第301話 私たちも短期留学希望(中編)
「それでは準備は良いかのぉ!」
「「はーい!」」
元気の良い若人たちの声が
「みんなー! アメリカに行きたいかぁ!」
「「はっ、はーい!」」
突然何を言い出すこの
「ニューヨークに行きたいかぁ!」
「「はぁ? は~い……」」
「なんじゃ、なんじゃあ。元気が無いのぉ。ニューヨークに行きたいかぁ? と声を掛けられたら、元気よく『おー!』と返事をせんとダメじゃろう」
微妙な反応を示す若者たちを後目に、
『レオニダス様……』
「よぉぉし、もう一回最初から行くぞぉ!」
『レオニダス様!』
そんな喜々とした
ゴシックロリータファッションに身を包む彼女は、全く無表情のままでその
「ん? なんじゃ、クロエよ。今良い所なんじゃ、邪魔をするでない」
一人ノリノリの老人は少し不満げだ。
本来この
しかし、二人とも
次に考えられるのは、リーティア司教。
ただ、彼女は既に
残るは次期剣聖の呼び声も高いアルテミシアと言う事になるのだが、彼女の場合は
クロエにしてみれば、この場にいない事の方が逆に都合が良い。
ただ、アルテミシアの名誉の為に付け加えておくが、武人としては全く申し分ない。
繰り返すも惜しむらくは、
本日は保育所でのアルバイトの日と言う事で、午後には帰って来る予定なのだがいまだ戻る様子は無い。
誰か子供に熱でも出たのか?
まぁ、そんな事はどうでも良い。
とにかく重要なのは、今この場でこの
『レオニダス様、恐れ多くも申し上げます。おそらく若者達はアメリカ横断ウルト〇クイズの事を存じ上げないものと思われます。残念ながらそのコールアンドレスポンスは今時の若者に理解されぬかと……』
……心苦しい。
この様な指摘を行うにしても、アドナであればもっと気の利いた事が言えるのであろうとも思うクロエであった。
堅物であり、面白い事が言えないと言う意味においてはクロエの敬愛するダニエラ大司教とて全く同じ事なのだが、彼女の場合は完全に『天然』であり本人は全くその事を自覚していない。
まぁ『天然』であるが故に、周囲からも暖かく受け入れられると言う事もあるのだろう。
ただ、クロエの場合は逆に空気が読める分、自分の不甲斐ないユーモアのセンスに
『はぁ……』
軽くため息をつきつつ、この
「なんじゃ、そう言う事か。仕方が無いのぉ。これが今時のバブル世代と言うヤツかのぉ」
『さっ……左様で……ござい……ますなぁ……』
それを言うなら『バブル』では無く『ゆとり』世代だろう。少なくとも『バブル』では無いはずだ。と言うか一文字もカブって無いし、文字数しか合って無いじゃないか。しかもバブルなんて一体何年前の話だ? そう考えると、これは
であれば、指摘した方が良いのか? それともスルーした方が良いのか? いやいや、あえてツッコむと言う手も……。
クロエは脳内でどう反応すべきかを必死で考えてみるのだが、自身の中での一般常識が邪魔をして、どうしてもウィットに富んだ
正直ベース、この様なボケなのか、
そんな中、若者達の方から声が。
「うぅぅっ、
正義を始め、全員が寒さに身を震わせている様だ。
いくら小春日和とは言え、外気温は既に十五度を下回っている。
そんな中、リネンのトゥニカやストラに身を包み、スーツケースを引く三人の若者たち。
確かに
『レオニダス様、そろそろ参りませんと……』
「おぉそうか、そうだな。日本は寒いからな。細かい所は向こうに行ってから説明するとしよう」
にも関わらず、全く寒そうに見えないのは流石であるとも言えるのだが。
結局、そんな
「ねぇ、美紗ちゃん。美紗ちゃんは一回行った事があるんでしょ? 本当にこんな格好で大丈夫なの?」
そんな中、正義が美紗に耳打ちをして来る。
実際、真琴も怪訝な表情でその返答を待っている様だ。
「えぇ、行った事があるわよ。向こうはちょうど初夏だから、コートなんかのアウターは不要ね」
「へぇぇぇ。って事はその世界は南半球にあるんだねぇ……って、そうじゃ無くって、このヘンテコな衣装だよ、
軽い乗りツッコミで返して来てはいるけれど、その眼差しは真剣そのもの。
あんまりボケ過ぎると、普段から優しい正義ですら怒りだすかもしれない。
まぁ正義がキレるより先に、絶対真琴がキレるとは思うのだが。
「えぇ、そうね。ちょっと日本だと浮いちゃう感じだけど、向こうだとこれで普通……って所よねぇ」
「えぇぇ。マジか。って言うか、あのお姉さんなんか完全にゴスロリだよね? ゴスロリ衣装も普通なの?」
「あははは。確かにクロエさんはゴスロリだけど、あれば慶太くん家のお手伝いさんの格好なの。クロエさんも、向こうに行けば向こう側の制服に着替えると思うわよ」
