第38話 皇子様としての態度
「少々遅かったのでは無いですか? リーティア」
ようやく神殿に戻ってきた二人。そんな俺達を出迎えてくれたのは、この世界の正式な衣装に身をつつんだ、ダニエラさんと、複数の神官達だ。
「大変失礼致しました。大司教様」
「途中、エルフの村に立ち寄った際、村長の方から集会所の修繕についての相談がありましたので……」
リーティアはカーテシーの様な仕草で挨拶をすると、すぐダニエラさんに遅刻の理由を説明し始めたんだ。だけど、当のダニエラさんは、感情の無い顔で、そんなリーティアを見据えたまま。
「言い訳はおよしなさい、リーティア。あなたは皇子様の第一奴隷なのです。皇子様のご予定が、どの様な事柄よりも優先されると言う事を肝に銘じなさい」
そんなダニエラさんの言葉には容赦がない。
「大変申し訳ございません。大司教様」
今度はダニエラさんの前で
しかし、待てよ……。
いやいや、ここは俺の出番だろう。大体、俺が『エルフの村に行ってみたい!』って言っちゃったから、こんな大変な事になったんだよな。
リーティア一人に責めを負わせるなんて、絶対にダメだ。そんな事では、俺の『男』が
俺は跪いたままのリーティアを
「ダニエラさん。本当は俺が『エルフの村に行きたい』って、我儘を言ったからなんだよ。俺も反省しているから、リーティアの事は許してもらえないかな」
そんな俺の突然の行動を見たダニエラさんは、一瞬、驚いた様に目を大きく見開くと、すぐにまた、いつものクールな表情に逆戻り。
でも、さっきまでの怒りの雰囲気は少し収まった様にも見えるけど……。
「そうですか……いいえ、皇子様さえよろしければ、何ら問題はございません」
「私が差し出がましい事を申し上げました。何卒お許し下さい」
今度はダニエラさんが殊勝にも、俺に頭を下げてくる。
――あぁぁん、もう。そんなに気を遣わなくても良いのにぃ。って言うか、いつもの家にいる時みたいな感じで行こうよぉ、ダニエラさぁぁん。
「いやいや、止めて下さいよ、ダニエラさん。頭を上げて下さいな」
俺はダニエラさんの元へ急いで駆け寄ると、俺も同じ様にお辞儀を始める。
ザ・ジャパニーズ『お辞儀交換』だな。両者一歩も引かずに、お辞儀を無限に繰り返してしまうと言うあれだ。……たははは。
するとダニエラさんは、お辞儀したままの姿勢で、『ツツッ』と俺の横まで移動して来ると、そっと俺の耳元へその秀麗な顔を寄せて来たのさ。
「慶太さん。昨日ご説明致しました通り、こちらの世界では慶太さんは全能神様の皇子様です」
――はいはい。そうですね。確かにそう聞きましたよ。
「軽々しく頭を垂れる様な事をなさっては、皆の者に示しが付きません」
――ふむふむ。なるほど。なるほど。確かにそれでは示しがつきませんね。
「多少横柄なぐらいで丁度良いかと思います。と言う事で、そこの所、よろしくお願いします」
――そうかぁ。横柄かぁ。小心者の俺には、一番難しいパターンだなぁ。
と言う所まで俺の耳元で一気に話し終えると、『スッ』っと元の位置に戻って再び頭を垂れるダニエラさん。
――あぁ、もう一回やり直しって事ね。
しかし、なるほどねぇ。周りのみんなが見てるんだもんねぇ。そうだった、そうだった。リーティアやダニエラさんにも立場ってものがあるんだよねぇ。かぁぁ、みんな大変だなぁ。
でも、俺は空気の読める大人なんだからな。ここはみんなの『
そう思った俺は、先程とは打って変わって、かなり横柄な態度にスタイルチェンジ。
俺は、ダニエラさんの肩を『ポンポン』と叩きながら、かなり上から目線で話し始めたって訳さ。
「おぉダニエラ、苦しゅう無い。まぁ今回はリーティアを許してやれ」
「まぁダニエラも忠義の心でリーティアを叱ったのであろう? 後で褒美を取らすゆえ、私の所まで来るがよかろう」
「……わかったな?」
んかぁぁぁ決まった! どこぞの王様的な感じ? 完全に
ちょっぴり得意げに、ダニエラさんの反応をうかがう俺。
ただ……残念ながら『場の空気』は、一気に張り詰めた雰囲気に。
あっれぇぇ?……何か間違った?
ダニエラさんは真面目な顔を維持しつつも、両の頬を赤く染めたまま固まっているし、周囲のエルフ達も、表立った動きは無いものの、なんだか少し、ざわつている様子だ。
俺はゆっくり振り返ってみると、なぜだか少し涙目で、恨めしそうに俺を見つめているリーティアが……。
「あーっ、はっはっはっ。うんうんうん。あーそうだなぁ。うんうん。そうだそうだ。うんうん、そうなんだよなぁ。だって、そうだと思ったものぉ。うんうん」
俺は場つなぎに訳の分からない事をしゃべり続けながら、ゆっくりと、かつ大股で後退る。
そして、なんとかリーティアの近くまで来た所で、そっと背中を反らしつつ、自分の顔をリーティアの耳元にまで近づけると、小声で状況確認だ。
「ねぇ、リーティアってば。俺、何か間違った事した? ねぇ。リーティア?」
俺は、横目でそーっとリーティアの顔を覗き込んでみると、彼女は、先程と全く同じ涙目のまま、両方の頬をぷっくり膨らませてるじゃないか。こりゃ完全に怒ってる表情だな。ヤバいなぁ……すると突然。
「もう、知りませんっ! 皇子様。参りますよっ」
ちょっぴり怒った感じのリーティアは、最初こそ俺を先導する様にしながらも、結局さっさと一人で、神殿の中へと入って行ってしまったんだ。
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