第25話 皇子の力とさくらんぼ
「ねっ、ねぇ、リーティア。俺、どうすれば良い?」
村人達に俺の焦った状況を悟られない様、威厳を保ったままの体でリーティアにそっと耳打ちしてみる。
まぁ、リーティアがここまで強気なんだから、最終的にはリーティアが何とかするだろうけど……。うん、きっとそうだ。そうに違いない!
「皇子様、セレナにも治せない病は、恐らく私にも完治させる事は難しいかと。怪我などの治療はわりと得意なのですが……」
少し申し訳無さげに上目遣いで自己申告してくるリーティアは、あっさりと降参宣言。
えっ!? マジか。治せないの、これ? ヤバいじゃん!
しかもだよ。おいおいおい、来たよ、来たよ。本日二回目、美少女の必殺上目遣い!
とにかくこれやっときゃ、世の中の男どもは何でも言う事聞くと思ったら、大きな間違い……は無い! 断じて無い。すぐ言う事聞いちゃう。もう、何でも言って!
いや、だって、これやられて『No』って言える人に一度で良いから会ってみたいよ! って言うか本当は絶対に会いたく無いな! だって、そんなヤツとは絶対に友達になんてなれないからな!
ヤバイ状況のところに持ってきて、
「リーティア、それって結構ヤバくない? 村長さん怒っちゃわないかな?」
俺が、おたおたしながらリーティアの愛らしい耳元へ話し掛けている最中も、彼女の方は悠然と構えていて、なんだったら、ちょっと男前。
「いえ、皇子様であれば大丈夫です。何しろ皇子様はレオニダス全能神様のお孫様なのですよ。この世に皇子様に治せない病などはございません!」
えぇぇ、いったい何を根拠にそんな事言うの、この
なぜだか、言われの無い自信に満ち溢れているリーティアに促され、結局一人の幼女エルフの前に歩み出る事になってしまった。
彼女はエルフの特長とも言うべき陶器の様な白い肌で、腰まで届く長いブロンドの髪を背中で三つ編みにしている。
年の頃は十歳前後かな? あどけない顔立ちが非常にチャーミングと言った感じだ。
あと、八年、いや五年待てば、間違い無く俺のストライクゾーンど真ん中。あんまり絶好球すぎて空振りするぐらいのド直球だなぁ。おいおい、なんだったら、今すぐにでも『お兄ちゃん』と呼ばせても良いのだぞぉ。ははは。
いやぁ、俺にリーティアがいなかったら、すぐにでも結婚を申し込む所だったよ。……って思うけど、そんな事出来るぐらいなら、今頃まで童貞やってないよなぁ。マジで……。
ただ、その美しい顔を輝かしく彩るはずの両目は、残念ながらしっかりと閉ざされている。
しかも本人は今から何が起こるのか不安で仕方が無い様子で、両方の手をそれぞれ隣で跪いているエルフの娘に握ってもらっている状況だ。
「皇子様、年端も行かぬ娘ではございますが、娘は娘。決してお手を触れませぬ様に」
「……あっ、ああ、そうだったね」
不安に耐えるように、その小さな口を真一文字に結んで耐えている幼女の様子を見ていると、ついうっかり『大丈夫だよ』と、声を掛けながら頭をなでようとしてしまったんだ。
しっかし、こんな子供にまで嫉妬する事も無いだろうになぁ。リーティアったら大人げない! もう俺の心はリーティアの物なんだからねっ! 安心して良いんだよ。後で神殿に戻ったら、あんな事や、こんな事までしてあげるからね。もうちょっとの辛抱なんだよ! げへへへ。
俺は内心とは裏腹に、真面目な顔つきで
遠巻きにしていた村人達も、少しずつ近寄りながら、俺とセリシアを半円形で取り囲んで来た様だ。
そんな中、すかさずリーティアは俺の右手から耳元に囁きかけてくる。
「それでは皇子様、まずはセリシアの額に皇子様の右手を翳してください」
おっ、なんだよぉ。ちゃんとやり方教えてくれるんじゃん。あぁ心配して損したなぁ。もう。リーティアったら、お茶目さん。
「皇子さま。翳すだけですよ。触れないで下さい」
更に念を押す様に、俺の耳元で注意してくる。
もう、しつこいっちゅーの。おれはそこまで野獣じゃないって。でもっ! 君とのベッドの上では、狂暴な狼さんになっちゃうぞぉ、がおーん! ははは。
ちょっとしつこいリーティアさん。
俺は、少しあきれ気味な様子で振り返ると、そこには中腰になった彼女の胸元が……。
……ぐふぅっ! 何だとぉぉ! これは罠かっ? 何かの罠なのか?
