第17話 友達02
「呆れるくらいつまらない会話ね。みやび、高校二年生になってもちっとも変わらない」
「な、なんだよ! どんなことにも流されず己を貫くことはいいことなんだぞ」
「成長しないのと、己を曲げないことは別よ別。みやびは己を曲げないんじゃなくて、女の子への対応方法が分からないお子ちゃまなのよ」
「な、な、なんだと! じゃあ、奈緒こそどうなんだよ! うまいこと言えるのか?」
最近恒例になる奈緒との口喧嘩が始まる。
「今日も春香は綺麗だね? 窓辺の小鳥たちも春香を一目見るために毎日通っているに違いない」
「ちょっと、奈緒ったらそんなこと言わないでよ」
「僕は真実を言ったまでだよ春香。さあ、一緒に屋上でお昼寝をしないかい?」
なんだこの茶番は。奈緒は自分の言葉に分かり易く照れる春香さんの手を握り屋上に向かおうと歩きだすもんだから、僕は深くため息を吐き出し机に腰かけ直した。
「まったく。奈緒、最近興味あるって言ってた演劇のセリフだろそれ? きざ過ぎないか?」
「あ、ばれた? このくらいみやびにも言えるようになってほしいねお姉さんは」
「なんだよお姉さんって」
「今さっき千春がみやびを弟みたいって言ってたわよ。だから、私たちお姉さんが寂しいみやびの青春に色を付けてあげようと思いましてね」
清々するほど上から目線。思わずプライドが砕かれそうになる。でも、二人にはどうやっても恋愛では敵わないので言い返す言葉も見つからない。それが僕という人間である。
「まあ、頼むよ」
「あれ、意外と素直じゃん。どうしたの? あ、も~しかして好きな子でもできた?」
ギクリ。意外と鋭い。さすが僕の幼馴染である。
「す、好きな子ができた? 僕に? 年齢=彼女いない歴の僕にそんなことあるわけないだろ?」
「え、そんなの関係ある? 彼女いないのはみやびが奥手でただ単に告白できないでいままで生きてきたからでしょ?」
「別に好きな子なんてできたことないし、……いままでは……」
確かに告白したことは今まで一度もない。むしろ、好きな子が出来たことも皆無である。と言っても、今は違うので変な言い回しをしてしまい奈緒が怪しげな表情をする。
「なんかさ、みやびとクラス一緒になったからってのもあるかもしれないけどさ。私少しだけ違和感を感じるんだ」
「違和感ってなんだよ」
「一か月前から、今日まで。いや、昇降口で見慣れないハンカチを持っていたみやびを見てから、春香とみやびがこうして話すようになる今日まで」
春香さんの手を引いて席に戻ってきた奈緒は、そのまま春香さんを僕の隣に立たせると某ちびっ子名探偵が見せる「腕組みと顎を指先で掴む推理中」ポーズをして僕と春香さんを見据える。
「ずばりみやびは、春香と親密な関係になりたいんでしょ? ほら、もっとちゃんとした友達になりたいって思ってるんじゃない?」
「はぁ」
覚悟していただけに間抜けな声が出てしまう。
「そうなんですか?」
春香さんは春香さんで妙にうれしそうに僕を見上げてくる。く~可愛いなその上目使い。なんて思って大きく頷いた。
「嬉しい。……、私も雅君ともっと友達になりたいって思ってたずっと……」
「え、どうしたの春香さん……?」
「春香?」
春香さんの瞳から一筋の涙が流れ落ちる。徐々に人数を増すクラスメイトで賑わう教室には不釣り合いで、いままでの会話の流れから理解しがたい事態に僕も奈緒も戸惑う。
「あ、ごめんなさい。目にゴミが入っちゃったみたい! ちょっとトイレに行ってくるね」
「あ、ちょっと春香!」
奈緒が止める前に春香は鞄からポーチを取り出し小走りで教室から出ていき、奈緒もそれを追って教室から出て行ってしまった。
「おいおい! なんだなんだか、モテ男みたいだな雅。オレも奈緒ちゃんとあんな会話してみたいぜ」
「拓哉、みてたのか?」
「ああ、一通りな」
「なんで春香さん泣いたのかな?」
「ん~、さあ、本当に目にゴミはいったんじゃね~の?」
寝坊で遅刻の常習犯である拓哉が登校したってことはもう少しで予鈴がなる時間か。まだまだ出会って一カ月の僕らでは春香の涙の真意は到底わかるはずもない。
「だよな、僕と友達になりたくて泣く女の子がいたら見てみたいものだ」
「ましてや相手はあの学園での一、二を争う美人で才女の春香ちゃんだからな~。でも、雅、お前の気持ちに偽りはないだろ?」
「ああ、この思いだけは嘘じゃない」
「なら、頑張ろうぜ。俺も奈緒ちゃんのこと頑張るからさ」
そう、僕は決めたのだ。この気持ちを春香さんにに告げることを。どんなに時間がかかろうが、どんなに周囲から春香さんと僕とでは不釣り合いだと陰で囁かれても僕は変わると決めたのだ。
「よ~し、そうとなれば計画するぞ! カラオケ行ったりゲーセン行ったり方法は沢山あるぜ」
恋をする。そう言ったのは拓哉であり、そう思っているのは僕である。少しだけでもいい。今の関係より一歩でも踏み込めればいい。そう思って僕と拓哉は四人で出来る遊びの計画を朝のホームルームが始まるぎりぎりまで考えるのであった。
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