の参加者の上へ。

しかし中心部に乗らなかったこともあって、やんわりかわされてしまう。

続いて例の参加者。勢いよく跳び上がったかと思うと、

それはこちらに向かってきていた。

「ええ!?」

どのように動かせと言うのだろうか。何とすっぽり自分の定規が、

相手の定規に覆われてしまったのだ。

自分は小回りが利く小さな定規を使っていたとはいえ、こんな事態は初めてだ。

「この場合、俺らの方では即アウトなんだが。」

「いや、それじゃあ1回も対応できないけど。」

「じゃあどうやって動かすというのか、考えてみ?」

言葉が出なかった。

「ではこうしよう。もしこのバトルで俺が勝ったら、定規を定規で覆った場合、即アウト。それが嫌だったら誰かほかの人が勝つこと。」

「それで今はどうするの?」

「好きなところを一部はじけるようにしていいとしよう。」

2回目にして何とかはじいて逃れたものの、その後も高確率でその参加者は

定規を定規で覆い、あっという間に敗北。ルールも、彼提案のものが適用されることになってしまった。とんでもなく彼有利なルールだ。

彼以外の全員がへこたれていると、そこへもう一人参加者が。

今度は、他全員が勝った場合は、先ほどの彼のルールを撤廃する、という話を持ち出した。返事はOK。やれるならやってみろということか。大した自信だ。


かくして4人と彼、それに飛び入りの6人でゲームは再開された。

狭くなってきたので机は2台分というのが、ゲーム前に了承された変更だ。

今度もまた、彼は次々と定規をピンポイントに合わせてくる。それに先ほどの新ルールが効いて、一撃必殺を繰り返していた。

そんな彼が守りに転じたのは意外な場面からだった。飛び入りが定規を乗せられたのを、逃れるのではなく乗せ返すという離れ業をしたときに、彼の定規にも一緒に乗ることになったのだ。この場面、乗せられたどちらから動くか。結局は、始めに乗せられた別プレイヤーから動くことに。ただそのプレイヤーはその3回を、逃れるためでなく何と彼の定規を机の上から退けるために使ったのだった。これにはあえなく、彼の定規も床に落ち、その天下無双は1ゲームで幕を下ろした。


上記のように彼は、定規を乗せるプレイを、最後のプレイヤーは、

定規を退けるプレイをしました。

それぞれの人が何がしか自前の定規を持ってプレイしているのです。

あなたなら

定規を乗せる、退ける

どちらを選びますか。

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定規はじき さかした @monokaki36

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