第253話 ヒッチハイク

『美紗ちゃん、みんなつれて来なくて本当に良いの?』



『モンダイナイ、モンダイナイ。ダイジョブ、ダイジョブ』



 とにかく、史上最悪の結末だわっ!


 まぁ、予想通りと言えば、予想通りだったんだけど。


 って事で、一刻を争う展開になっちゃったのよっ!


 あんな神官達チンタラした連中なんて、連れて行けるもんですかっ!



 やっぱり、私のカンは正しかったわっ!


 アル姉様ねーさまったら、慶太君推しじゃないっ!


 さっき、リーちゃんの侍女だって言うマリレナさん……だっけ?


 うん、そう。マリレナさん、マリレナさん。


 彼女に命令お願いして、慶太君の寝室に連れて行ってもらったのよ。


 って言うか、彼女ったら、私の言葉に完全服従。


 どうしちゃったって言うのかしら。


 何しろ、全然私と目を合わせてさえくれないのよ。


 途中で私が何度彼女の顔をのぞき込んでも、ものすごい勢いで顔をそむけるの。


 何度かそうやって遊んでたら、終いに彼女ったら泣き出しちゃって。


 あぁ、そう言えばあの時マリレナさんったら、「後生ごしょうで御座いますっ! もう、堪忍かんにんして下さいませっ!」って日本語で言ってたわよねぇ。


 どこで習ったのかしら、あんな芝居掛しばいがかった言い方。


 ちょっと時代劇の見過ぎって感じ。


 それに、あんなに完璧な欧米系の顔立ちなのに、めちゃめちゃ流暢りゅうちょうな日本語で話されたら、逆にこっちの方が面食めんくらっちゃうわよねぇ


 うふふっ……って、そんな事はどうでも良いのよっ!


 問題はアル姉様ねーさまよ、アル姉様ねーさまっ!


 案の定!


 やっぱりアル姉様ねーさまが一足先に来てたらしくて、今は二人でエレトリアの街に行っちゃった! って言うじゃない!


 うきー!


 どう言う事? どう言う事なの?


 どうしてアル姉様ねーさまが、慶太君を連れ出しちゃう訳?


 あんなに綺麗で、あんなに優しくって、あんなに笑顔がステキで、あんなに……あんなに……あんなに、が、になってるのにぃ!


 どうして、どうして慶太君を連れ出さないとイケない訳?


 信じてたの。私、信じてたのにぃ!



「アル姉様ねーさまのバカー!」



『にゃー!』



 あら、突然の絶叫に、隣を歩いてたミカエラみーちゃんがびっくりしちゃったみたい。


 それはそうよね。


 暗い夜道で、隣の人が突然叫びだしたら、流石の私でも怖いわ。



「あぁ、ごめん、ゴメン。思わず叫んじゃった。てへへへ」



『美紗ちゃん、もー本当にびっくりさせないでっ! 何が起きたのぉ。もぉ! 本当にもぉ!』



 何だか早口でまくし立ててるミカエラみーちゃん


 髪の毛なんか、ホントに逆立さかだっちゃって。


 ……ちょっぴりカワイイ。


 だって、聞いて、聞いてっ!


 良く全身の毛が逆立つ! なーんて言うけど。


 まぁアレは言葉の綾ことばのあやってヤツでね、実際に人の毛が逆立つかって言ったら、ほとんどそんな事は無いものね。


 でも見てみて。ほらほら。


 ミカエラみーちゃんったら、桃色の髪の毛が本当に逆立っちゃってる。


 なんだったら、軽くアフロヘアみたいになっちゃってるぅ。



「うふふふ。かーわいぃ」



 私はミカエラみーちゃんの頭をポンポン。


 そしたら、ミカエラみーちゃんの髪の毛ったら、ふっかふかのモッフモフゥ!



『シャー!』



 おりょりょ。ミカエラみーちゃんったら、ちょっぴりご機嫌ナナメかな?


 ほらほら、そんなに大きくお口を開けるから、キュートな八重歯が見えちゃってますよっ!



