第24話 村人の望みと極上のエルフ
「ねっねぇ? リーティア。そう言えば結構最初の頃から気になっていたんだけどぉ、……あのぉ……その耳って、本物?」
そっと彼女の耳元に向かってささやき掛けてみる俺。
もう最初から気になりまくっていたにはいたんだけど、それ以上に突っ込みどころ満載の異世界で、残念ながら突っ込むタイミングを逸した形だ。
「はい。本物ですよ。私は『神族』の皆様をお助けするために使わされた、ハイエルフと言う種族なのです」
全くブレの無い微笑みとともに、長い耳を肯定するリーティア。
ちょっと触ってみます?……的なしぐさで自分の耳を摘みながら俺の方に向けてヒラヒラと揺らしてくる。
いやいやいや、そんな風に可愛く揺らされても、触らないって! 舐めないって! 噛まないって! 流石に人前でそんな事出来るぐらいだったら、二十一年間も童貞やって無いよぉ。
それにしても、よくこんな近くにエルフいたよなぁ。って言うか、たしか去年実家に帰ったときにはリーティアとは会ってたはずだからぁ、俺、去年からエルフと会ってたって事なの? マジかぁ!
ん? いや待てよ、リーティアはコロラド出身なんだから、エルフって事は無いだろう? だって、おかしいじゃないか? アメリカに住んでるのはアメリカ人だろ? 何でハイエルフが住んでるんだよ?
いやいや、待てよ待てよ、もしかしたらアメリカにはエルフが普通に住んでるのか? だって、俺、アメリカに一回も行った事無いんだし、コロラドにだったら十人ぐらい住んでても不思議じゃないのかも? えぇ? 本当にぃ!
って言うか、コロラドって何処にあるんだ? 本当にアメリカ? えぇ? アメリカって名前の異世界の事なの? それ何処? どこにあるのぉ?
あぁぁ、もぉ、頭ん中グルグルして来たぞぉ。
俺は軽いめまいを覚えながらも、考えに考え抜いた疑問を口にしてみる。
「でも、でもっ!
自分で口に出してから気付いたけど、めちゃめちゃ考えた割には意外と普通の質問……。
「はい。あちらでは目立ちますので、普段は髪を下ろして目立たない様にしておりましたね」
「それに日本ですと、意外にエルフの社会的地位が高いので、仮に見つかっても咎められる事は殆どありませんでしたねぇ」
さも当然の事で何を驚いているの? って感じで即答。
そうかぁぁ。日本ではエルフの社会的地位が高いのかぁ……。知らなかったなぁ。結果的に秋葉原様々だって事で良いのかぁ? まぁ、確かに女性の場合は髪を下ろしていると、耳なんてほとんど気にはならんわな。……確かに。
「皇子様、大体の村人達が
重ねて問いかけて来るリーティア。
気付けば、既に俺たちは、三十名以上のエルフや人間に傅かれている状態に。
そんな急に村人が集まって来るなんて予想もして無かったし、しかも完全に水戸黄門状態だし、なんだか非常に居づらい状況だしぃ……ひぃぃ。
「ねぇリーティア、皆さん跪いた状態と言うのもなんだか心苦しいんで、もう少し楽な姿勢にしてもらえないかな。あと、みんなの顔も見てみたいし」
まずはこの居たたまれない状況を打破する事を優先しよう。
そうしないと、俺の心の方が先に折れてしまいそうだよ、本当に。
「そうですか? 何でしたら二、三日このままの状態で放置しても構わないかと思いますが……まぁ皇子様がそうおっしゃるなら仕方がありませんね」
リーティアは少し困惑した表情を浮かべながらも、村人のほうに向き直る。
「皇子様がそなた達の顔を見たいと申しておられる。面を上げよ」
かなり尊大な口調で、かつ多少アンニュイな雰囲気をかもしながら、村人達に俺の言葉を申し伝えるリーティア。
あぁぁ、すんごく凛々しい。うん、そして格好良い。うんうん、それだけであれば全く問題ない。……本来は。
だけど、この雰囲気のままで俺の方に迫られたらマジににちびるな。……いやぁ? 待てまて、そんな事は無いかもだぞ? それはそれで……ご褒美なんじゃないか?
そう言えば、さっきリーティアが「何でもします!」って言ってたから、これはこれでお願いしてみる価値はあるかもな。うん、覚えておこう。俺の中の『極上のM』が目を覚ますかもしれないしな。
などとくだらない妄想をしている間に、恐る恐る面を上げる村人達。
エルフ達は多少引きつった笑いを浮かべながらも、初めて見る海外のスター俳優を見る様な好奇心とうれしさが垣間見える。
特に若い女性エルフ達はかなり上気した感じでつやつやの唇が妙に色っぽい。
結構遠くから走って来たせいかな? 心なし呼吸も荒い様に見えるし。色白の肌に桜色の頬。うほほほほ、ドストライクやん! うぅぅん、やっぱりエルフの美少女達は捨てがたい!
