第256話 御方の所望

 ――ボトッ



Wowうぉっ!



 Wowうぉっ!……じゃねぇよ。こっちがWowうぉっ!だよっ!


 もぉ! 色んな事が一度に起きて、さっきからメッチャドキドキしてんだから、いきなり大声出すのは反則だってっ!



『我への侮辱は、太陽神への侮辱。その罪は万死に値する。ただ……今はお方の御前ゆえ、下賤な者の血で御尊顔を曇らせる訳には行かん。お前はもう良い。ね。そして、話の分かる者を連れて来い!』



 あわあわあわ、アルねーが怒ってる、めっちゃ怒ってる!


 それに、ちょちょちょ、ちょっと待って、待って。


 アルねーったら、かかかかたな握ってるけど?


 そんな物騒な物、いつの間に出したの? って言うか、持ってたの? 最初っから?


 それに、兵隊さんの持ってた弓みたいなヤツ?


 ぷたつじゃん。マジ切れてるじゃん。


 兵隊さんなんか、びっくりした拍子で、尻もち付いちゃってるじゃん!


 あぁ、ほらほら、そんな事するから、別の兵隊さん達まで走って来たよ!


 アルねーったら、ヤバいよ。逃げる? ねぇ逃げるぅ?



『ご無礼を致しましたっ。大変申し訳ございません。兵卒の不始末は上官の責任。この者には後でキツく言い聞かせておきますので、この場は何卒穏便おんびんに……』



『うむ。お前が隊長か?』



『いえ、俺はこの十人隊の副隊長で、バウルと申します』



 って思ってたら、あの兵隊さん、さっきの優男やさおとこさんみたいに、アルねーの前でひざまずいちゃったよ。


 何々なになに? アルねーって、めっちゃ偉い人なの?



『アルテミシア様……』



 えぇ。また誰か来たよぉ。今度は誰? もぉ、登場人物多すぎて、誰が誰だかわかんないよぉ。


 って言うか、今度は女の人と、その後ろにぃ……あわわわわ。


 何? この人? ……ヒト……なの? 熊……じゃないよねぇ。ちゃんと服着てるし。


 もう、デッカイ、通り越しちゃって、スタン〇ドって言うか、書割かきわりみたいになっちゃってるよ、この人。



『お久しぶりでございます、アルテミシア様』



『おぉ……イリニ殿ではござらぬか。いやいや、お久しい。この様な場所で如何いかがなされた?』



『はい実は……。お恥ずかしい話、先日当家から、ミカエラとミランダ、と言う二人の獣人奴隷が逃げ出しまして、その一人をようやく見つけ、捕らえようとしている所にございます』



『……ほっ、ほほぉ……その娘の名は、ミカエラと申すか……』



『はい。……アルテミシア様、如何いかがなされました?』



『あぁ……いや、何でも無い。して、二人は見つかったのか?』



『はい、一名のみ。遠目ではございますが緑の髪が見えましたので、恐らく妹のミランダであると思われます。姉の方は、桃色の髪でして、一体、何処に逃げたやら……』



『そっ、そぉかぁ。逃げたかぁ……』



 ……あぁ、アルねーこっち来た来た。


 ようやく話が付いたのかな?



「アルねー、心配したよぉ。さっきは突然怒り出すし、かたなだって抜いちゃうし、めっちゃびっくりしたんだから。って言うか大丈夫なの? なんだかいっぱい集まって来ちゃったけど?」



 もう何がなにやら。


 大体、会話の内容がサッパリだから、マズいのかどうなのかもわからない。



「あぁ慶太けーちゃん。心配させて申し訳無かったちゃ。大丈夫ながよぉ。なんかねぇ、この前連れて来たミカエラみーちゃんって、どうも他の家の子だったらしくってねぇ。それに、もう一匹おったがみたいでぇ、今その子も見つかったみたいながやちゃ」

(翻訳:あぁ、慶太ちゃん。心配させてごめんなさい。大丈夫ですよ。なんだか、この前連れて来たミカエラちゃんは、どうも他の家の飼い猫だったらしくてね。それに、もう一匹いたみたいで、今、その猫も見つかったみたいですよ)



「あぁ、そうなんだ。それにしては、随分と物々しい人達が集まってるよねぇ」



 俺がそう言うと、アルねーも少し不思議そう。



「そうながやちゃねぇ。連れて帰るだけなら二、三人で良いがんにねぇ。……それより慶太けーちゃん。前に連れて帰っちゃったミカエラみーちゃんどうしよ。このまま持って帰ったら泥棒になってしまうちゃあ、弱ったぁ。どうしよっ? ねぇ慶太けーちゃーん、どうしよぉ?」

(翻訳:そうなんですよ。連れて帰るだけなら、二、三人で良いのですけど。……それよりも慶太ちゃん。前に連れて帰ってしまったミカエラちゃんをどうしたら良いでしょう。このまま連れて帰ったままだと、泥棒になってしまいます。困りました。どうしましょう? ねぇ慶太ちゃん、どうしたら良いですか?」



 そんな事俺に言われても……って言うか、何々? その可愛いおねだりするみたいな目はぁ?