「いやーん、ミカエラみーちゃん超カワイィ!」



 もーあんまり可愛いから、私ったら思わず『ギュ!』って抱き絞めちゃった。


 でも待って。


 ミカエラみーちゃんをぎゅーって抱き絞めてたら、だんだん私、落ち着いて来たみたい。


 そうよ。そうなの。


 良く考えたら、アル姉様ねーさまったら、わざわざ慶太君を連れ出す必要なんて無いのよ。


 何だったら、あのまま、あの場所で、及んでも問題無いはず。


 にも関わらず、乗馬でお出掛け……って。


 何か変じゃない?


 そうよ。そう。


 きっと、何か別の用事があったのよ。そうに違い無いわ。


 あらやだ。私ったら、何を勘違いしてたのかしら。


 よくよく考えて見れば、誰にだってわかる事よね。



「はぁぁぁ、心配して損しちゃったぁ……」



 急に安心した所為せいかしら。


 突然全身の力が抜けてしまって、私ったらその場に座り込んでしまったの。



『美紗ちゃん、大丈夫?』



 優しく話し掛けてくれるミカエラみーちゃん



『モンダイナイ、モンダイナイ。ダイジョブ、ダイジョブ』



 ってそうそう。


 ミカエラみーちゃんの最初の質問は、神官達を連れて来なくて大丈夫か? って話だったわよね。


 そう言えば、私が「アル姉様ねーさまを追います!」って言った途端、『神官』って言う人達が何人か出て来て、大司教様が来るまで待てって言うんだものぉ。


 あの時は一刻を争っていた訳だから、そんな悠長な事はしてられなかったのよ。


 だから私、言ってやったの! 「誰も付いて来ないでっ! 今日はおしのびなの。みんな、今日あった事は他言無用よっ!」ってね。


 そしたら、神官の人達ったら、その場で平伏ひれふしたまま、「御意っ!」ですって。


 もー、めっちゃ気持ち良かったぁ。


 何? あの人達、劇団か何かの人なのかなぁ。


 キャストとしては、東京ディズ〇ーランドと良い勝負の演技力よねぇ。


 あれならお客様ゲストとしては、言う事が無いわよね。



「……ん?」



 あー! そう言う事ぉ。そう言う事だったんだぁ。


 私の中で突然のひらめきがっ!


 もー、それならそうと言って欲しかったわねぇ。


 これ、全部作り物って事? そうよね。そう言う事なんでしょ!


 ははぁぁん。ようやく分りました。全部理解致しましたよっと!


 いやぁそれにしても、こんな北陸の片田舎に、全天候型のアミューズメントパークを建設中なんて、全っ然知らなかったわよぉ。


 もう、すごいのなんのって。


 柱や壁、床の隅々すみずみに至るまで、その質感って言ったら、他のテーマパークの比じゃないわねぇ。


 これは間違い無く、お祖母ばー様の投資戦略ね。


 確か、慶太君のお祖母ばー様って、結構有名な投資家だって、正義君に聞いた事があるもの。


 これは売れるわ。


 めっちゃ面白いわよ。


 だって、ゲストが女神様で、キャストさん達が神官って設定。どう考えたって新鮮よね。


 ははーん。


 そう言う事ね。そう言う事なのよね。


 ようやく分ったわ。ミカエラみーちゃんの猫娘コスの理由。


 なぁるほどぉ。


 これだけの品質クオリティを維持する為に、このテーマパークでは、筋金入すじがねいりのコスプレイヤーを集めたって訳なのよね。もしかしたら彼女も、何処かの劇場ハコで、結構名の知れた舞台女優なのかもしれないわねぇ。あぁ、ちょっとミカエラみーちゃんには失礼な事しちゃったかしら?


 でも、安心したら、急に疲れが出てちゃったなぁ。


 だってこの会場、めちゃくちゃ広いのよ。


 しかも、ココって、完全冷暖房完備でしょ?


 北陸は凍てつく寒さだったのに、このは、初夏の様な爽やかな暑さにいるのよね。


 あぁ、だからを通る時に、コートとセーター、それに長靴も預かりますって言われたのかぁ。



「あっ、たっ……」



 そう言えば、ゲートの所でのサンダル借りたんだけど、ちょっと大きさが合わなかったのかなぁ。やーん、靴擦くつずれしちゃったぁ。


 そう言えば、このサンダルも品質が今一歩よねぇ。これだけの品質クオリティのパークなんだから、こう言う所もケチらないで、良い品を用意して欲しい物だわよねぇ。


 ……ははぁん。


 またもや、私、気が付いちゃった。


 そうよね。ゲストは最初からなのか知ってて来る訳だから、サンダルは自前で持ってくるのが基本よね。


 それはそうか。


 それに、わざと品質の悪いものを用意しておいて、きっとパーク内の売店で、可愛いキャラクターのサンダルかなんかを売り出す戦略ね。


 あー、はいはい。


 流石、慶太君のお祖母ばー様。


 しっかり、儲け所は押えてらっしゃる。


 ヤバいわ。このテーマパーク。


 ……売れるっ!


