6×?で異世界を救う ~成長の物語~

第22話 まさか!まさか!の異世界転移

ああぁ……こんな事が本当にあるんだ……

こんな馬鹿げた様な……

私が望んでいた事が…………


「私は『生命の女神』、『木咲刹那』さん。私達の世界の為に協力して頂けませんか?」


目の前に現れた生命の女神と名乗る豊満ボディーと鮮やかなライトグリーンのロングヘアーの女性が私にそう話しかけてくる。


純白のドレスに、黄金の蛇のサークレット……あの杖の先端は確か、トリクエトラに似てるな……ケルトの永遠の象徴。


まさに生命の女神様って感じだ……


そんな女神様が私達の世界……多分、こことは違う世界……異世界の事だろうか?

その世界の為に協力してほしいと言っている。

それはつまり、異世界に行けるという事だろう……

こんな事が現実に起きるなんて……

それほどまでに私は、この世界が嫌になっていたのだろうか?


私にはもう家族は居ない、友達も殆ど居ない……趣味の知り合いと会社の同僚位で、学生時代の知り合いも数人程としか関わり合いがない。


私の母は、豪快でパワフルな人だった。細かい事は気にせず、勢いで生きている様な感じの人だった。

だからその場の勢いで初対面の男の人と関係を持ち私が生まれたと、あの時は若かったね~とよく話していたものだ。


よって私は父親の事を全く知らない。それは母も同じだった……

しかし、母は私を生み育ててくれた。


母は優秀だった様で、会社ではバリバリのキャリアウーマンでいつも忙しそうな印象しかない……小さい頃から一緒に遊んだ記憶が殆どないのだ。


色々とプレゼントは貰ったが、いつも一人で遊んでいた。

そんな私は、必然的にゲームや読書にハマって行ったのだ。


ただ、内にこもる様になったのにはもう一つ理由がある。

それは、私がクウォーターだったから……

そう、父親がハーフだった様で、その見た目に母はコロッといったのである。

その為、私の髪の色は茶色でしかも目の色が左だけ青かった……


こんな目立つ容姿では物珍しさでチヤホヤされるか、異質なモノとして虐められるかのどちらかだ。

私の場合は……残念ながら後者だった。


だからいつしか自ら友達を作らず、近寄るモノを警戒する様になった。

そしてなるべく目立たず、ひっそりと過ごす変な癖がついてしまった。


しかしそんな私でも、世間で話題になる様な酷い虐めには発展しなかった。

それは、多分こうなる事を予想していたのだろう母親の勧めで、六歳の時から合気道を習いに行っていたからだった。

そして、小5と中学入学直後に男女数人を病院送りにした事で誰も近づいて来なくなったのだ。


それでも高校入学を機に友達を作ろうと思っていた……いたのだが……

小5の時に母を亡くし、その後引き取ってくれた祖父母も相次いで亡くし、中三の冬には天涯孤独の身になった。


それで祖母の遺言? である。

『これからあなたに寄って来る者たちを簡単に信用しちゃいけないよ。母親の遺産に私達の遺産が相当ある……それを全部あなたが受け継ぐんだからね。その金目当てに悪い奴らがたくさん寄って来る! 簡単に他人を信じるんじゃないよ! 絶対に!』


祖母は無くなる前に何度もそう私に言い聞かせた。

そのせいなのか、コミュ力不足のせいなのか、高校に入っても結局友達を作る事は出来なかった。唯一ネット上の知り合いが出来た程度だった。


そんな感じで、青春時代をこじらせてしまった今年二十四歳の社会人二年生の私である。


だから、私がこの世界を嫌っていても不思議ではないが……異世界に逃げたいと思うほど絶望もしていないと思っていた。


実際、一人が寂しいと思う事はあるし、恋愛にも大いに興味がある!

しかし、お一人様を十分楽しんでいたのは事実だ。漫画に同人誌、ゲームにアニメと趣味の世界に一人で浸るのは快感だった。


それに、ここ数年は友人を作る事も出来たのだ。

ネットで出来た知り合いとはオフ会を通して友人になれたし、大学ではこんな変わり者に何度も何度も声をかけて来てくれた女友達も出来た。


だから、異世界へのあこがれはあれど、そんな事が現実になれば良いなどと思った事もなかったのだけど……


この状況は……


「うふふ、ご心配にはおよびませんよ。これは現実逃避が生んだ幻ではありません。ただ運命があなたを選んだだけです」


そんな女神様の唐突な言葉に私はギョッとした。


「心を読まれた⁉」

「あら、ごめんなさい。ここではあなたの感情が直接流れ込んできやすい様ですわね」

「……」

「では、改めてお伺い致します。私達の世界……異世界を救う為に協力して頂けませんか?」



そして今、私は生命の女神様に導かれて、見知らぬ世界の巨大な樹の根元に立っていた。


「半信半疑だったけど……本当に異世界に来たんだ……」


私は目の前にそびえ立つ幹の幅が一〇メートルはあるだろう巨木を見上げていた。


「いったいこの樹は何メートルあるんだろうか……てっぺんが見えない……」


まさにゲームに出てくる世界樹の様だった。

周りを見渡してもこれ程ではないが、巨木ばかりだった。周辺には崩れた遺跡らしきモノが在り、そしてこの巨木を中心に十字路の様に石畳の道が四方に延びていた。


しかし、どの道も見える範囲で途中から見えなくなっている。

森に飲み込まれたのだろう。周辺の遺跡も木の根や地衣類に埋もれている……とても人が訪れている様には見えない光景だった。


「これは……ハズレを引いたかも……」


飛ばされる先は運次第……人里に近ければその痕跡があるはず……

でも、ここにはそれが見当たらない……


「弾を多く貰っといて正解だった……」


私が、この世界に来る時にサポートとして女神様から選んだ武器は……銃だった。

それも二丁拳銃にスナイパーライフルの計三丁の銃を装備している。拳銃はP229の左右用にサイレンサー付き。それと予備マガジンはそれぞれ二本の計四本。

スナイパーライフルはバレットM98Bにこちらもサイレンサーとスコープ付きでマガジンは二本貰ってある。


私はサバゲーマーではなかったがゲームで好きな銃を選んだ。

と言うよりは実戦的に扱えそうな武器を思いつかなかったのだ……いくら合気道を習っていたと言っても力が強い訳ではない。ナイフなどの短剣なら扱えるだろうが、それで最初の試練を切り抜ける可能性は低い様に思えた。

だから、扱えそうで威力のある銃を選んだ……スナイパーライフルは趣味だったけど……最悪、途中で捨てても良いと思っている。


ただ、銃には弾数制限がある。

もちろん弾が無くなれば、この世界で調達しなくてはならない。

しかし……


「大変申し難いのですが、刹那様。あちらの世界には銃弾は存在しませんが……」

そう女神様はおっしゃった。


当然、私もその可能性は考えた。魔法がある世界では必ずしも銃や爆発物は必要としないだろうと……

しかし、銃弾は無くともその世界が別宇宙の地球だと言うなら、素材になる物質は存在するはずだ。


「無ければ、造ればいい……」


そして私は、銃に関する知識以外にも銃弾と火薬の製造知識も貰ったのだ。

P229用のパラベラム弾なら何とか造れるだろうと……ただ、M98Bのラプアマグナム弾は無理かもしれないと半分諦めている。

だから初期弾数としてそれぞれ一〇〇〇発と五〇〇発を用意してもらった。この弾数を使い尽くす前に何とか製造できなければ、この異世界で武器を変更するしかない。


もう一つ、この選択には重要な問題があった……

それは銃と弾丸だけで二〇キロを超える重量になる事だった。私はそれなりに鍛えているので、そう苦にならないが、それでもスピードも持久力も落ちる。

人里までの行程が長くなればなるほど私の生存確率は急低下していくだろう……


そんな事もあり、ここから進む道は慎重に選ばなければならなかった。


「……この世界でも、やっぱり楽には生きられないんだ……」


私は今までの自分の境遇を思い出しながら軽くため息をついた。


その時、巨樹の間を一陣の風が吹いたかと思うと、目の前で木の葉が舞い上がった……そして、その後に一人の少女が立っていた。

可愛い花びらの様なフリルの付いたグリーンのドレスを着た少女が……そこに浮いていた。


妖精? 

それよりも、敵か味方か……


そう思い、腰の銃に手をかけながら警戒していると


「あなたが女神様のおっしゃっていた渡界者ですね?」


「⁉」

女神様に渡界者……

「あなたは敵ではないのですね?」

「えぇ、敵ではありません。森の女神様から手助けをする様にと仰せつかった者です」

「……? 生命の女神様ではなく森の女神様?」

「はい、そうです。転送先の遺跡にちなんだ女神様が助力くださる様ですね。申し遅れました、私はこの巨樹の森に住まう妖精族ドリュアスのレルンと申します。渡界者たるあなた様を無事に巨木の村フラーまでお送りする様に仰せつかりました」


妖精族ドリュアス……木の精霊ドライアドの事だ……やっぱり自分達の世界の影響が色濃くあるんだろうか?

