第19話 ついでの様にドラゴン退治が始まった。

自分達は掃討作戦があらかた片付き、食事をとって寛いでいた。


これで全て終わったと思っていた……が、ここで大問題が発生した。

丸一日かけてディアドラが宝物庫の封印を解いて中に入ってみると、なんとお宝がごっそりなくなっていたのだ。

そして残されていたのは大きな横穴だった。

それを見たディアドラが渋い顔をする。


「これはマズイね……」


「婆様、これはもしかして、アレか」


ギルもその横穴を見て神妙な顔で訪ねる。


「ギルはこの穴が何か知ってるの?」


アルティも興味深々に穴を覗きながら言うが……自分には何となく想像が出来た……


これってアレだよな……お宝と洞窟と言えばお約束のアレ……


「嫌な予感しかしないんだが……」


「なんじゃ、レンヤは分かっとるの! 想像の通りこの穴はドラゴンのもんじゃ」


だよね~……て事は当然この後は


「討伐隊を結成せねばならんな。なぁ、婆様よ」


「そうだね、問題はどの種類が入り込んだのかだけどね」


という事でもう一仕事する事になった……なってしまった……


しかし、どんな場所にどんなドラゴンが居るのか分からないのでは対策が立てれないという事で、今は偵察隊を送り出している所で、自分たりは待機中だった。


「なぁ、ドラゴンなんてこのメンバーで倒せるのか?」


ドラゴンはこの世界の脅威として作られた種族だったはずで……それはつまり、強大な力を秘めているという事だ。

それを知った時は、さすが現世の知識の影響を受けているだけあって、この世界でもドラゴンは強敵なんだと思ったものだが……


今まで自分が戦ってきた敵から一気にランクアップした相手になる。

はっきり言って今の自分が勝てる相手ではない。


「そうだな……上位種だと無理だろうけど下位種なら何とか……」


カルノスの返事も歯切れが悪い。


「相手も分からない内から怖気づいてどうするのさ。それにレン兄だってドラゴン退治は既にしてるよ」


「へ? いつ?」


「フォレストバジリスク退治で」


そう言ってアルティは笑う。


それは冬の始まる前に、以前逃げ出したフォレストバジリスクにリベンジをしようと挑んでいたのだけど……いくらドラゴン種に属する魔獣でも、どう見ても大きいトカゲだった。それにあの時のバジリスクはまだ成体ではなかったから三人で倒せたのだ。


しかし今回の相手は、金銀財宝を囲い込む特性からしてもっとドラゴンらしいドラゴンな気がする……

 

そして、その予感は的中した。

しばらくして偵察隊が戻って報告して来たのは……


「ファブニールか……」


皆が一様に険しい表情になった。

明らかによろしくない相手だったんだろう。


『ファブニール』は現世でも有名なドラゴンの名だが


「カルノス。ファブニールはどの程度のドラゴンなんだ?」


「下位種だよ……」


あれ、意外だったな。てっきり上位種かと思った。


「なら、勝て……」


「下位の最上位ランク」


「……」


あれ? 下位の……最上位? 上位じゃなくて、最上位?


「因みに、バジリスクはどの位?」


「バジリスク? 下位種の下位だけど」


「そうなんだ……で、何故皆は渋い顔してるんだ?」


「えっと、ファブニールはアースドラゴン属なんだけど、その種はみんな鱗が凄く硬い事で有名でね。以前戦ったジュエリークラブや岩石蛇の比じゃない」


ただでさえ硬いドラゴンの中でも防御重視なのか……


「と言う事は、弱点は腹か口の中って事か」


「その通りだよ。でも毒と炎のブレスには気を付けてね。威力も範囲も今までとはケタ違いだから」


そんな会話をしていたら後ろからギルに声をかけられた


「なんじゃ、三人ともドラゴン退治がしたくてうずうずしとるのか?」


「いや、そう言う訳じゃ……」


「なんじゃ、違うのか? 一流の冒険者を目指すなら『ドラゴンキラー』の称号位持っとらんと寂しいじゃろうと思ったんじゃが」


「……今なんと?」


「ん? ドラゴンキラーの称号と言ったんじゃよ」


ドラゴンキラーの称号……なんて素敵な響きだろうか……

異世界に来て冒険者になったのなら、憧れないはずがない竜殺しの名……


「ギル、ファブニールを倒したらドラゴンキラーの称号が貰えるのか?」


「ああぁ、貰えるとも。ドラゴンスレイヤーにはちと足らんが、ドラゴンキラーには十分の獲物じゃ」


「よっしゃー! やる気が湧いて来た!」


「そんなんでいいの?」


「レンヤ兄もミーハーだね。称号目当て何てさ」


そんな二人の冷ややかな言葉が飛んでくるがお構いなしだ。

どちらにしろ討伐に参加するなら目的がある方が良いに決まっている!と言うか……


「なんだ、二人はドラゴンキラーの称号はいらないのか?」


の問いに、自分と目をそらして


「「……欲しい」」


と恥ずかしそうに呟いた。

 

