あるコンビニ店員の放埒

焚書刊行会

隕石が墜ちるってさ。でっかいのが

 地球のどこかに墜ちる。この際、場所はどうでもいいらしい。どこへ墜ちたって人類が滅亡するのは変わらない。古橋伊知郎が言ってた。誤報道ステーションで。


 22時10分。アへノミクスがどうとかっていうニュースに割り込むようにして隕石接近が報じられた。NASAや国立天文台は事前に知っていたらしい。でも黙っていた。愚民どもに知らせたってどうせムダだから。そっか。じゃあ仕方がない。


 人類は滅びる。古橋いわく、隕石が衝突するのはきょうの23時すぎだってさ。おい。ふざけるな。1時間後じゃねえか。どうしよう。そうだ。イチェローだ。古橋じゃない。鈴木のほう。野球選手の。イチェローに頼んでみたらどうか。打ち返す。隕石を。イチェローならできるかも。わざとバットの芯をはずした打ち方で地球直撃を回避できる。火星木星間へと抜ける1塁打を決めてもらおう。今季は調子よくないけど、ここぞというときに期待を裏切らない男である。イチェローは。


 だめか。無理だな。──あっ! 古橋が汚川絢香アナに襲いかかってる! テーブルの上に押し倒してビリビリと服を破いてるぞっ。あー、やっぱりなあ。いつかこうなるんじゃないかと思っていた。絢香ちゃんカワイイもんなあ。おれだって犯したいよ。しゃぶってもらいたいよ。


 ん? 放送を中止するかと思ったけど、テレビ画面はあいかわらずレイプシーンを映している。ははあ、なるほどー。カメラマンのやつ、古橋が射精を果たしたあとのおこぼれを期待しているんだな。役得だよなあ。絢香ちゃん──やっぱり貧乳だなあ。あれ? ディープキスしてる。絢香ちゃん、まんざらでもない表情を浮かべている。そっかー。ふたりは両想いだったのか。ほっこり。


 さてと。おれも心残りがないようにしておくか。え、おまえは誰だって? おれはフリーターだ。フリーアルバイター。コンビニの深夜シフトで週6日働いている。いいかげん死んだ目をしながら接客するのにも飽きてきたから辞めようと思っていた。と、そんな時に人類が滅亡するっていうイベントが到来したわけだ。やったね。あと1時間で確実に死ぬ。全員。すべては無に帰すわけだ。


 のど渇いたな。どれ、ビールでも飲むかな。おれはレジカウンターを出てドリンクコーナーに向かう。つまみはポテチでいいだろう。一番高いやつにしよう。オリーブオイルで揚げてるやつ。ビールは──いつも宅飲みするときは発泡酒しか買えないけど、きょうはエベスビールだな。えへへ。何ヶ月ぶりだろうか。ぷしゅっ。ごくごく。うめえ。


 ばりばり。なるほど。これがオリーブポテチか。いつも売り場で見かけてたけど1度も食べたことなかったんだよね。なるほど、なるほど。味は普通のポテチとたいして変わらんね。オリーブオイル使ってるから胃もたれはしにくいだろうな。健康にも良さそう。


 うーん。物足りない。フライフードの保温器を見る。フライドチキンやポテトフライしか残っていない。あー、どうしよ。おれのお気に入り、アメリカンドッグの作り置きがなかった。棒に刺したソーセージをホットケーキ生地で包んで揚げたやつ。ビールに良くあうんだよ。どうしよ。自分で作るか。どうせ1時間後には滅びるんだから、拝借してもいいだろ。防犯カメラに映っちゃうけど、そんなの関係ねえ! おれは自由だ。


 おれは冷凍庫からとりだしたアメリカンドッグをフライヤーのなかに投入した。タイマーをセット。楽しみだ。ふぅ、ビールが効いてきた。おれは酒に強くない。350ml缶の半分も飲めば、顔が真っ赤になる。体が火照ってきた。ちょっと涼みたいなあ。


