2

 何分経っても十円玉は少しも動かなかった。

 やがて、周囲の空気も変わってきた。

「…何かムリそうだから、私、抜けるね」

 そう言って私は十円玉から手を離した。

 クラスメイト達がため息をつく。

「な~んだ」

「マカが相手なら、大物、来ると思っていたのに」

「ねぇ。実際変なこと、起きたこともあるのに」

 …ああ、と納得する。

 最近、教室の中でラップ音がするわ、よく誰かが転んだり、物が勝手に落ちたり、おかしなことが続くとは思っていた。

 …どうやら向かいに座る女の子は、下級なモノを呼び寄せる力があるらしい。

 同属ではないにしろ、そういう力を持ったコはいないこともない。

 私は立ち上がり、自分の席に戻った。

 女の子はクラスメイト達に囲まれながら、青白い顔で苦笑している。

 どうも呼び寄せることにわずかな自信を持っていたみたいだが、何分、相手が悪い。

 私では、な。




 ―その後、教室ではおかしなことは一切起こらなかった。

 やがてクラスメイト達も交霊術に飽きて、やらなくなった。

 女の子もおとなしく勉強に専念し始めた。

 私は心の中で、女の子に少々詫びた。

 あの時、私は言葉では召喚の言葉を発していたものの、力では逆のことをしていた。

 つまり、呼び寄せないように力を使っていたのだ。

 あの女の子は呼び寄せる力はあれど、返せる力などなかった。

 だからこの教室にたまり、悪さを働いていた。

 だが私が『拒絶』の力を発揮したせいで、一掃した。

 紙に描かれた門から、下級のモノ達を逆に返したのだ。

 あのままでは下級のモノの溜まり場になっていただろう。

 下級のモノの厄介なところは、集まり過ぎると共食いをはじめ、中級―上級へと進化してしまうところ。

 やがては人間に悪さどころじゃないことをするだろう。

 大抵の人間がそうだが、呼んでも返せない。

 呼ぶよりも、返す力の方が強くなければならない。

 そうじゃなければ…。



 私はあの女の子を見た。

 彼女のように、呼び寄せたモノに取り付かれてしまうのだ。



【終わり】

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

交霊術【マカシリーズ・-0-】 hosimure @hosimure

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る