「へぇぇぇ。そうなんだ。そう……なんだぁ……」
その
そうこうしている内に、一向は屋敷裏手にある大きな蔵の前へと到着した。
「えぇぇ、オホン。みんながこれから向かうエレトリアは、この真ん中の蔵から入る事になるのじゃ。ちなみに、左の蔵は帝都に通じておるし、右の蔵は何年か前から使えん様になっておってなぁ。そのうち直さねばならんのだが……まぁ、マイアミクルーズから帰って来たらダニエラにでも直してもらうとしようかの。もともと使っておらなんだから特に困ってはおらんのじゃ」
「ねぇ、美紗ぁ」
「ん? なぁに? 真琴」
「私達……友達……だよねぇ……」
「うん、そうだよ。今更何を言い出すのよ真琴ぉ」
「最後にもう一回だけ聞くけどさぁ」
「なによぉ、最後にって。質問があればどうぞ。いつでもお受けしますよ?」
「もう……」
「もう?」
「帰っていい?」
「え? 真琴、何言ってるの? あなたが帰っていい訳無いじゃない。って言うか、どうしてあなたが帰るのよぉ。どうしたの? 何があったの?」
「いやいやいや、美紗。いい加減に目を覚ましな。いったいどういう経緯で、この新興宗教みたいなヤツに
「えぇっ、ちょっと待ってよ真琴」
「さぁ
「ねぇ……真琴ぉ!」
「って、正義ったら、どうして泣いてるの。あなたが泣いちゃダメでしょ。私まで悲しくなっちゃう。うぅん、大丈夫。大丈夫だから。私の事は大丈夫。伊達にスポーツ推薦で大学狙ってた訳じゃ無いのよ。イザとなったら走って逃げる事ぐらい朝飯前。って、正義っ! 泣くんじゃないっ! 男ならしっかりしなっ! よぉぉし、よし。分かったね。良い子だね。正義は良い子だねぇ。本当に良い子で強い子だねぇ。だから泣かないで、私の言う通りにしていれば大丈夫。って言うか、あなたが泣いちゃったら、私まで悲しく……なって……って……うえぇぇぇぇん」
そんな正義と真琴。
終いには二人で抱き合いながら、わんわんと号泣する始末。
「ねぇ、真琴ぉ。折角盛り上がってる所を悪いんだけど。これ、マジなヤツだから。って言うか、新興宗教でも無いし」
「うぇぇぇん、だって美紗がっ、だあって美紗がぁぁぁ!」
「はいはい。大丈夫。大丈夫よ真琴。心配してくれて、ありがとっ! うぅんとぉ、説明するのはちょっとネタバレになっちゃうんだけど、えぇっとねぇ。これ……そうそう、アレよ、アレ。アクティビティだから。そうそう、田舎に出来た、新しいアクティビティの一つなのよぉ!」
「えぇぇぇ? ……あぐでびでえぃ?」
すっかり涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔をしている真琴ちゃん。
「そうそう、アクティビティよ。アクテビティ!」
「って事は……ライド系?」
「まぁ、簡単なライド系って感じだと思ってもらえれば良いわね。大丈夫。すぐに終わるし、終わった後は、みんなでご飯たべながらまた乗るかどうか決めよ? ね? 本当に楽しいんだからぁ。本当よ? めっちゃ楽しいの」
「えぇぇぇ。本当にぃぃ?」
「えぇ、本当に本当!」
「これ……途中で落ちたりしない?」
「落ちる? ……あぁ、バンジー的なヤツかって事? 大丈夫、だいじょうぶ、落ちないよ、落ちたりしないっ!」
「そいじゃぁ……回転しない?」
「回転? あぁ、真琴はスクリューコースター系って、からっきしだもんねぇ。大丈夫よ。回らないから。全然回らないから」
「これ……足が着いてるタイプぅ?」
「足が着いてる? あぁ、はいはいはい。良く足が宙ぶらりんになるコースターってあるよねぇ」
めちゃめちゃ頷く真琴ちゃん。
「大丈夫よ。これ、ちゃんと足が着いてるタイプだから」
「って言うか……コースター系……ヤダ」
「もぉ、ここまで説明して、それぇ? って言うか、誰もコースターだって言って無いでしょ!? うぅんとぉ、どっちかって言うと自分の足で歩いて行く感じ……かな?」
「お化け屋敷的……な感じぃ?」
「そうそう。お化け屋敷、お化け屋敷!」
「あたし……」
「うんうん。どうしたの?」
「あたし……」
「うんうん。真琴は?」
「お化け……」
「うんうん、お化けがどうしたの?」
「……嫌い」
「どっせーい!! お化けなんて出て来やしねーよ。って言うか、結局お化けは嫌いなんじゃねーかよぉぉ! スポーツウーマンのくせにガタガタこまけー事言ってんじゃねーんだよぉ! とにかく黙って、私に付いてくれば良いんだよぉ!!」
最終的にブチ切れる美紗ちゃん。
「「ひぃぃぃ!」」
そのあまりの剣幕に、正義と真琴は互いに抱き合いながらも小さく頷く事しか出来なかった。
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