──えへへ、良いこと思いついた。やってみたかったことがあるんだよね。アイスクリームの陳列ケースのなかにもぐりこんで寝そべりたい。どうせあと1時間もしないうちに地球は滅びる。おれは自由だ。ガラガラー。よいしょ……っと。フタをしめてっと。ピシャリ。ふぅ~。ひんやりだぜ~。


 そっかー。隕石のおかげでおれの人生もおしまいかー。死ぬ前に小学校高学年とか中学生の女子とセックルしたかったなー。女子高生となら経験あるんだけど。たしか4万円だった。気持ち良かったなあ。性行為って相手の年齢が下がるほどに背徳感が増して気持ちいいんだよなあ。


 ふぅ。そろそろ寒くなってきた。外に出よう。ガラガラー。どっこいしょっと。あ、そうだ。あとで、週刊少年ジャンピョンをやってみよう。


 ピピピピピッ──お、タイマー音だ。さて、と。仕込んであったアメリカンドッグをフライヤーから取り出さないと。よく油をきってから食おう。ビールのおつまみに最適なんだよなあ、これ。


 もぐもぐ。ごくごく。ふぅ~。ムラムラしてきた。おれは酔っぱらうと勃起する。射精せずにはいられなくなる。オナニーでもしようかな。えっと。そうだなあ。いつものように同僚バイトの制服の匂いでも嗅ぐとするか。うちは時給安いけど、女子高生や女子大生のアルバイトが多いという点で他店に比べて圧倒的なアドバンテージがある。彼女たちって制服を持って帰らないから。そもそも勤務時間が3時間程度だから、洗うのも週1回くらいのようだ。くんかくんか。汗と香水の匂いが混じっているのがたまらない。


 はぁ、はぁ、うっ!──ふぅ。すっきりした。共用のロッカーを漁っていると、たまに替えのパンティがあったりするんだよね。もちろん使用前のやつなんだけど、現役の女子高生や女子大生が何度も使ったやつであり──。


 ところで、おれはオーナーの奥さんと不倫している。あちらは31歳。ふみえちゃん。おれより年下なんだよね。いつバレるかヒヤヒヤしていたけれど、このたび隕石衝突によって人類滅亡の日をめでたく迎えるということで、おれは心の底から安堵せざるをえない。よかったー。そろそろ飽きてたし、ちょうど良かった。


 もぐもぐ。アメリカンドッグ。うまい。ごくごく。エベスビール。多岐川クリトリスも飲んでる銘柄。ふぅ。アルコールはこれくらいでいいかな。飯が食いたい。最期の晩餐だ。とはいうものの、この時間帯にはろくな弁当が残ってないんだよなあ。えっと──やっぱり低価格帯の揚げ物弁当ばっかりだ。イラネ。パスタなんて食いたくないしなあ。ちょっくら近くのセブンドリブンでも行ってこようかなあ。どうせ誰もいないだろうし、選び放題パクり放題だろうし。行ってみるかー。


 テクテク。←徒歩をあらわす擬音。ブーン。←セブンドリブンの自動ドアが動作した擬音。やっぱり。誰もいない。薄情なもんだぜ。アルバイトのおれですら世話になったバイト先の店舗内で最期を迎えようとしているのに。まあ、いいけどね。誰かいたら金払わなきゃいけないし。


 カゴが必要だな。セブンプラチナムのエビチリでも食おうかな。冷凍食品のやつ。とりあえず1つ。お、弁当コーナーにいっぱい残ってる。焼肉弁当がうまそうだな。和牛を使ってるってパッケージに記載されている。2人前もらっていこう。で、1人前のごはんで、2人前分のお肉をオカズにして食う。これ最高。食後のデザートも欲しいな。シュークリームとプリンとロールケーキもらっていこう。


 時計を見る。22時40分。隕石衝突まで、あと30分くらいだ。そっかー。ま、どうでもいいや。射精したせいか、死への恐怖感がうすい。ハイパー賢者タイムというやつだ。なるほど。これって現代人だけじゃないよなあ。たぶん江戸時代の武士なんかは切腹する直前にせんずりしていたのかも。絶対そうだよ。ただし、おなじ射精を伴うからといってセックルはダメだ。未練が残る。


