第21話 すべてのクエスト完了! そして……
簡単な自己紹介の後、ユグド王国に一度戻る事になった。
その道すがら、お互いの事を少し話した。
その中でも気になるのがお互いの武器である。
「しかし、よく銃なんて選んだね。弾って無限じゃないよね?」
「無限じゃない。だから弾と火薬の製造方法も学んだの……」
「チャレンジャーにして堅実だなぁ。確かに現代人なら銃が一番確実で安全だと思ったけど……残弾制限と弾の補充を考えて選択肢から排除したんだけど……結果的にこの世界には純粋な銃は無かったし、火薬も……なかったよね? カルノス?」
「ん~と……話に聞く様な……」
「銃の弾薬に使われる様な火薬は存在しませんぞ。あるのは我ら錬金術師が扱う実験的なモノだけ。まぁ、それも致し方の無い事。爆発や燃焼効果も魔法の方が上でしたからね」
カルノスが答えを絞り出す前に横からクレイが割って入って来た。
彼は元ゼダ魔法学園都市の錬金術師で、セツナと共に森のドワーフ村に居候していた人物だ。
「そうなんだ。ありがとう」
「いえいえ、どういたしまして」
「で、弾に使える火薬も無かったわけだけど……それでもセツナは今ココに生きて存在する! 本当に凄いよ!」
「そう……かな」
セツナは小さな声で答えて少し顔を赤くするが、表情は余り変えない……
……時の賢者様を思い出すなぁ。
「そうだよ。最初を生き抜くだけの弾丸を持って後は自給自足。地球と成り立ちが同じなら火薬の材料も手に入るはずだ! その判断が見事当たった訳だし。しかし本当に会えて良かったよ。下手したらみんな最初の町に辿り着く前に殺られている可能性も考えてたから……」
「それは私も同じ。ここは普通の……現実の世界だったから。小説やゲーム感覚で来て、皆が後悔していないか心配してた」
「考える事は同じか」
「あなたは、大丈夫そう……とても楽しそうだね」
そう言ってセツナは少し笑顔になる。
そんなセツナに顔を近づけて周りに聞こえない様に小声で答える
「それはそうさ。オッサンはそれなりの覚悟でココに飛び込んだからね。生きているなら存分に楽しまないと♪」
セツナは一瞬目を見開いたが、すぐに
「それもそうね」
と笑顔で返してくれた。
そしてユグド王国の王の間に帰り着くとそのまま大宴会が始まった。
王国開放から直ぐにファブニール討伐が行われた為に準備は進められていたが延期になっていた祝賀パーティーである。それにドラゴン退治も加わり盛大に行われた。
「皆、ようやく積年の屈辱をすすぎ、このユグド王国を我らがドワーフの元に取り返す事が出来た。これで無念の内に散っていった同胞と先祖の英霊達に顔向けが出来る。本当に今までよくやってくれた。礼を言う」
新国王のバンダルが挨拶する。
最初は渋っていた様だけど、王国を取り戻したのなら新しい指導が必要だと周りに説得されて引き受けたそうだが、王弟なんだから仕方ない様に思う。
まぁ、皆に乞われて王位に就くなら重責も糧に出来るんじゃないか……自分なら逃げるけど、と無責任な思考を巡らせていると
「レンヤ、アルティ、カルノス」
と名を呼ばれ、バンダルの前へと進められた。
「そして、王国開放に協力してくれた三人の冒険者達に感謝の意を込めてユグド王国英雄騎士の称号を贈る事にする!」
英雄騎士て何? と思ったが、その発表直後の『おおぉ~』と言うドワーフ達のどよめきとアルティとカルノスの驚いた表情から凄い賞か何かなんだと理解した。
ここは、よく分からないけど合わせておこう……と隣の二人にならって恭しく一礼しておいた。
「そして、先のファブニールとの闘いではこの三人に加えキュアンやギル、そしてファバル達ドワーフの戦士達、更にフラー村からの使者、セツナ殿の活躍で見事討伐する事が出来た。改めて礼を言わせてもらう。この者たちには報奨金を授ける事にする」
そう言うと、バンダルは前に進み出て皆に向かい
「皆の者、杯を…… 今日、ココに新たなるユグド王国の誕生を祝おう!」
『乾杯!』
ココからは完全な無礼講である。
国王も他のハイドワーフ達も普通のドワーフ達に紛れて酒盛りだ。
自分達もようやくの休息とクエストの完了を喜び合った
「それにしても、俺達ってすごいよね。ドワーフの王国開放にドラゴン退治までしちゃったんだから~」
「ほんとだよね。まさか単なる観光のつもりだったのに」
カルノスは既に上機嫌だがアルティは珍しくペースを抑えて蜜酒をチビチビ飲んでいた。
「こんな大事になるなんてなぁ……でもお陰で、相当冒険者ポイントは上がった! それにだ! ドラゴンキラーの称号もゲットしたし最高の結果だ!」
「ちょっと羨ましい……」
