第41話 二人きりの部屋
「……やっと……二人きりになれましたね……」
少し憂いを帯びたリーティアの声。
ここは、来客があった時なんかに使われる、応接室の様な部屋なんだろう。
本来であれば、来客が入室する前に、侍女たちが明かり取り用の天窓を開放したり、燭台に火をともしたりと、部屋の照明を確保するんだろうけど、今回はリーティアが侍女達を締め出してしまったから、まだ室内は薄暗いままだ。
リーティアは扉を背に、後ろ手で扉を押さえたままで、少し俯いてる。
「……皇子様が悪いのですよっ」
少し拗ねた言い方で、急に俺を『悪者』にして来るリーティア。俺にはその真意が掴めない。
「あぁ、ごめん。ごめん。でも、どうしちゃったのリーティア」
ちょっといつもと様子の違うリーティアに戸惑う俺。
でも本当はわかってる。これはリーティアのちょっとした照れ隠しなんだね。
――少し意地悪してみようかな?
「あぁ、部屋が暗いね。窓でも開けようか」
本当は、このままの方が良いんだけど……。ちょっとリーティアの反応を探ってみたくて。
「いっいえ。窓は開けないで下さい。……ちょっと……恥ずかしいので……」
言葉の最後の方は、消え入る様に話すリーティア。
室内は薄暗く、リーティアの表情を見る事は出来ないけど、彼女の息遣いは少し荒くなっている様に感じる。
――間違いない。リーティアも同じ気持ちなんだ……。
――ゴクッ。……俺は生唾を飲み込む。
俺が中学生や高校生ならいざ知らず、もう齡二十一歳の大人だ。
こういうシチュエーションになった時に、この後どうなるのか? ぐらいは十分わきまえているつもりさ。
俺が、いったいどれだけの『その手』のラノベやアニメに投資したと思っているんだい?
おそらく俺の知識量は、現在の世界の石油備蓄量と大差無いぐらいに、蓄積されている事だろう。
しかも、毎時、毎秒、新しい油田が発見され、それらはすべて
しかし、そこで生成された石油は備蓄されるばかりで、どこにも外販する事が出来ないでいる。
だが、ここに来て、とうとう『出荷先』が見つかったんだ。
もう熟成に熟成を重ねた最高級品燃料だ。やろうと思えば、ロケットだって飛ばせるかもしれない。
そんな大量の備蓄経験から判断すると、大体こう言う場合の『正義の味方系主人公』は、わざと場を白けさせる様な言動を行う場合が多い。
……いや、ほぼ『全て』と言っていいだろう。(情報元:俺の備蓄内調べ)
俺に言わせれば、「はっは~ん? 何それ?」だ。
もちろん、そうでもしないと、いきなり『あんな事』や『こんな事』をシテしまっては、あっと言う間に官能小説になってしまう。
そんなもん、作者の都合であり、商業主義による事実の曲解に過ぎない。
それはあたかも、オリンピックでのメイン競技が、大手スポンサーの意向に沿う形で、試合開始時間を変更されてしまう様に、本来のスポーツの大義名分や趣旨志向に反しているとしか言いようがない。
だいたいなんで、陸上100m決勝をそんな真昼間にやるんだよ。
ア〇リカのゴールデンタイム? 俺の知った事か! まぁ、チケット高すぎて買えなかったけどなっ!
……全く持ってけしからん。
では現実ではどうするのか?
そうさ。さっきも言ったけど、『据え膳食わぬは男の恥』
きっちり頂くものは頂いてしまいましょう。世の中は、きっとそう言う風に出来ている。
この期に及んで、自ら場の雰囲気を壊すヤツなんて絶対にいない。いる訳がない!
それは、俺がいくら童貞だとしても、その程度の判断ぐらいは出来るさ!
『作者』の意向? そんなもん知った事か! R15? 俺には関係無いね! 俺はここでヤル。絶対にヤル。それこそが現実であり、リアルだ。
「ヤレる男に俺はなる!」
「……はぃ? どうされました?」
俺が「ワンピ〇ス」の有名な主人公の様に、突然『心の叫び』を口にしたのに驚いたのか、リーティアが思わず問いかけて来た。
――やべーやべー。折角の良い雰囲気がぶち壊しだぁ。
うーん恐ろしい、
覚えておけよ『作者』ぁ。とてもR15で書けない様な事してやるからなぁ。げへへへへ。
俺はそんなテンプレに負けたりしない。……きっちり仕事、務めさせていただきます!
「……あぁ、うん。なんでもないよ」
「それより、リーティア……こっちにおいで」
おいおいおい! 俺がこんな事言う時が訪れようとは予想だにして無かったなぁ。
美少女に向かって『こっちにおいで』だって。ぷぷー。俺どうしちゃったんだろう?
いやいや、焦るな、俺。ここは大人である俺がリードするんだ。
彼女に恥をかかせるなんてあり得ない。大人の男性をイメージして、エスコートするんだ。
俺ならやれる。俺ならできる!……海賊王に俺は……ってこのくだりはもう良っか。
そうして俺は、作者の見えざる手を振りほどき、リーティアを招き寄せたんだ。
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