第20話 ファブニール討伐に仲間参戦!
今までは財宝を守る様にして戦っていたのが、今やなりふり構わず爪を振りかざし、尻尾を叩きつけての大暴れだ。
その為、今までの様に特定カ所を集中的に攻撃する事が難しくなった。
そして背後に回った自分達も決め手に欠けていた。
その硬い体に自分とアルティの攻撃が通らないのだ。それでもファバルの片手斧二刀流とカルノスの魔法で何とか牽制は出来ていたのだけど、時間と共に無視され始めた。
「これはマズイな。背後に回った意味がない……役立たずかも……」
「仕方ないよ、僕達の武器では」
「そうは言っても、アルティは目を射抜いたやん? それに比べ自分は……」
「こんな時にすねない! 少しでも攻める! カルの魔法も効きづらそうなんだから」
「そう言えば、前みたいに対土特化の植物魔法を使ってないな」
今のアルティとの会話が聞こえていたのだろう
「ここは山の下の洞窟だから、植物魔法だと魔力消費がハンパじゃないんだよ! それに効果も落ちるし、さっきの『エリア・プレス』で打ち止めだよ」
と答えた。
いよいよジリ貧だな……
伝承の様に腹の下からなら攻撃も効きそうなんだけど……潜り込めそうにないし……
そんな事を考えていると頭上を右から左へと尻尾が勢いよく通り過ぎ、前方の仲間を攻撃するのが見えた。
「この尻尾邪魔だな! これをどうにか出来れば大分楽になるんだけど……」
そう思いながら尻尾の動きを先の方から付け根へと目で追って行った。
「硬いくせによく動く尻尾だな」
尻尾も腹側以外は棘の硬い外皮に覆われていたが、いくつもの節に分かれている為に自在に素早く動く様だった。お陰で攻撃が通りそうな節を集中的に狙う事が出来ないでいた。
「ちょっと、効かないからって見てないで攻撃してよ!」
「どうした。もうへばったか!」
アルティとファバルが戦いながら声をかけてくるが、それに反応しかかった身体は止まり、視線はある一点に釘付けになった。
しなやかに動く尻尾の付け根……今まで硬い外皮かと思っていたけど……
「あそこだけ、鱗の様に上下に重なっていないか」
「え? 何処?」
アルティが聞き返してくるが、それに答える事無く自分は猛スピードで走り出した。
その間も尻尾は左から右へ攻撃し続けているが、それを低い体勢で避け、構わずそのまま尾の付け根へと迫る。
そして勢いを殺すことなく之定を付き出す!
スキル『岩通し』
まぁ、単なる突き攻撃なのであるがスキル昇華するまで鍛え上げた。
そのお陰で落ちる木の葉の主脈を立てに突き通せるまでになっていた。
その正確な突きが上下に重なり合う隙間に、見事入り込んだ。
しかも、刀身の半ばまで突き刺さった。
「げっ⁉」
これには驚いたが、ままよと、そのまま下に押し斬り抜いて、一気に後方に下がる。
当然ファブニールは怒りの咆哮を上げ、尻尾で今度はこちら攻撃して来た。
しかし尻尾を激しく動かした事で、さっきの隙間から血が噴き出し外皮が大きくめくれ上がったのだ。
それを見て自分は号令した!
「集中砲火!」
『エイス・スフェラ』
『シューティングアロー』
『刀閃』
掛け声と同時に、三人の遠距離攻撃が尻尾の付け根にさく裂した。
それにより付け根の外皮は三割ほど弾け飛び、大きく肉を削る事に成功したのだ。
これで尻尾を切り落とせる!
そう思い、再び突っ込む!
思いは同じか、ファバルも同時に走り出していた。
しかしファブニールは怒り心頭なのかこちらに向きを変えた。
こっちを先に片付ける気か⁉
その場にいた全員がそう思ったに違いない。
だから自分とファバルは足を止め身構えた。
そしてギルやキュアン達が尻尾の付け根に攻撃を仕掛けようとした時にファブニールが後ろ脚で立ち上がったのには皆が一様に驚いた。
「なっ⁉」
「自ら腹を晒すとは……」
自分とファバルは呆気にとられていたが、アルティは冷静に渾身の矢を放っていた。
その矢は見事、ファブニールの喉元に突き刺さったが、致命傷にはならなかった。
それでも、その攻撃で自分達はまた走り出そうとしたのだ……
しかし、その瞬間!
