第200話 姉弟子の務め

 一方、馬小屋へと向かったストラトス少年。


 昼間に吹いていた強い風はすっかりと止み、満天の星が馬小屋までの道のりを淡く静かに照らしてくれる。


 そして、馬小屋の前へと到着した少年は、扉の前でしばし逡巡しゅんじゅんのち、大きく深呼吸。


 意を決したかの様に一つ頷くと、そっと中の様子をうかがい始めたのである。



 小さく開けた扉の隙間すきまから差し込む月明かり。


 幸いな事に、その僅かな光だけでも、十分に馬小屋の中を見通す事が出来そうだ。



 そして、目的のは、直ぐに見つかった。


 彼女は、うずたかく積まれたわらの中で、マントに包まりながら眠っている様子だ。



姉弟子あねでし様、姉弟子あねでし様っ!」



 扉の陰から顔だけを覗かせ、彼女へと声を掛けるストラトス。



「ん? なんだ。弟弟子ストラトスか。馬を狙ってオオカミが来たのかと思ったぞ。どうした? 何か用か?」



 藁束わらたばの中でゆっくりと身を起こす彼女。その手にはしっかりと大刀ロングソードが握られている。



「あぁ。いえ。そのぉ。……えぇっとぉ。用事って言うかぁ……あのぉ……」



 全く要領ようりょうないストラトス。



「なんだ? 用が無いなら、もう寝るぞ。お前ももう寝ろ」



 いい加減かげんしびれを切らした彼女。


 もう一度マントに包まって横になろうとし始めてしまった。



「あぁっ! あのぉ。おおお、お願いがございますっ、姉弟子あねでし様っ!」



 最後の勇気を振り絞り、なんだったら酒の力を最大限に借りた上で、ようやく話を切り出し始める。



「じっ実は、姉弟子あねでし様がとっても良い匂いがするものですから、僕の股間がぎゅーっとなって、そんでもって、お師匠様に聞いたら、姉弟子あねでし様に一本抜いてもらえって言われて、そうじゃないと爆発するらしくって、そうなったら大変で、もう、すんごく大変になっちゃうので、なんとか、なんとか一本お願いしますっ!」



 中々に鬼気迫ききせま形相ぎょうそう少年ストラトス


 そんな彼の様子を、呆気あっけに取られた顔で眺める彼女アルテミシア


 十五にしては、かなり恵まれた体格を持つ少年である。


 モジモジと扉の陰に半身を隠しているものの、彼の股間から屹立きつりつしている大刀ロングソードは、彼女の方からも十分に見て取る事が出来たのである。



「あっ、あぁ……そうか。うん、そうだな。分かった。そう言う事なら仕方が無いな。それでは、私が何とかしてやろう」



 少し恥ずかしそうに俯きながらも、小さくうなずく彼女。



「あっ、ありがとうございますっ!」



「いやいや、そう、真正面ましょうめんから礼を言われると照れるなぁ。まぁ、これでもお前の姉弟子あねでしではあるからなぁ。かわいい弟弟子お前の頼みとあらば、断る訳にも行くまい」



 そう言いながら、今まさに包まろうとしていたマントを大きくはだけてみせる。


 すると、妖しげに青白く輝く彼女の上腿じょうたいあらわに。



「あっ、姉弟子あねでし様っ! さささ、触っても?」



「あぁ、もちろんだ。多少手荒にしても構わんぞ」



 そう言いながら、いまわらの中に寝そべったままの彼女。



「しかしなぁ、ストラトス。こう言うは、相手に気付かれぬ様、忍び込んで来るのが礼儀だと思うがなぁ……」



「はっ、はいっ! すみません。姉弟子あねでし様っ! 次はこっそりと入って参ります。何分、僕も初めての事で、どうして良いやらわからず……」



 人一倍大きな体を小さくまるめ、申し訳無さそうに彼女の前へと進み出る少年。



「はははっ、何を言う。わたしも初めての事だ。構わん、気にせずに来いっ」



 そう言いながら大きく手を広げる彼女。



「ははははいっ! それでは、失礼しまっす!」



「うきー!!」



 雪深い山間やまあいに響き渡る少年の雄叫び。


 その愉悦ゆえつとも驚嘆きょうたんとも取れる少年の叫び声は、凛と澄み切った夜の空気をこれでもかと切り裂いて行くのであった。

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