第5話 配信再開

 私は友人と2人がかりで、を創った。これまでにないほどの美しさだ。モデル本人の許可を得たことも、原因にあるのだろうか? いままでにないスピードでCGは完成したし、髪の色や髪型で迷うことも一切なかった。


 稼動箇所や稼動域は今までと変わらずだが、本当に自分が描いたモノをプリントアウトした【だけ】だとは思えないほど、素晴らしい出来栄できばえだった。


 早く見せたい、配信したい、そう思いはするものの、不自然な時間帯に配信は……と迷っていたのだが、何も悩むことはない、これまで体調不良という理由で2日半も休んでいたのだ、気分転換で美容室に行ってきたとでも言えば問題ないだろう。


 が、その前に彼女の様子が気になる。ひとまず配信の準備だけしておいて、チャンネルを覗いてみることにした。




 目の前に居る聖美より少し若いくらいの彼女は、あの日買ったウィッグを着けて、病院の敷地内の散歩をしているところだった。


 私はチャットルームに文字を打ち込む。


「お姉ちゃんだけど、元気そうだね」


 彼女はこちらを向いて笑顔で答える。


「こんなんなっちゃったけど、元気だよっ♪」


 言って、ウィッグを取り、舌を出す。――いったい何のためにウィッグを買ったんだ、あの子は。


 と、視聴者が急増し始めた。


 何事だ!? と思ったが、どうやら私の配信再開を待ちわびていた人間が、私が彼女のチャンネルを観ていることに気付いてぞろぞろと後から来たということのようだった。一気に騒がしくなったチャットルームから、誰にでも読み取れる。


「聖美ちゃん、具合悪いって妹さんの面倒見に行ってたとか?」

「2人で配信はしないの?」

「なんの病気?」

「どこの病院? お見舞いに行くよ」


 一気に流れるチャットに、恐らく彼女はおびえてしまったのであろう、配信をストップしてしまい、その日、その後彼女のチャンネルどころか彼女がオンラインになることはなかった。


 私の配信の方では、ご存知の方ももう大勢いらっしゃると思いますが、と前置きしたうえで、必ず2人で配信すると約束しているのでそっとしておいてください、また、妹の様子が気になる方は、チャットルームで騒がずに覗き見してあげてください、と伝えた。


 だと思った聖美を見ても、誰一人として髪型や髪の色などに触れることはなく、今日の配信は終日【妹】の話で終わってしまった。

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