ファブニールが少し背を丸めたかと思うと、一気に体中の棘が伸びた!
「何ッ⁉」
「うがぁ!」
この意外な攻撃に攻めかかっていた部隊はだけでなく、盾部隊も陣形を崩され負傷者が続出したのだ。
「あんな攻撃手段が残ってたのか!」
「ギル様⁉ ご無事かー⁉」
「皆! 大丈夫⁉」
ファバル、アルティが仲間を心配して声をかけるが……
その光景に一瞬目を奪われていた自分達を後悔した。
「ッ⁉ ファイヤーブレスだ!」
意外な棘攻撃と炎の連続攻撃…どちらも避ける事も出来ずまともに食らってしまった。
棘には毒があったのだろう。
掠り傷程度だったドワーフ達の動きが鈍い……
こちらは四人とも炎のブレスを耐火マントとレジスト魔法で凌いだが、マントはぼろぼろ、レジスト魔法の効果は消し飛んでしまいアルティとカルノスにはダメージがあった様だった。
「大丈夫か⁉ 三人とも⁉」
その問いに一番離れた位置にいたカルノスは無言で弱々しく手を上げる
「僕もなんとかね……でも動けるまで少し待ってほしいかも……」
「儂の方は大丈夫じゃ! 鍛冶屋が火なんぞでくたばれんわ!」
四人とも何とか無事の様だな。
ならここで手を緩める訳にはいかない。
それにファブニールは少し前屈み気味になってはいたが、未だに腹を晒して立っている。この好機を逃しては!
そう思い攻撃に移ろうとして、再び動きが止まった……
ファブニールの口元から紫色の霧が漏れていたからだ。
「毒のブレス……」
とっさに後方にいたアルティの元へと走った! カルノスとアルティのダメージでは回避行動は無理だろう!
かと言って自分やファバルにもあの範囲攻撃を躱す手段は無い……このままでは全員が毒を受ける……そうなると次の攻撃を耐えるのは難しいだろう。
せめて、解毒処置の出来るアルティが残っていれば可能性がある!
自分はアルティの元に着くなりその顔を胸に押し付け覆いかぶさる様にファブニールに背を向けた。
もしかしたらここまでかもな……一年持たなかったか……
走馬燈と共にそんな弱気な考えが頭をめぐる中……
『皆! 目を伏せてっ!』
そんな大声が前方……洞穴の奥から聞こえた。
声の方に顔を上げた時に、視界の端に、頭上を通り過ぎる何かが見えた気がした。
そして
「早く目を伏せて!」
何か頭をよぎるモノが在り、咄嗟にアルティを強く抱きしめ目を固く閉じた。
その直後、
『バシュッ』と言う音が背後でしたと思うと瞼越しに世界が明るくなった。
それと同時にファブニールの雄叫びが聞こえた。
もしかして閃光弾の様なモノか?
「なんじゃー⁉ 今の光りは⁉」
「おごぉー! 目が~……」
後方からそんな声が聞こえたのと、自分達の横に何者かがやって来たのを感じて目を開いてその何者かを見た。
そこにはジーパンにファー付きの革ジャン、鍔付きの帽子に昔のパイロットゴーグルをはめたショートヘアーの女の子が立っていた。
ほぉー……様になってるなぁ……
「レン兄~。苦しい~……」
謎の少女に少し見惚れていたがアルティのくぐもった抗議で我に返る。
「あっと。悪い」
「ぷは~……。どちら様?」
アルティは深呼吸の後に隣にたたずむ少女に尋ねたが
「まだ、倒したわけじゃないから。今の内に攻撃を」
その言葉に、そうだったと現状を思い出してファブニールに向き直る。
そのファブニールはあの光をまともに見たのだろう。両腕で目を覆いながら天を仰いで咆哮を続けていた。
今度こそ好機だ!
