第4話 約束

 少女の方から私に話し掛けてくれたことにより、距離感に悩まずに済むこととなった。


「おじさん、パパの友達でしょ? それ、またロボット作るの?」

「あ、あぁ……ま、まぁ……ロボット? かな?」


 私は言葉に詰まる。何故なら、この子を聖美のモデルにしていることを知っているのは、恐らくこの子の親である、私の友人だけだからだ。


「おじさん、パフェ食べたいなー♪」

「えぇっ!? い、いいのかい?」

「何が? パフェくらいご馳走してよね!」


 子連れでにぎわうカフェへと連れて行かれ、大人でも食べきれないような、コーヒー3杯分はしそうな金額のパフェを注文される。


「おじさんは?」

「あ、あぁ……ぜんざい、ここのぜんざいは美味しいのかな?」

「ここはスイーツ以外もなんでも美味しいよ♪」


 じゃあぜんざいも追加で、と注文したところで、ふと気付いた。今日は平日だ。中学校の試験期間でもない。現に、店内にほかに中学生はいない。開港記念日などでもない。じゃあ、この子は、何故……?


 そんな思いを見透かされたのか、先回りして言われる。


「ねえ、パパから聞いてないの? あたし、闘病中でさ、癌とね。だから、もうすぐウィッグが必要になるんだよ。それで買いに来てたの」

「そ、そっか……大変、だね?」

「ううん、いいの。どうせ、学校行きたくなかったし、ちょうどいい長期休暇だよ♪」


 前向きな子だな、と感心する。私もいまはある意味長期休暇中だが、そんなポジティブな考え方をするにはどうしたらいいのか、ついぞ見当が付かない。ちょうどいい休暇? そんなわけはない、これからが待っていて、そのための買い物をするのに笑顔でいられなかったのを、私はしっかりと見ている。


「そんな大事なときにお父さん借りちゃっても大丈夫かな? 急ぎの案件なんだ。」


 私は平静を装ってそう言った。


「パパは売り買いや貸し借りするモノじゃないよ♪

 パパはいつでもあたしのパパなんだ☆

 だから、遠慮なく、奪っちゃって?」

「あ、あぁ……キミ、頭いいんだね。すごく。それに、心も澄んでる」

「やだ、照れちゃう! パパに言い付けとくね♪」


 そして彼女経由で友人に言伝を頼むことにして、彼女のYouTubeアカウントを聞き出そうとするも、きっぱりと断られてしまった。いや、断られる以前の問題だった。


「――あたし、ほとんど入院中で配信できないもの。連絡先までわかっているひとに、教える必要はないと思う。おじさんのチャンネルは、パパから聞いてるよ」


 なんてこった、聖美のモデルが聖美のチャンネルを知っているだなんて、こんなやりづらいことがあるだろうか!?


「でもね、観てないから安心して、おじさんが変態だなんてこと、誰にも言わないよ♪」

「観てるじゃないかぁぁ……毎日観に来てる、とか、じゃない、よね?」

「さぁね? わかんない☆」


 これはもう、下手な放送はできないな、と苦笑いしながら、ひとつ約束をしてもらうことにした。


「闘病生活が終わったら、妹として一緒に放送に出てもらえないか?」

「喜んで! 闘病生活配信も、考えてはいるけどね?」

「それもいいんじゃないか? ある種、励ましになるかもしれないし、少なくとも、おじさんはそれを観たいと思う」

「じゃあ、おじさん。入院中の妹のチャンネルです、って紹介してくれる?

 それで視聴者が増えるだろうから、それなら頑張れるから、チャンネル教えてあげる」


 年甲斐もなく指切りをして約束した。


・闘病生活中の妹がいることを隠していたことにする

・妹のプライバシーの都合上、名は明かさないが、チャンネルは明かす

・闘病生活が終わったら共演し、2人で配信する


 このみっつだ。

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