 もー、いつ開園なのかしら。慶太君にお願いして、私もキャストとしてバイトさせてもらえないかなぁ!


 って、あー!


 って事はよ。慶太君もこのパークの企画に参加してるって事?


 そんでもって、ちょっと問題が起きたので、アル姉様ねーさまが緊急で迎えに来たと。


 はははーん。


 もう、全部一致。全て謎は解けました。


 なになに? もー簡単な事じゃなーい。


 確かに公開前だと、なかなか言えないわよねぇ。契約だのなんだの?


 そこは大人の事情……ってヤツよねぇ。


 だから、ダニエラさんもりーちゃんも、あんな回りくどい言い方してたんだぁ。



「ねーミカエラみーちゃん、私、喉乾かわいちゃった。近くに売店とかで飲み物とチュロスって売って無いの?」



 あれ? ミカエラみーちゃんが不思議そうな顔してる。


 あぁそっか。日本語通じないのか。


 そうか、そうか。ミカエラみーちゃんまだ、このパークに来て、間もないのね。


 それじゃあ仕方が無いわよねぇ。



『ミーチャン、ノミモノドリンクアル? チュロス、アル?』



『飲み物? あぁ、喉が渇いたんだぁ。うーんとぉ、水の臭いがするから、多分近くに小川があると思う。ちょっと水を汲んで来るから、ここで待ってて』



 ミカエラみーちゃんったら、満面の笑顔で暗闇の中へと走って行っちゃった。 


 たははは。今度は前半何言ってたのか分からなかったけど、最後は分ったわ。


 うん。ここで待ってる。


 って言うか、やっぱり近くに売店、あるんじゃなぁい。


 と言う事はよ。


 ここまで歩かせて、そろそろ喉が渇いて来た所……って所までは、先読みしてるって事よね。


 となると、次は……乗り物アトラクションね。


 私だったら、この辺りからエレトリアの中心街へ行く様な、何らかの乗り物アトラクションを用意するわね。


 そうねぇ。一番簡単なのは、汽車かバスなんだろうけど。


 ちょっとこの世界観に会わないわよねぇ……どうしたものかしら……。



 ――カタン、カタン。 ギィィー、カタン、カタン。



 そんな事を考えていた矢先。


 私の背後から、車軸しゃじくきしむ様な音が聞こえて来たの。



 ――カタン、カタン。 ギィィー、カタン、カタン。

 


 暗闇の中に薄っすらと浮かびあがる松明たいまつあかり。


 近付くにつれ、その全体像がゆっくりと見えて来たのよ。


 ……馬車?


 ううん。馬車じゃ無いわね。


 かなり小さいな動物が荷車を引いている。


 耳が結構長い……あぁ、あれって、ロバ。ロバね。


 ロバが、おりの様な木枠格子きわくごうしが付いた荷車を引いているみたい。



「かぁぁ! そう来た、そう来たのねぇ!」



 もう、徹底した念の入れよう。しかも、ジャストタイミングの登場。


 払う。私だったら払うわ、運賃っ!


 だって、絶対に乗りたいもの。 


 大人は千円、いえいえ、待ってまって。私なら千五百円でも払うわね。


 そうねぇ。カップルだったら、二人で二千五百円。家族だと三千円で四人まで。って所かしら。


 もう、もうかる予感しかしないわ。


 私は満面の笑みを浮かべながら、手を上げたのよ。



「あぁ、ロバさーん。乗せて下さーい!」



 御者台に座っているのは、とっても優しそうな顔のお兄さん。


 私の顔を見るなり、とっても可愛い笑顔でこう言ったわ。



Hop in!乗って行き来なっ



 ……ほぉら。やっぱりね。

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