第17話 お仕置きっ!(前編)
「はっ! ……うぅぅさぶっ!」
ひざ下から伝わる床の硬さと冷気。突然目が覚めた私は、思わず身震いをする。
「ここは……」
私はぼぉーっとする頭で辺りを見渡してみたの。
少なくともここは、これまで暮らしていたエレトリア……では無い様ね。
エレトリアは初夏、少し汗ばむ位の季節。この寒さとは雲泥の差よ。
更に周りを見渡すと、古い木で作られた家の板敷の部屋、その中央に座らされていることがわかったわ。
「木の家と言うことは、ドライアドか何かの家かしら……。それにしても寒い……」
火の気は全く無い。
ただ、隣の部屋と思われる天井からは、淡いオレンジ色の光を放つ光点があって、私のいる部屋の中までうっすらとその光を届かせているの。
魔法の光かしら……。
ここが洞窟の中でもなければ、おそらく時刻は真夜中なのだと思う。
部屋の中は淡い闇に包まれ、“しん”と静まり返っているわ。
どうして私はここに……。
完全に覚め切らない頭を無理やり回転させて、以前の記憶を掘り返してみる。
……あぁ、そうよ。私は海岸近くの洞窟で、病気と飢えで死にかけていたの。
たった一人の妹は、水と食料を探しに行くと言って、出て行ったきり戻って来なかった……。
私は暗い洞窟の中で一人ぼっち。
しかも、運の悪い事に、その洞窟にはレッサーウルフの群れが、住み着いていたみたい。
暗闇の中、レッサーウルフの唸り声が聞こえてきたわ。
ヤツらは集団で狩りをする。残念だけど、今の私には手に負えない。
ゆっくりと忍び寄る、アイスブルーの瞳を持つ刺客たち。
せめて、一匹ぐらいは道連れに……。とは思うけど、もう、私にそんな力は残されていなかったの……。
そんな時、私を助けてくれたのが、とっても偉いハイエルフ様だったのよっ!
ハイエルフ様は、私を神殿へとつれて行き、水と食べ物をお恵み下さったの。
ても、既に不治の病に冒されていた私は、折角頂いたお恵みを、食べる事も飲む事も出来なかったわ。
次第に衰弱して行く私……。
そうして私は、そのハイエルフ様に抱き抱えられ、プロピュライアを潜る栄誉を授かる事になったのよ。
プロピュライアの向こう側。そう、そこは神界。私は天に召されたのね……。
あっ、そうそう、ちょっと思い出した。
そこで、ハイエルフ様は私の不治の病を治そうと、神界の薬を飲ませようとしたの。
黒くて小さくて丸い粒。
ハイエルフ様は、私に大人かどうかを確認した後で「大人の場合は二粒ねっ!」と言って、その黒い粒を二つ下さったわ。
私はその薬を手に取って思わず言ったのよ……。
「何これ
その粒からは、イガイガの実の臭いがしたの!
絶対に駄目! 絶対に
それでも優しく勧めてくれるハイエルフ様。
私は覚悟を決めて、ちょっぴりだけ、舐めて見たの。本当にちょっとだけよ。
そしたら、どうよっ!
「うぅぅわ、何これ
その粒からは、想像通りイガイガの実の味がしたわ!
絶対に駄目! 絶対に
考えても見てっ! イガイガの実の臭いがするんだから、イガイガの実の味がして当然よね。
どうして、そんな簡単な事が思い付かなかったのかしらっ!
結局この後、女神様に呼び出されて、女神様のお力で不治の病を治して頂いたの。本当に嘘のように体が軽くなったのよ。凄いわね、女神様って。
後で聞いたら、私にはあのイガイガの実で出来た薬は効かないみたいで、ハイエルフ様は女神様から、ちょっぴりお叱りを頂いたそうよ。
……ふふふっ、そそっかしいハイエルフ様っ!
こうして、私は、この優しいハイエルフ様を新しいご主人様とすることになったの。
ようやく私は記憶の糸口を見つけ出し、さらにその先の出来事へと思いを馳せる。
その後、毎日お腹一杯にご飯を食べて、割りと楽しく暮らしていたわね。
そうそう、あの日もお腹一杯ご飯を食べて、お風呂上がりに廊下を歩いていてぇ、そして、皇子様と呼ばれるとっても偉い殿方にお呼ばれしてぇ……、夜伽のお相手をしていたら、ご主人様が現れてぇぇぇ……。
そうして、記憶が少しずつ鮮明になって行くにつれ、ゆっくりと瞳孔が開き、背筋が凍る様な恐怖感が押し寄せてきた。
突然体が震えだし、その震えが止まらなくなる。
はぁうぁぁぁっ……ぶるぶるぶる。
「しっ! 白
急いで回りを見渡す。
そして、ついに思い出した!
私は白
「かっ、体はっ!」
急いで自分の体を見渡すけど、特に外傷は無いみたい。
……とりあえず、
ただ、あえて、あえて言うならば、下半身が自分の物では無い様に、全く動かない事ぐらいね。
「って! 下半身が動かないって、結構問題でしょっ!」
自分の足をつねってみたり、叩いてみたりするけど、まったく感覚が無いの。
しかも今の自分は、女神様たちが良く行っている、足を折りたたんで座る「正座」と言う状態。
「私が正座って……」
と、一人で突っ込んではみるものの、もちろん誰も反応はしてくれない。
誰か他に突っ込んでくれる人は……と思って、隣の部屋のほうへと視線を向けた、その先には……。
「……ようやくお目覚めの様ね」
隣の部屋からゆっくりと現れた人影。そう、それは、まぎれも無い、あの白い悪魔っ!。
「ひいぃぃぃ。おっお許しください! 悪気は無かったんですぅぅっ!」
私は訳も分からず、まずはその場に平伏。
すると、某かの恐怖心を相手に植え付け様と意図する声が、私の頭の上から静かに聞こえて来たわ。
「悪気が無ければ、何をしても良いって事はぁ……無いわよねぇ……」
なぜだか白
いやいや、まてまて。白
「もし私に悪気が無ければ……あなたの自慢のその爪を、一枚ずつ剥いで行っても良いって事だもん……ねぇ」
「……うふふふふっ」
やめろ、やめろっ! 可愛い顔して、なんて恐ろしい事を言ってるの? 余計に怖いわっ!
とりあえず心の中では突っ込んでみるものの、口に出して言えるはずもなく。
「ねぇ、リーちゃん。もうそのぐらいで許してあげたらぁ?」
白
「はうぁぁ、ご主人様だぁぁ! たっ助けてぇぇ」
私は必死でご主人様にアイコンタクトを送ったわ!
しかし白
しかも私の顔の真正面でゆっくりとしゃがみ込み、まるで私と口づけでもするかの様な距離で話しかけて来るの。
「とりあえず、あなたが何故、あの場所にいて、何をしていたのかを、正直に教えてちょうだい」
「嘘を言ってはダメよ。私が嘘だと思ったら、きっと私、悪気も無くあなたの爪を一枚ずつ剥がして行く事になると思うから……」
……ひぃぃぃぃ!
小首をかしげながら微笑む白い悪魔。案の定、彼女の目は全く笑ってはいなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます