第18話 お仕置きっ!(後編)
……怖いっ。本当に怖いっ!
当然、私はこれまでの一部始終を、包み隠さずお話しする事にしたわ。
途中で白い悪魔は「嘘っ!」とか、「信じられないっ!」とか、「あの皇子様がっ!」とか……。
独りでぶつぶつ言いつつも、結局最後まで私の話を聞いてくれたのよ。
でも、さすがに「嘘っ!」って言われた時は少しちびったわ。……すっ、すこしだけよっ!
だけど、何がこの白い悪魔の琴線に触れるのかわからない。ここは正直に話すしか無かったのよ。
すべてを聞き終えてから、彼女は、自分自身にもう一度納得させるかの様に、私に問い掛けて来たの。
「もう一度確認するわね」
「まずあなたは、皇子様に呼ばれて、皇子様の褥に入った」
「まぁ、これは皇子様のご指示ですから、仕方が無いでしょう。」
「問題はその次よっ。あなたは皇子様の……そのぉ……かっ……かっかっつ下腹部を、その舌で、こともあろうに、なめなめ……舐めたのよねっ!」
……はて? 何を、そんなに慌ててるんだろう? 夜伽衆がご主人様の褥に呼ばれたんだから、当たり前の事じゃないの?
「はい。その通りです」
ここでそんな突っ込みを入れる勇気なんてある訳も無く、素直に返答する私。
「そっそれで! それ以外に皇子様に触れた所はあるの?」
「いやー、皇子様から抱きしめられていただけで、特に触ったところはぁ……? あぁ、頭をなでなでしましたです。はい」
もう一度良く思い返して、最後に頭をなでなでした事を思い出す。
「あっ頭をなでなでですって! まだ私ですら一回しか
「もう、いったいどうしてくれようかしらっ!」
えぇぇぇぇっ、ちょくちょく怖い事言うのやめてもらえないかしら。その度に本気で漏らしそうになるの!
だいたい、
暫く自分を落ち着かせつつ、さらに思案しているかの様に黙っていた白い悪魔は、おもむろに私の両目を見据えて話し始めたわ。
「よぉくわかったわ……」
「これよりあなたへの
えぇぇっ! うそぉん、いつのまに裁判になってたの? 完全に私刑じゃない! リンチよリンチッ!
「まず、皇子様を舐めたその舌。存在そのものが許せません。よって、切断した上でクレイモア火山の火口に投げ捨てる事とします」
えぇぇっ! えっ、えっ、私の舌切られちゃうの? マジマジマジッ!
私の心臓がとち狂った様な速度で鼓動を始める。
「次にその右手は、すべての皮を剥いだ上で、やはりクレイモア火山の火口に投げ捨てる事とします」
えぇぇっ! えっ、えっ、手の皮も剥がされちゃうの? しかもまた火口に捨てるの? どんだけ火山が大好きなのっ?
……はぁ、終わった。私の人生ここで終了した。でも、私はすでに天に召された身だから……ってこのくだり、もう良いわっ!
私は絶望に打ちひしがれ、平伏したまま微動だにする事が出来ない。
……本気でヤバイ時って、涙も出ないんだなぁ。
もう思考が定まらない頭で、どうでも良い突っ込みを考えていると、横から天使の声が聞こえてきたのよ。
「リーちゃん。ダメだよ。それじゃあ動物虐待じゃん。動物愛護法に引っかかっちゃうよ」
うぉぉぉぉ起死回生の一発っ! ご主人様が助け舟を出してくれたっ!
「でも、アル姉、皇子様に触れるなど、万死に値するのですよっ!」
おいおい、まだ言うのかっ? ご主人様が助けてやれって言うんだから、助けてやろうよっ!
「まぁまぁ、リーちゃん。そんな事言ったら、みーちゃん1号なんて、いつも皇子様をなめ回してるよ」
「だから、2号も許してやろうよぉ」
そうそう、許してやろうよぉ。……って、私、“みーちゃん2号”って呼ばれてるの? それはそれでショーックッ!
白い悪魔は、ご主人様の説得に「まぁ、確かにそうかも?」とか言いながら、少し納得した様子。
「うーん、でもやっぱりみーちゃん2号は、なんとなく許せません!」
なんなの? そのなんとなくって感想。そんなんで舌切っちゃって良いの? 本当に良いの?
「まぁ、舌を切るのはちょっと可哀そうなので、それじゃあ魔法で、何を食べても“イガイガの実”の味がする様にしまーす。
それから、その右手も、ずーっと“イガイガの実”の臭いがする様にしまぁーす」
えっ! マジッ!? 魔法ってそんな事できんの?
今の話を平伏したまま、茫然と聞いていた私は、いきなり頭を白い悪魔の両手でつかまれ、持ち上げられたのよ。
「いてててててっ!」
白い悪魔の外見は完全に少女だけど、握力はジャイアントグリズリー並みねっ!
「もぉ、静かにしなさいっ。詠唱間違えたらとんでも無い事になるんだからね」
……とんでも無い事って……。
またもや、サラッと怖い事を言う白い悪魔。
私が顔を上げると、私の両方のほっぺたを両手で引っ張りながら、何やら詠唱を始めたの。
しばらくすると、何と! 私の頬がうっすらと輝きだしたのよ!
「……はい次は手ね」
またもや白い悪魔は、私の右手を“ぐいっ”と引っ張りあげる。
「いてててててっ!」
やっぱり白い悪魔の握力は熊並みだ。手の骨が砕けるかと思った。
そのまま詠唱を続ける白い悪魔。やはり同じ様に私の右手がうっすらと光りだしたわ。
「はい、おっしまい。それじゃ自分の手をなめて見て?」
私は白い悪魔に言われるがまま、自分の左の手のひらを舐めてみる。
「うげっ、
その味は、まごうことなき、“イガイガの実”の味! もんのすごく苦いのっ。
その後、腕も足も舐めてみたけど、全部“イガイガの実”の味しかしないのよっ!
……マジ、魔法怖ぇぇぇ!
「それじゃ、今度は右手の臭いを嗅いでみて?」
なんだか嬉しそうに私に指示を出す白い悪魔。
私は、そぉぉっと、自分の右手に鼻を寄せてみたわ。
「
なんと! 私の右手からは、あろうことか“イガイガの実”の臭いがするのよ!
魔法すごい! 本当に凄すぎ。何でもできる! でもでも、私ずーっとこのままなのぉ?
そのあまりの絶望感に呆然とする私。 でも白い悪魔はそれだけでは飽き足らず、更に追い打ちを掛けて来たのよ。
「それから、当分は皇子様の前に出られない様に、そのまゆ毛をゲジゲジ『八の字』まゆ毛にしまーすっ!」
ねぇ、この娘何言ってるの? 馬鹿なの? それとも、ちょっと残念なおつむの娘なの? まだ罰を追加しようとしてるよっ!
しかも魔法でゲジゲジまゆ毛って作れるの? もう、魔法万能じゃん! 魔法、恐いものナシじゃん!
もう涙目になりながら、白い悪魔を見上げるしかない私。
すると、白い悪魔は後ろを振り向きながらこう言ったわ。
「それじゃ、アル姉ぇ、ちょっとその棚から黒マジック取ってぇ」
「……」
……結局普通の黒マジック使うのかよぉぉ! そこは『魔法』を使う所だろって! って言うか
「あぁ、アル姉ぇ、油性の方ねぇ」
……しかも油性っ!
私は抵抗する事も無く、油性マジックでゲジゲジ八の字まゆ毛を書き込まれたのでした。
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