第236話 遥名ちゃんの想い

「ねぇ……パパぁ」



「ん? なんだぁ? どしたぁ?」



 高橋家にーちゃんちからの帰り道。


 ちょうどママがお迎えに来た所で、宴会はお開きに。


 アル姉ははだかで踊ってるし、美穂ちゃんは腹抱はらかかえて笑ってるし、ミカエラちゃんは泣いてるし。


 残りの三人は何かコソコソ相談してたみたいだけど、なんだかいつの間にか手を取り合って『Cheer up!チーアップ! (元気出して行こう!)』とか、声あげてたから、まぁ、仲直りしたんだろうねぇ。良かった、よかった。



「ん~? ちょっと聞きたい事があってさぁ」



「ん? なんだぁ。高橋さん家で何かあったかぁ?」



 うーん。『何かあったか?』って聞かれると、『アリもアリ』『アリの大博覧会だいはくらんかい!』なんだけど、高橋家女子会鉄の掟てつのおきてで、その場で聞いた事は、門外不出もんだいふしゅつ他言無用たごんむよう、決して外ではしゃべってはいけません! ……って事なんだよねぇ。


 じゃないと、次から呼んでもらえなくなっちゃうしね。


 だから、細かくは話せないんだけど、自分の事なら良いよね。



「ねぇ、パパぁ。私、慶太にーちゃんのお嫁さんになって、本当に良いんだよねぇ」



「あぁ? どした? やぶからぼうに」



「うぅん。小さい頃から、いつもそう言われてたから、ちょっと確認かくにーん



 パパは慶太にーちゃんパパと町内会の飲み会だったから、今日は助手席に座ってる。運転はママがやってるの。


 ママはあんまり運転が得意じゃ無いし、今日はちょっと雪が降ってるから真剣な顔で前向いてるわね。


 ママ、聞いてても良いけど、今は運転に集中してね。



「そうだなぁ。中山家ウチに女の子が生まれて、高橋さんとこに男の子が生まれたら、必ず嫁に出すって言うのが、お爺ちゃん……あぁ、パパのお爺ちゃんだから、遥名おまえ曽祖父ひいじいちゃんの遺言だからなぁ」



「ふぅ~ん」



「なんだぁ? 慶太くんは嫌いか? パパは結構おススメだぞぉ。顔も結構カッコ良いし、東京の大学に通ってるんだろぉ? 子供の頃から礼儀正しいし、挨拶も欠かさない。意外とだと思うけどなぁ」



 うんうん。パパはそう言うと思ったよ。パパは昔から慶太にーちゃん大好きだもんね。



「それに……って言っちゃあ何だけど、お祖母ばあちゃんは凄い投資家で資産家なんだぞぉ」



「知ってるよぉ。佐伯さん家のお祖母ばあちゃんでしょ? 教会も保育園もお祖母ばあちゃんが社長なんでしょ? あぁ、そうそう。あのおっきな酒蔵さかぐらもお祖母ばあちゃんの系列なんだってねぇ」



 パパが町長選挙に出馬した時も、かなりの寄付をしてくれてたらしいよねぇ。私知ってるんだぁ。



「ねぇパパぁ。それって、政略結婚ってヤツゥ?」



「えっ? ……うーん。そう言う訳じゃあ無いんだよなぁ。だいたい、曽祖父ひいじいちゃんの遺言って言ったら、もう何十年も前の約束だからなぁ。別に、遥名お前がそんな事に縛られる必要は全然無いぞぉ」


「でもなぁ。資産家って言うのは本当だから、まぁ、結構幸せになれるんじゃ無いかなぁ? とは思うな。男親おとこおやなんてものは、大体金持ちの家に娘を嫁に出したいものなんだよ。それが幸せかどうかは分んないけど、何となく……何となく幸せになれそうな気がするものなんだよぉ。なぁ、ママ、そうだろ?」



「くすくすっ……」



 あらあら、ママも聞いてたのかな? 運転しながら笑ってる。


 そっかぁ。パパとしては、一応、私の幸せを思ってくれてたんだねぇ。うん。まぁ、そう言う事ならねぇ。



「うん、わかった。それじゃあさぁ……一つお願いしても良い? 私ね。英会話の勉強がしたいの。英会話教室に通っても良い?」



「おっ、珍しいなぁ。お前から洋服以外のおねだりなんて、初めてじゃ無いかぁ?」



「ん、もぉ、パパァ、混ぜっ返さないでよぉ」



 パパったら結構飲んで来たみたいだから、『おねだり』チャンスよ。



「あぁ、ごめんごめん。にしても、今行ってる塾じゃ駄目なのか?」



「あぁ、うん。受験用のヤツじゃ無くて、普通の英会話が出来る様になりたいの」



「へぇ、そうか。いや、別に構わんよ。と言うか、ダニエラさんにお願いした方が良いんじゃないのか? あの人、英語ペラペラだぞ?」



「あぁ、うーんとぉ、えぇぇっとぉ……ちゃんと勉強してぇ、ダニエラさんをビックリさせたいと思ってさぁ」



 くっ、飲んでる割には、パパったら鋭いわね。確かにダニエラさんは私の家庭教師なんだけど、こればっかりは、ダニーに頼む訳には行かないの。


 何しろ、これから恋敵こいがたきになるダニエラさんに、英語を教わる訳には行かないもの。


 そう、これまで通り、英語はちょっと苦手……な感じを装いつつ、しっかりみんなが何を言っているのか、分る様にならなくちゃね。


 そうでないと、あれだけの人達を出し抜く事なんて出来ないものね。



「そぉかぁ。それじゃぁ良いぞぉ。好きな所を選びなさい」



「わぁ、パパァ、ありがとぉ!」



 ――チュ!



「でへへへへ」



 はい、完了ミッションコンプリート


 飲んでる時のパパはチョロいわね。うふふふ。


 さてさて、そうと決まれば、急いで対策を練らないと駄目ね。


 まぁ、ダニエラさんはちょっとお姉さんだから、大丈夫でしょ。


 美紗ちゃんは、あの幼児体形でしょ。これは論外ね。


 問題はリーちゃんだけど、あそこまで天然だとちょっと慶太にーちゃんの奥様は務まらないと思うんだ。


 そして、最大の切り札は曽祖父ひーじーちゃんの遺言。


 この話は、毎回飲み会の席で、ウチのパパから、慶太にーちゃんパパにすり込み済。


 既に、内々では合意が取れているのよ。


 後は、私が成人すれば、晴れて『婚約こんやく』って事になってるの。


 あの三人には悪いけど、親が決めた許嫁いいなずけなんですものぉ。仕方が無いわよね。



「さぁ、私、頑張るわよっ!」



「おいおい、気合入ってるなぁ。今日は高橋さん所でごはん食べて来て、正解だったな。はははは」



 正解も正解。大正解よ。


『敵を知り、己を知れば、百戦危うからず』


 間違いなく私が、慶太にーちゃんのお嫁さんの座を射止めてみせるわっ。

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