YouTuberになれなくて - God bless you -

天照てんてる

序章

 一億総LINE時代と言われた時代を過ぎ、みなあちこちのSNSへとまた散らばって行った。2020東京五輪も無事終わり、街は平和になった――かのように見えた。


 後に【YouTube事件】と呼ばれる、あの事件が起きるまでは。



 20世紀からは考えられもしないほど整ったインフラ、特にネットワーク環境とスマートフォンの普及により、一億総YouTuber時代を迎える日も遠くないのでは、と言われていたあの日、それは起こった。


 なんのことはない、なのだが。とはいえ、世間を震撼させたのはその遺書の内容であった。


――楽しみにしていた放送の配信がなかったので、もう生きていけません。


 ただそれだけの内容であった。ただそれだけの、あまりにも小さく、あまりにも大きい遺書であった。



 それから先、似たような自殺は後を絶つことを知らず、配信側は機材に少しでも不調があったらお詫びが炎上してお詫びのループ、視聴者側はスマートフォンの電池切れ・電波の入らない建物での生活などに耐えられない、というストレスフルな社会になっていった。


「昨日どこのチャンネルにいたの?」


 昭和時代に、「昨日何観た?」と訊いたかのように、みなが口を揃えてそう挨拶する時代があった。


――そしてときは一億総YouTuber時代を迎える――

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