いや、これは不可抗力。そう、不可抗力だ。この
絹で織られた薄手のストラに、ふわりとしたショールを羽織るその姿は、彼女の体型をタイトに表現している訳ではもちろん無い。
もともとトゥニカやストラは腰のあたりをベルトで締めて、上半身をふんわり包み込む様な着こなしが一般的だ。
しかし、それは男性の場合の着方……。
女性の場合は少々趣が異なる。
ちょうど
そんな胸元にはストラを止める金の止め具がまぶしく輝いており、その奥には惜しげもなく、
けっ、けしからん! なんてけしからん衣装だぁ! この衣装を考えた者を地の果てまでも追い詰め、探し出し、予、自らのこの手で、金一封を渡さねばなるまいぃぃ!
凝視していた時間はほんの一~二秒であったろう。
しかし限られた時間の中で極限までに高められた俺の眼力と、脳の約92.4%、そう、最低限生存に必要な能力を除くほぼ全力を動員して行われた画像解析処理により、ついにその瞬間が訪れる事となる。
俺のまわりからすべての音が消え、その静寂はまるで世界中のの時間が止まったかの様だ……。
あっ……あの双丘の先端に映る、うっすらとしたピンクの影は何だっ……?
ゴッ……ゴクッ。
間違いないっ! ……あれは『さくらんぼ』だっ! まぎれもない究極の『さくらんぼ』に相違無い!
あぁ神様ぁ……! あぁそう言えば、神様って俺の『じーちゃん』だったな。じーちゃん、さっきは『もうお腹いっぱいです』なんて言ってごめんなさい。
『さくらんぼ』は完全に別腹でした! まだ何個でも行けそうです。って言うか。二個で十分です!
「皇子様? 皇子様、大丈夫ですか?」
俺が急に固まってしまったのを不審に思い、リーティアが声を掛けて来た。
「『さくらんぼ』がぁ...あぁぁえ?」
いつの間にか半開きになっていた口元から思わず変な言葉が漏れ出す俺。
「はい? 『さくらんぼ』がどうしましたか?」
怪訝な表情で俺を見つめてくるリーティア。
いまだにガン見している俺の視線に気づき、ゆっくりと自分の胸元に視線を移す。
はあっ! ヤバイ! ガン見している事がバレた! なっ何か言い訳は、言い訳する事は無いのか? 無いか? 何か、何か考えないと、このままだと一生『胸元ガン見のエロ皇子』のレッテルを貼られたまま、残りの
……おぉ? 割と上手いこと言ったな。
メーデー、メーデー。『画像処理班』、作業を緊急停止! 緊急停止! 急ぎ『言い訳構成班』と合流した後、最高の言い訳を導き出せ!
案一『いやぁーリーティアからさくらんぼの香りがしてねぇ』
……って、そんな香りして無いって。
案二『リーティアの胸元にある金の止め具って、さくらんぼの形なの?』
……って、全然形違うじゃん。
案三『いやぁ、あんまり可愛いから、リーティアが『さくらんぼ』に見えちゃって』
……って、どんな視力してんのよ、もう何言ってるの俺?
なんだよ俺の『言い訳構成班』、全然駄目じゃん! 少しは『画像処理班』を見習えよ! 何しろ『画像処理班』は、あの究極の『さくらんぼ』を発見したんだぞ!
あぁぁぁ、もう無理。無理無理。もう、本当にごめんなさい。もう勘弁してください。もう、どうにもなりません。……くすん。
俺はついに言い訳を諦め、美少女からの叱責に耐える準備をしていたその時。
「あぁ、さくらんぼですねぇ。響いちゃってました?」
リーティアは自分でストラの胸元を摘んで中を覗き込む。
「ここの衣装はどうしても肌触りがいま一歩なので、昨日アル姉とユ○クロでTシャツ買って来たんですよぉ」
「ほら、『さくらんぼ』柄です。かわいいでしょ?」
ストラの首元から内側に着ているTシャツを引き出すと、そこにはピンクの小さな『さくらんぼ』がプリントされていた。
「実は皇子様にも買ってあるんですよぉ。皇子様には小さなカエル柄です。うふふっ、かわいいんですよぉ。後で神殿に帰ったらお渡ししますね」
「やっぱり肌着はユ○クロが一番ですよねぇ」
「……」
「はぁぁぁぁぁぁ……」
あぁぁ、はいはい。『さくらんぼ』柄かぁぁ。うん、そうだよねぇ。そんなうまい話なんて無いよねぇ。ラッキースケベなんて、めったに無いからラッキーなんだよねぇ。なかなかやるなぁ、ユ○クロォ。今回は完敗だぜぇ。ふぅぅぅぅ。
「……」
って言うか、本物の『さくらんぼ』かよっ! しかもユ○クロかいっ!
……もう、どないなってんねん! って、何で関西弁っ!
「あ、あぁ、そうだね……ユ○クロ……やっぱ、肌触りいいよねぇ」
結局、俺の現時点での
かぁぁ、結局、『画像処理班』もつかえねぇぇぇぇぇ。
俺の皇子の力なんて、結局その程度なのかもしれない……。
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