第1話 時代

 街行く人々は、みなヘッドフォンをしている。マイクに向かって話しかけている者もいる。何故こんなことになったのか。あんな痛ましい事件があったというのに。


 違うのだ。


 あんな痛ましい事件があったからこそ、政府はインフラの整備やスマートフォン・パソコン・タブレットなどに関する維持費、その他もろもろに投資して、とにかくYouTubeが原因での自殺者さえ出なければ良い、そういった政策に打って出たのだ。


 結果が成功なのか失敗なのかは、我々の知るところではない。政治などというものは、いつだってそういうものなのだ。


――あぁ失礼、私は聖美さとみ、もちろんYouTuberだ……と言いたいところだが、歴史の教科書ではVTuberと呼ばれるモノらしい。


 何故かって?


 聖美のアバターは誰がどう見ても現役の女子高生だろうが、私は――ひきこもり、無職、彼女いない歴=年齢の、ただのしょぼくれた四十代の親父なのだ。子どももいないのにというのも、なんだか不思議な話だが。

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