私はフワフワと目の前に浮かぶレルンと名乗った妖精を眺めながらそんな事を考えていた。

この世界を作った神様の『エーテリオン』が私達の世界で生まれたのならそれも当然なのかな……

でも……今更ながら……


「本当に妖精なんだ……」

味方が……村への道標が現れて安心したのか、ようやくそんな素直な感想を口にしていた。


「ふふっ、あなた方には妖精族は珍しいのですね」

「あっ、いえ……ごめんなさい……」

レルンの言葉に彼女をまじまじ見詰めていた自分自身に気付いて顔が熱くなるのを感じた。


「いえ、気にせずとも良いですよ。この世界でも私達ドリュアスは珍しい存在ですから」

レルンはそう言って再び微笑んだ。


良かった……この人は悪い人じゃなさそうだ……

妖精だと言っても見た目は完全な少女だ……だから人で良いんだよね……多分……


「では……そう言えば、まだお名前を聞いていませんでしたね?」

「あっ、すみません。私は木咲刹那と言います」

「いえ、謝る事ではありませんよ。キサキセツナさんですね……では、セツナさん。そろそろフラー村へと向かいましょうか」

そう言ってレルンは笑顔を向けてきた。


「はい。お願いします……」


ああぁ……やっぱり他人との会話は苦手だ……

せっかく異世界に来たのに……コミュ障キャラをリセットするいい機会なのに……

……

……徐々に頑張る事にしよう……


どことなく楽しそうなレルンとは対照的に、少し落ち込み気味で移動を開始しようとしたその時


『世界の守り人たる少女よ。これを持って行くが良い……汝の旅路に幸あらん事を……』


頭上から頭の中に響く声が聞こえた。

その声に驚き天を仰ぎ見るが、誰もいない……が、何かキラキラと光りながら小さなモノが降って来るのが見えた。


「あら⁉ 珍しいですね。エルエトンのあなたが人に話しかけるなんて」

「エルエトン?」

レルンの声にそう聞き返していた。


「えぇ。トレントの上位種族で木々たちの王。私達の目の前にあるこの神代樹の事です」

「この巨樹が?」

「そうです。世界に何本かある神代樹の一本です。私達森の民にも滅多に声をかけないのですが……やはりあなたはこの世界にとって特別な存在なのでしょう。その証拠にほら、神代樹の実ですよ」

そう言うと私の目の前に降って来た光る木の実を指差す。


「これが神代樹の実? まるでどんぐりの形をしたエメラルドだ……」

「どんぐり……ふふっ。そうですね……形はどんぐりですね」

レルンは笑いながら答えた。

「しかし、それは滅多にお目にかかる事の出来ないレアアイテムですよ。その実があれば森の民はこぞってあなたに協力を申し出るでしょう。刹那の今後の旅に大変役立つ物ですので決して失くさない様に」


……そんなレアアイテムをいきなり貰ってしまって良いんだろうか?

レルンという協力者が現れた事だけでも幸運なのに……こんなアイテムまで……

……これは……何かの間違い……そんな都合の良い事が……


「……あの~刹那さん? 大丈夫ですか?」

「……レルンさん……私……もう……死んじゃうかもしれません……」

「えっ⁉ 何を急に言い出すんですか⁉」

「だって……異世界に来て……いきなりレルンさんに会えたり……こんなモノまで貰うなんて……そんな幸運が続くなんて……多分……一生分の運を使い果たして、直ぐにでも凶悪なモンスター出会って死んじゃうんじゃないかと……」

「……ふっふっふっ……あはっはっはっ……」

私はレルンの笑い声に顔を上げる。


「ごめんなさいね。刹那が可笑しな事を言うものですから……一生分の運を使い果たすなんて……そんな考え方があるのね……ふっふっ」

私は余りにも楽しそうに話すレルンにムッとしながら反論した。


「幸運は皆に平等じゃない。その幸運を使ってしまえば後は不幸が降りかかるばかり……少なくとも私には幸運以上の不幸がやってきていた……」


「……刹那の過去に何があったかは私には分かりませんが……運とは巡り合わせです。幸も不幸もただの偶然。それに意味を求めても意味の無い事ですよ。生き物は生まれ死んでいくまでの環境はそれぞれです。一つとして同じものは無いでしょう……その中で幸運と不運の定義も様々です。つまり平等かどうか何て本人の基準でしかないのです……まぁ、短命で脆弱な人種がその様な事にこだわるのは分からないでもないですが……そもそも、その考え方だとその人の幸運の総量はどうやって推し量るのですか?」


レルンはそこまで話すと私をジッと見つめた。


「……刹那がここでの出来事を幸運だと言うのなら、それは幸運なのでしょう。しかし、その幸運が人生の全てだったなんて……そんな事分かるはずがありません。何故なら未来は決まってなどいないのですから。それに、こう考えてはいがかですか? 今まで使っていなかった幸運をここで使ったと。まだこちらの方が理に適ってそうですけど……」


そこまで言われるとそうなのかも思ってしまう……視点が変われば状況は変わる……

今まで使ってこなかった幸運が溜まっていた……


「確かに、今までの人生を振り返ればこの位の幸運が溜まっていてもおかしくない様な気がするけど……」

 

 何だか良い様に言い包められた感じもしないではないけど……

ただ確かな事は、未来は決まっていない……そして変えられるという事。

これには賛同できる。


今私がココに居る様に……

そう思うと少し気持ちが軽くなった。


「運の先取り何て確かに変な考え方だった……かな」


「うふふっ。刹那は苦労性ですね……自身の幸せに慣れていらっしゃらない。これからが大変そうですけど……人は成長していくものですから、見守る事に致しましょう」


私は気を取りなおし進もうかとしたのに、レルンは何やら独り言を言っている

「レルン何か言った? それより、フラー村に向けて出発しない?」

 

「いえ何も。そうですね、では参りましょうか」


いよいよ異世界での冒険が始まる。

スタートから色々あったけど、ここからが新たな旅立ち……

私は期待に胸膨らませながら森の奥へと踏み出した

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