反対に普通の人達はまだ平伏したままの状態だ。ここまで言われても顔を上げられない理由が何かあるのかな? まるで言葉が通じてない様な……。
それより、村人に聞きたい事だったよな。そうだ、そうだ。
ここで何をしていたのか聞いたとしても、馬鹿丸出しだよなぁ。だって、どこからどう見ても畑仕事の真っ最中だったし……。そうだ。逆に質問に質問で返してみるか? 困った時の質問返し攻撃だな。これも大人の社交術と言うやつだろう。よし、それで行くかぁ。
俺は苦し紛れに、こんな所で大人の処世術を発動。
「それじゃ、何か逆に聞きたい事はありませんか? って聞いてもらえます? せっかく集まってもらったんで、逆質問タイムって事で……」
自分で言っておきながら、『逆質問タイム』って何だよ。ダッサいネーミングだなぁ。しかも、完全に丸投げたぁ、大人の処世術もあったもんじゃ無いよなぁ。ははは。
俺は少し半笑いの状態でリーティアの耳元に話しかける。
しかし、全然関係無いけど、リーティアのうなじって色っぽいよなぁ。まだ高校生? 大学生ぐらいなのかなぁ? そのぐらいの若さなのに、この色香はただ事じゃないよなぁ。
それに、それにだよ! リーティアの耳元に顔をよせるたびに、もの凄く良いにおいがして来るんだよぉぉ、これがぁ。はうはうはう!
いったい何の香りだろう? 香水? でも違うなぁ、お香って言うか、何かこう、ハイエルフが持つフェロモン的な何か? なのかな?
もう、このまま『かぷ』っと耳に噛み付いたらリーティア怒るかなぁ。さっき自分で自分の耳摘んでヒラヒラさせてたから、ちょっとぐらいなら大丈夫かもしれないぞぉ。
……どうする? やる? やってみる? えぇぇぇどうしよっかなぁ。へへへへへ。
そしたら『ひゃん!』って言ってくれるかな? もうそれだけで今日のおかずてんこ盛りだな、おい。今日は白米何膳食えるんだろう。いやいや、まだまだ俺だって若いんだよ。四杯や五杯ぐらいでネを上げてちゃだめだ。これだけオカズが揃ってる豪華な食事なんて、この後、あるかどうかすら分からんからな!
でもまぁ、普通に考えたら怒るだろうなぁ。って言うか日本だったらそのまま痴漢行為で警察直行便に間違いないもんな。『アテンションプリーズ。右手に見えますのは豚箱でございまーす』ってな感じかぁ。あはは。全然笑えねぇ。『某私立大学四年生が痴漢行為で逮捕されました』……テンプレ過ぎて、新聞記事にもならんな。
「かしこまりました。それではその様に聞いてみますね」
俺が半笑いのまま妄想の世界を泳ぎまわっているのを気にも留めず、着々と業務をこなす優秀な秘書役のリーティア。
うんうん、やっぱり可愛いなぁ。今度、秘書役に合う様な『萌えメガネ』買ってあげるね。
と、新たな妄想の海に漕ぎ出してみる。
「皇子様はそなた達の願いを叶えて下さるそうだ。思いのあるものは申し出るが良い」
ちょっと得意げで鼻高々なハイエルフのリーティアさん。
……んん? いやいやいや、ちょっとっ! 俺そんな事言ってないし。難しい事たのまれちゃったらどうするのさ!
リーティアの後ろで冷や汗をかきながら村人達の反応を待つ俺。
村人のほうも予想外の提案に面食らったのか、しばらく固まっていた様だけど、しばらくすると村長らしいエルフを中心にコソコソ相談をはじめたみたいだ。
しばらくすると、その村長とおぼしき、恰幅の良いエルフが遠慮がちに口を開いたんだ。
「じっ……実は、昨年神官になったばかりのセレナには、セリシアと言う妹がおりまして……」
「しかし、一昨年の流行り病の影響で、両の目から光を失ってしまいました」
「そんなセリシアが不憫で、不憫で……」
「セリシアは神官になるのが夢で、厳しい修行にも耐えておりました。いつかはセレナの様な立派な神官になってくれるものと思っておったのです」
次第に語り口調に熱の入ってゆく村長らしきエルフ。
おいおいおい、いきなり重い話だな、おい。そんなん、俺にどうこうできるレベルを遥かに超えちゃってるよ。さすがにそれは無理無理無理。
せめて、明日の天気はどうですかね? 晴れると良いですな? ぐらいの社交辞令的な質問ってあるだろ。もぅ村長ともあろう者が空気読んで欲しいよぉ。って言うか、俺が丸投げしたのが悪かったのか? うん、そうだな俺が悪いな。
両目を閉じながら村長らしきエルフの話に聞き入っていたリーティア。
おもむろに片手を上げて、村長らしきエルフ……ってこのくだり、もういいか。もう村長でいいや。そうしよう。村長エルフ……の言葉を遮る。
「そうか、それは難儀な事だな。セレナでも治癒できない病と言うことか。しかし安心するが良い。その願い、たちどころに皇子様が叶えて下さるであろう」
村人達に向かって自信満々の回答をした上で、振り返りざまににっこりと笑いながら「ねっ」と言って来るリーティア。
えっ! 更にええっ! 俺どうすれば良いの? 俺、『じーちゃん』に、そのセリシアって子を神官にしてくれって頼めば良いって事? どうすれば良いの? って、違うよね。びびび、病気なんとかすんの? 出来るの? そんな事!
「リーティア、俺そんな病気なんて治せないよ?」
マジで心配顔のままリーティアに耳打ちする俺。
「皇子様であれば造作も無い事でございますよ。ご安心ください」
「この者たちに、皇子様の力を見せ付けちゃいましょう。ねっ!」
ねっ! ……じゃねーよ。絶対俺を嵌めようとしてるな。リーティアってば、リーティアってば、『極上のS』だわっ!
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