コチラもチビチビと酒を飲んでいたセツナがボソッと呟いた。
「そんなに渡界者にはドラゴンキラーの称号が魅力的なの?」
顔を赤めたカルノスが自分とセツナを交互に見ながら訪ねてきた。
「それはそうさ。なんたってカッコいいからな!」
と胸を張る。
それに小さく頷いてセツナが同意する。
『……』
周りのみんなはそんな答えに顔を見合わせ、そして大笑いした。
「あはは、そんな理由なんだ⁉」
「カッコいいからと理由で、ドラゴンに挑むとはの!」
「はっはっはっ! 豪気じゃ」
皆が好き勝手に笑い合う。
「なら、次はドラゴンスレイヤーを目指さんとな!」
「「当然!」」
その二人同時の即答に、再び周りは笑いに包まれた。
そうしてユグド王国の夜は更けていったのだった……。
翌日、自分達は目的を果たしたのでエヴァン村に帰る事にした。
ギルも王国には残らずに村の鍛冶屋に戻るという事でファバル共々一緒だ。
それとセツナとクレイがエヴァン村を見てみたいと言うので、少し賑やかしい帰途になる。
今回は想定外の事だらけだったけど、そのお陰で随分と経験も積めたし、仲間にも会えたし、とても充実した日々だった。
それに……
今回の報酬である。
魂封の白虹玉が二本で一〇〇〇万リオン、その内六割が自分達の取り分で、残りの四割をアンデッド討伐クエストの仲間達へ分ける事にしたので、自分達は一人約二〇〇万リオン。そして王国開放クエストの報酬が全部で一人二〇〇万リオン、更にファブニール討伐の報酬が一人一〇〇リオンの合計五〇〇万リオン、円換算では二億円相当である!
が、それだけではない。
今回倒したファブニールから大量の素材が手に入ったという事で、その素材からドワーフの職人が武具を作ってくれる事になったのだ。
また、生命ポイントの方も一五〇万ポイントを超える激増だ。
と言ってもこの世界の問題からすれば微々たるものではあるが、こればかりは仕方ないと割り切って地道にやって行くしかない。
そして、今回の一連のクエストでは十分過ぎる報酬をゲットしただけでなく、冒険者としての経験値も大きく増やす事ができた。
数的不利な状況でのモンスター戦にドラゴン退治……その経験だけでなく、ドラゴンキラーと英雄騎士の称号もゲットできた。
因みに、よく知らなかった英雄騎士とは、それぞれの国の最高責任者が外部の者に与える最高クラスの称号らしい。
その為、名誉職の様なモノでその権威には天と地の差があるらしく、どの国のどの様な功績に対しての称号かが大事になってくるのという事らしい。
となると気になるのが、ユグド王国の英雄騎士の称号だけど……
十分に権威ある称号という事だった。
それもそうか、ハイドワーフが治めていた三王国の一角だもんなぁ……
本当にそんな王国の開放に関わっちゃったんだなぁ……
そんな少し不安な気持ちを煽る様に
「その称号は今後、王国復活と共に世界中に広まっていくじゃろうな」
とギルは言っていた。
ドワーフのユグド王国を開放した冒険者として……
いやぁ~、それはまさに名誉な事だけど、変に名前が売れると厄介事に巻き込まれないか心配なんだけど……
でも、仕方ないか……お約束の様に異世界で王国開放しちゃったし……
普通にゲームのような展開になってきたけど、そうなってみると、これこそが醍醐味! て感じに思えてくるのが不思議だよなぁ~……
まぁ、なんだかんだ言って本心は、こう言う冒険譚に憧れがあったんだからそれも必然か。
「今更、そんな事を気にしてもしゃーないか」
「……ねぇ。さっきから何ブツブツ言ってるの?」
「いや、何でもない。さぁ、我が家に帰ろうじゃないか」
エヴァン村に向かう道はまだ雪に覆われている。
その道を一歩一歩踏みしめながら思う……
色々あったけど、まだこの世界に来て一年経ってないんだなぁ~と。
この調子で成長していき、色々とイベントをこなしていくと本当に世界を救うんじゃないか、そんな錯覚に陥ってしまう自分がいる……
まぁ、世の中そんな都合がいい訳でも、甘い訳でも無い事は十分わかっているのだけど……それでも夢みがちに今まで生きて来たのも……生きて来れたのも自分である。
だからこそ、ココに居るんだろう……
そんな事を思いながら、ちらりとセツナの方を見る。
彼女はこの世界で今までどんな風に過ごしていたんだろうか……
気にはなるが、焦る必要はない。
客人をもてなす代わりに、十二分に語ってもらおうじゃないか! ワクワクとドキドキの冒険譚を♪
さぁ、皆で家に帰ろう。
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