第6話 行ったり来たり

 私は――聖美は現役の女子高生で、年明けには受験も控えている、という設定なのだ。あまり私が配信する機会はなくなっていった。ごくたまに、煩わしいファンどもの欲求を満足させてやるがためだけに、受験勉強でここがわからないなどという放送をすることもあるが、ただひたすら虚しさだけがただよいはじめた。


 以前はそういった放送でチャットが流れて行くと、こいつらほんとに馬鹿だな、といい気になれたものだが、いまとなってはそんなことすらどうでもよくなっていく。


 むしろ、聖美のチャンネルから【妹】のチャンネルへと人が流れていくさまを見ている方が楽しいのだ。そして、逆にこちらに流れ込んできたの相手をするのもまた、楽しいのだ。


「姉がいるなんて一度も聞いてなかった」

「どこの病院なのか教えてほしい」

「何の病気なのかくらいは教えてほしい」


 彼女は自分の名前も名乗らず、病院名も病名も一切言わず、それでも闘病生活を続けていた。そしてこのあと、彼女は孤独に耐えられなくなることなどないだろう、あのチャンネルは、オフライン時でもチャットが賑わうほどの大手に育ってしまったのだから。


――そうだ。私が孤独なんだ。嫉妬しているのかもしれない。ありのままの自分を飾らずに出すだけで、面倒なファンから優しいファンまで引き込める彼女に、私が嫉妬しているのかもしれない。私がありのままの自分で配信などした日には、おそらくアカウントの乗っ取りだといって通報されるであろう。


 配信する気力がどんどんなくなっていくが、彼女に負担をかけまいと、ではなく、毎日配信を続けていた。


 もちろん、受験の合否なども話すつもりではあったのだが、彼女から目を離せないいま、大学生のふりをするのはあまりにリスキーだし、嘘で塗り固めた6年間がぱぁになることを彼女も望まないだろう、そう思い浪人生になることにしていた。

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