 おでんも食べたいなあ。どれどれ。大根と牛すじとチクワとはんぺんを頂戴する。ホットフードは──からあげ串を2本ばかりもらっていこう。セブンドリブンのやつは旨い。他のコンビニのからあげ串は衣と油ばかりで食えたもんじゃない。


 さてと。袋詰めするのが面倒なのでカゴごと持って帰ることにした。そうだ。コーヒーを一杯だけ。ふぅ。すこし酔いがさめた。飲みながら歩く。そして、おれのコンビニに帰還。女がいた。


「…………」


 見つめあう、おれたち。若い女だ。有名スポーツブランドの臙脂色ジャージを来ている。長そで長ズボン。ショートヘアー。高校生くらいかも。顔は日焼けしているから、運動部に所属しているのだろう。美人というほどではないけれど、すこしだけ本田翼賛会に似ていて、瞳は二重だし、鼻筋も通っている。


 おれは勢いで「おれと、セックルしませんか?」と言った。


 どうせあと30分もしないうちにこの世のすべてが灰燼に帰す。警察や検察はもちろんのこと、民主主義や三権分立すらも無効化する。ならば理性や道徳など捨ててもかまわないはずだ。何人たりともおれを罰することはできない。いま正義と呼べるものがあるとすれば、欲望にしたがう正直さであり、すなわち性と暴力だと思う。


 女はおどろいた様子だったが、口元ほころばせて「えっ……まあ、いいけど」と答えた。貞操観念のカケラも感じさせない反応だった。好きものめ。


「服を脱げ」おれは命じた。「えっ」と驚いていたが、おもむろに女はジャージの上着を脱ぎはじめた。なにごとも機先を制したものが有利である。おれはすばやく全裸になった。「きゃぁっ!」と叫び声をあげられてしまったが、女が立ち去ろうとする様子はない。いきなりのポロリに戸惑ったようだ。22時50分。人類滅亡まで、あと20分。


 深夜のコンビニ店内で向かい合う全裸の男女。若い女と若くない男。コンドームはいらないだろう。「舐めろ」「えっ……でも」そうだな。シャワーを浴びていないからな。おれは陳列棚からアルコールティシューを探してきて、パッケージを開封し、自分でフキフキする。


「舐めろ」再度おれが言うと──この文章はカクヨムで公開されるものだから、これ以上は書けない。垢BANされたくない。


 とにかく、おれは女子高生らしき若い女とコンビニ店内で全裸でセックルをした。途中、正常位でパコパコやるために床に寝転がる必要があったが、あんたも知ってのとおりコンビニの床っていうのは汚れているわけで、仕方がないので売れ残っていた商品の菓子パンを床にばらまいてクッション代わりにする。その上に女を仰向けに寝かせておれたちは汗みどろの媾合を遂げた。


 中に出しました。いいでしょ。どうせみんな死ぬんだから。


 23時5分ごろ。おれは女を殺した。正常位の態勢から体重をかけて首を絞めて殺した。絞殺するときに膣内がキュッと締まるというのは本当だった。おれは死姦することに性交した。セクロス。サクセス。


 23時8分。もうすぐ人類終了の時間である。どうせ死ぬ。だから肝炎を恐れることもない。だからケツファックスを体験してみたいと思った。死体の肛門は緩む。括約筋が活躍しなくなる。うるさいよ。やめた。死ぬ前にクソまみれになるのはイヤだ。


 23時9分。風が強くなりはじめた。入口の自動ドアが意味もなく開閉する。颱風の日なんかによく見られるセンサーの誤作動だ。目を見開いて口元から血の泡をこぼす女の死体。うへえ。きもちわるーい。おれは立ち上がって、自動ドア用のコンセントを抜いた。口元が淫液臭い。舐めすぎちゃった。てへぺろ。レジカウンター内にある洗い場で口をゆすぐ。おれは喉が渇いていた。


── 完 ──

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

あるコンビニ店員の放埒 焚書刊行会 @imagawatatsuya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る