第2話 配信
ずっと引きこもりだった私は、もともと持っていた技能である3DCGの技術を駆使して、どこからどう見ても女子高生にしか見えない【聖美】を3Dプリントした。
数少ない友人のうちのひとりに頼み、簡単な動作が可能な程度に改造を施した聖美は、画面の向こう側からは特に違和感もなく女子高生に見えるらしく、それなりに順調に視聴者が増え続けている。
複雑な気分だ。たしかに、聖美を作った技術が凡庸なら、見向きもされなかったチャンネルだろう。そういう意味では、ある種私の技術力の勝利なのだ。しかし、聖美のチャンネルに来る人間は、私に対してはなんの興味もないはずだ。聖美目当てなのだから。
――いつも考えてしまうのは悪い癖だな。いい加減今日も配信しなければ――そう思った瞬間、めまいを起こしてしまった。貧血だろうか。
このまま終わらせてなるものか、私は気力と体力を振り絞って、里美を動かし、喋らせる。
「ごめんなさい、私ちょっと体調悪いみたいで、めまいがしちゃったの。だから今日の配信はおやすみにしてもいいかな?」
チャットルームには「無理しないで」「妊娠か?」「救急車呼ぶ?」などと、思い思いの文字が打たれている。どんどんどんどん、見えないほどのスピードでスクロールしていくチャットを見ながら、私は思った。
――しばらく体調不良で休みということにして、機材を仕入れ、グレードアップさせるべきでは?
聖美は設定上は来年が大学受験なのだ。いつまでもこのままで稼動させるわけにはいかない。とはいえオーバーホールするなら、大学生になってからだ。
面倒だ、と私は思った。
誰も来ないチャットルームで、くたびれた親父でいた方がよかったのではないか、とすら思った。
だが、いまさら、これだけのファンを抱えておきながら、人形でした、そう暴露するだけの気力を、あいにく私は持ち合わせていなかった。
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