第18話 友達



「友達になるって言葉で約束しても、それは友達とは言わないっしょ。友だちってのはどれだけ同じ時間を一緒に過ごしたか、本音をぶつけ合い互いの考えを理解し合ってこそ言える関係だ。それと、一緒に作った楽しい思い出が多いほどその関係はより強固になる。らしいぞ雅!」


「なるほど、たしかに僕と春香さんは奈緒のお陰で友達になれたけど、まだ一緒に遊んだことも本音を言い合ったこともない」


「それに、さんや君つけで呼んでるし、まだまだ俺らが目指す関係とは程遠いな。だから、ここはお互いの利点を生かして攻めようと思う」


「利点?」


「そうだ。俺は正直チャラい。このメンズ雑誌に載ってることはたいていできるくらいにな」



 確かに拓哉は自他ともに認めるチャラさをその言動から醸し出している。毎日愛読している「渋谷系ギャル男のバイブル」と表紙にでかでかと表記された雑誌を楽しそうに捲っているのが印象的だ。



「だから、俺が場を提供し雅は奈緒ちゃんを連れてきてくれれば俺はそれでいいんだ。きっと春香ちゃんも来るぜ。それならお互いのためになるだろ?」


「なるほど! さすが拓哉だ、抜け目がない」


「利用できるモノは利用する。それが恋愛成就の秘訣らしいからな。でも、なんか嫌な言い方だ」



 雑誌に記載されているらしい言葉を紡ぎ、拓哉は嫌悪感を孕んだ視線をそのページに落とす。金髪尖がり頭で貴金属を身にまとったいかにもチャラそうな男の写真がそのページには掲載されていた。ご丁寧に吹き出しで「恋は弱肉強食! 弱者は利用するべし!」ってポップなフォントで書かれている。



「金八先生なら支え合って生きていくのが人間って言いそうなんだけどね。時代が変われば人間の考え方も、それこそ恋愛のしかたも変わるんだな」


「金八先生……。……、それだよそれ! 俺たちは支え合って彼女をゲットしよう」



 おもむろに机からペンを取り出し吹き出しにでかでかと×を書き込むと拓哉は無邪気に笑った。拓哉がそう思うなら僕が拒否する理由はない。むしろ、そっちのがありがたい。どこの誰が友達を利用し合って彼女をゲットし喜び合うと言うんだ。僕はそんなのを友情とは言わないしと友達とは呼べない。



だから、拓哉に僕も満面の笑みを返してやった。



「よし、なら今日の放課後早速二人を誘ってカラオケいこうぜ!」


「か、カラオケか……」


「なんだ苦手なのか?」


「いや、歌うのは好きだけど」



 カラオケくらいなら僕も行ったことがある。例にもれず一緒に行ったことあるのは奈緒とだが、下手とは言われたことがないからそれなりに歌には自信はあるけども。



「緊張して無理とか?」


「ああ、それもある。それに、春香さんがどんな歌を歌うのかも分からない。僕はロックしか聞かないから、「私ジャズやオーケストラしか聞かない」って言われたら……」


「その辺なら任せろ調査済みだ。春香ちゃんは大塚愛、宇多田ヒカル、浜崎あゆみ、miwa、大原櫻子ロック系ならいきものがかりが好きらしい」


「ま、まじか! 大体奈緒と同じじゃないか」



 春香さんの趣味、趣向をまだ良く知らない僕にとって拓哉からの情報は朗報であり、吉報であった。歌の上手さ下手さ、その場の緊張感を除けは、曲のレパートリーは問題ない。カラオケでその辺の歌を好きな女子が身近にいるから。「みやびにこれ歌ってほしい」って学園恋愛ドラマの主題歌にもなった大塚愛、宇多田ヒカルのバラードをせがまれた記憶はまだ新しい。少し希望が見えてきたぞ。 



「よし、イケるな。俺も前もって奈緒ちゃんの好きな曲はリサーチ済みだし、今日は声の出も心配ない気合い入れて放課後を待とうぜ」



 予鈴が鳴り級友が席に着き始め拓哉も雑誌を鞄にしまい前を向いた。



「ありがとう奈緒。私、もう一回頑張るよ」


「うん。きっと大丈夫だよもう。春香、私たちはどんなことがあっても友達だからね」



 背後からそう聞こえ、春香さんがトイレから戻ってきたことに気が付いたが初老の日本史教諭が教室に入ってきて、結局あの涙の詳細は聞けずに終わってしまった。



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