 もう、どんぐりみたいなまる目々めめ、これでもかってぐらいクリクリさせてぇ。


 もぉー、アルねーったら、かーわーいーいーいぃ! 


 どうしたら良いの? ねぇ、どうしたら良いのか言ってごらん、僕で出来る事があれば、何でもするよ!


 って言うか、ミカエラみーちゃん返したく無いのね。もう、自分の子にしたいのねっ!



「どうしようって言われても。えぇ、俺に出来る事があるかなぁ」



 って言ったとたん、アルねーがめっちゃ笑顔にっ!


 はうはうはう! もぉぉ、アルねー天真爛漫てんしんらんまん屈託くったくの無い笑顔が好きっ!


 もう、何でもしちゃう、なんでも許しちゃう!



「ホントにぃ、やったぁ! 慶太けーちゃん、大好きっ! そしたらねぇ。うーんと、慶太けーちゃんが欲しいって事にして、ミカエラみーちゃんもらっちゃおう。そんでもって、姉妹を離れ離れにしておくのも可哀そうだから、もう一匹ももらっちゃおう! そうしよう。そうしよう!」



 そんな事で良いのか? アルねー


 まぁ、アルねーは、猫大好きだからなぁ。よっぽどミカエラみーちゃん気に入ってたんだろうなぁ。


 って言うか、アルねーに“大好きっ!”って言われちゃったよぉ。


 もぉ、“大好きっ!”かぁ。


 うん、うん。良い響きやねぇ。


 男は、女の子のこの一言を聞くためだったら、何でも出来るよねぇ。


 うんうん。



「でも、アルねー、そんな事出来るの? 無理やりもらっちゃ駄目だよ? 泥棒になっちゃうからね」



 そうそう、俺も良い歳をした大人だ。


 むりやりウソをついて持って帰ったのでは、流石にマズいだろう。



「うん、大丈夫やちゃ。だって、あそこの家は、たーくさん、飼っとるから、二匹ぐらいもらったって、絶対に怒らんちゃ。それに、慶太けーちゃんが欲しいって言ったら、大体の人は、何てもくれるがやちゃ。本当ながんぜぇ。大丈夫やちゃ。任せとかれっ! うふふっ」

(翻訳:うん、大丈夫ですよ。だって、あの家は、沢山猫を飼っているのですから、二匹ぐらい貰っても絶対に怒りません。それに、慶太ちゃんが欲しいと言えば、大体の人は何でもくれますよ。本当ですよ。大丈夫ですよ。任せてください。うふふ」



 うーん、そう言う事ならねぇ。


 きっとアルねーは、その家の事を良く知ってるんだろうなぁ。


 確かに、さっきのお姉さんも、アルねーしたし気に話し掛けて来てたし。


 何か、猫のブリーダーでもやってる家なのかなぁ。


 あぁ、そう言う事なら、アルねーと仲良しでも不思議じゃ無いよねぇ。


 って言うか、獣人ネコ娘のブリーダーって。


 あぁ、ちょっと想像すると、怖い様な、羨ましい様な。


 まぁ、こっちの世界の“しきたり”なんかもあるんだろうし、これ以上言っても仕方ないか。


 と言うよりも、最後にアルねーの目が、子供の頃にイタズラを思いついた時のアルねーと一緒だったんだよなぁ。なんだか、な予感がするなぁ。大丈夫かなぁ、アルねー



「それじゃぁ、ちょっと行って話して来るねぇ、あぁそれから途中で声掛けるかもしれないから、その時はぁ……」



 ――ごにょごにょごにょ



 最後に俺の耳元で話をするアルねー


 その後は、満面の笑顔を残して、皆の所に行っちゃった。


 はぁ、大丈夫かなぁ、そんな事で。


 って思ってた矢先さ。



『皆の者、良ぉく聞けいっ! 話は聞いたっ! その獣人二人、馬上の御方が所望されておる。献上せよっ!」



 うわぁ、アルねーぇ。


 やっぱ、なんだか口調が強いぃ。めっちゃ命令的な感じじゃーん。


 ……はぁぁぁ。


 俺は馬上で一人、この後起こる事への不安で、頭を抱える事しか出来なかったんだ。

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