自分は之定を構えて突進する。その横で少女が両手を突き出すのが見えた。
魔法でも使うのか? そんな風には見えなかったけど……
そんな事を考えながらも突進する。
ファバルは、自分と同じ様にファブニールに突進していたが、途中で持っていた斧を二本とも思いっきり投げつけた。
その内の一本は首元に食い込み、もう一本は咆哮する口の中、上顎に深々とめり込んだ。
そして後ろからは
『タンッ! タンッ! タンッ!』
と言う音が響いたかと思うと、ファブニールの胸や腹から血が噴き出した。
えっ⁉ これってもしかして銃声⁉
そんな事が頭をよぎり後ろを振り返りたい衝動に駆られたがファブニールは目の前に迫っていた……
それに、こちらにのしかかる様に倒れてくる。
その為、振り返りたい衝動を抑え、突進の勢いを緩めずに倒れ込んでくるファブニールの真下に走り込んで、プラーナを集中させた渾身の突き攻撃を繰り出す!
スキル『螺旋槍』!
そのスキル発動と共にプラーナは之定を中心にドリルの様に渦巻き、突き出した切先はファブニールの胸を貫き、そのまま背中の外皮をも弾き飛ばしたのだった。
……危なかった……倒れ込んできたから、それを利用できるかと飛び込んだけど……これって下手したら下敷きになってたよな……
「内からの攻撃で外皮がはじけ飛んでくれて、ホント助かった……」
ファブニールに出来た穴の中でそうつぶやいたが
「ちょっと、レン兄! また無茶してっ! どういう事⁉」
そうですよね~……
「反省してます……」
そう言ってアルティの手を借りてファブニールの背に上がると、周りは既に大歓声に沸き立っていた。
「さすがはレンヤじゃ! ようやった!」
「素晴らしい勇気じゃったぞ! あそこで飛び込むとはのぉ」
キュアンとギルが声をかけて来た。
「いやいや、今回はたまたまで……ファバルの投げ斧が既に致命傷を与えてたと思うし、それに、あの女の子助けがなかったら殺られてただろうし……そう言えばその女の子は?」
「あそこにおるぞ」
そうギルが指さした先には、初めて見るドワーフ達と人間と共にたたずむ少女の姿があった。
「あのドワーフ達は北の大森林に住む森のドワーフ達じゃ。先の王国開放戦に協力要請をしておったんだが、遅れて来たのが幸いした様だの」
「森のドワーフ?」
「地下の王国から離れて森の中で独自の暮らしをしているドワーフ達だよ」
そう教えてくれたのはいつの間にか隣にやってきていたカルノスだった。
「もう大丈夫か?」
「それはこっちの台詞。また無茶して! 俺はレンヤ兄が潰されたかと思ったよ」
「はっはっはぁ……ごめん……」
これは暫く二人に言われるな……それより、さっきは気が付かなかったけどあの少女が腰に持っているのは
「あれは、やっぱり銃だよな?」
「あれ? レンヤ兄は魔法銃を知っているの?」
「魔法銃⁉」
「そうだよ。錬金術師が作り出した魔法を打ち出す武器だよ。そう言えば、渡界者の技術を元にしてるって、だからレンヤ兄は知ってるのか」
魔法銃か、こっちにも銃なんてあったんだな。
もしかしたらお仲間に会えたかと思ったんだけどな~残念。
「あれも魔法だったのか、なかなかの威力だな」
そう言って少女の銃を見ていると、視線に気が付いたのかこちらに歩み寄って来る。
「そこなんだよね~。俺の知ってる魔法銃はドラゴンを相手に出来る様なもんじゃなかったんだけどなぁ」
そうなの? 聞き直そうとした時
「あなた、大丈夫?」
謎の少女が話しかけて来た。
「あ、あぁ。大丈夫だ。それより、助けてくれてありがとう。君の閃光弾が無かったら危なかったよ」
「閃光弾……」
あ、閃光弾なんてこの世界にはないか……
「やっぱり、あなたは日本人?」
「……日本人って言った? 今?」
「言った……」
そんな少女をまじまじと見つめ……そして不意に抱きしめていた。
「やったー! お仲間に会えたー!」
そう叫びながら少女を抱きしめていると。
「セクハラで訴えますよ」
その言葉に『はっ⁉』としてすぐさま腕をほどき両手を上げる。
「悪かった……」
「放してくれれば、それで……」
そう言って少女は少し頬を染めるが、横でこちらを睨むアルティの視線が痛かった……
「おっと、そう言えば自己紹介がまだだった。自分は結城連也、時の賢者様に呼ばれてきたんだ。よろしく!」
「私は、『
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