そして結成された討伐隊はキュアンを指揮官とした総勢五〇名の部隊が編成された。

その中には当然自分達三人とブリギッドにギル、それにギル鍛冶店のドワーフ、ファバルも入っていた。


「ファバルも来てたんだ」


「来とったわい。村であっただろうが⁉ 王国を取り戻す大戦じゃと意気込んで来てみれば、既にお前さん達が殆ど片付けてしまいおって肩透かしをくらったからの。じゃから今回は儂も暴れさせてもらうぞ!」


頼もしい限りだね。

しかし、五〇人程度で倒せるのかな……


ファブニールが潜む洞穴は横長で狭く大部隊を展開するには不利な地形という事だった。

その為に背後や側面に回るのが難しいと言う。

しかし誰かが回り込まねばならない……のでその役目が自分達に回ってきたのだが、正直不安しかない。


道すがらも、そんな事を考えていたのでアルティにあきれられてしまった。


「もう、いい加減覚悟決めなよ。もうすぐなんだから」


「そうは言っても、やっぱりドラゴンだし今までのモンスターとはケタが違うんだろ? そう思うと色々考えちゃって……」


「そうだけど……ドラゴンキラーの称号を取るって言う意気込みはどうしたのさ」


「仕方ないんじゃない? レンヤ兄はドラゴン自体を見た事もないんだし、それにまだ冒険者になって一年経ってないんだ。不安にもなるさ。ただちょっと情けないとは思うけど」


『ぐさっ!』 カルノスにまで……


自分だって死ぬのが怖くて不安になっている訳ではない。むしろ死の恐怖は感じないどころかその危険性が冒険をしている実感を与えてくれている様にすら感じている……色々と危ない思考だけどね。

そんなことよりも、目の前で仲間が……アルティやカルノスが倒れたら。自分のミスで皆の足を引っ張ってしまったらという事が不安でたまらないのだ。


「はははっ! 安心せいアルもカルも。前回の戦闘をみて思ったんじゃが、レンヤは戦闘になればスイッチが入るタイプじゃ。じゃから今はその位の方がええ。臆病に色々思考を巡らせておる方がな。それが戦闘時に活きてくる。その臆病さがないと早々に突っ込んで死んでしまうわい」


「えっと、それは自分の事褒めてくれてるの?」


「おおとも。大絶賛じゃよ。臆病にして慎重、戦闘においては大胆不敵! まさに戦場向きじゃな! はっはっはっ!」


そう言ってギルは豪快に笑い、後ろにいたファバルはそれに賛同した。


自分ってそんな風に見えてたのか?

と自分自身考え込んでいると


「確かに、戦闘で無茶する事あるよね」


「何だかんだ言っても、真っ先に切り込む事多いし」


「愛剣を眺めてうっとりしてる事も多い様な……」


「切れ味を試してニマニマしてるのもよく見るし……」


あれ~……なんか二人の視線が痛いんですが……

何かおかしな方向に話題が進んでいる気がするんですが……


止めてっ! そんな目で見ないで!


そんなじゃれ合いの道中もいよいよ終わりにさしかかる。

目の前の洞窟を左に曲がればファブニールのいる洞穴だ。ここで補給隊は待機となり自分達は戦闘の準備を整える。

解毒薬に治癒ポーション、耐火マントに防毒マスク。それとブリギッドが皆にファイヤーレジストの魔法をかける。


そしていよいよ突入だ。

当然ファブニールも既に気付いているはずだ。

その洞穴へキュアンと盾隊一四名が気合と共に突撃する


「我に続けー!」


『うおおぁー!』


そして洞穴に入った直後、炎のブレスが先発隊を薙ぎ払った……様に見えたが盾でしのぎ切った。

それを確認してギル率いる攻撃隊二〇名と弩隊五名が突入した。


盾隊は七名ずつ左右に分かれ盾を二段に構えて陣地を造りブレスの退避場所を造り、弩隊は洞穴入り口付近から鋼の矢を打ちかける。

そして攻撃隊は両手斧にハンマー、フレイルを手にファブニールに襲い掛かる。


そんなドワーフ達にファブニールは鋭い爪と大きな牙、そして棘だらけの尻尾で応戦する。どうやらブレスの連射は出来ない様だった。


そのファブニールは想像した様な長い首をもったドラゴンではなく、どちらかと言えばワニに近かった。

重心は低く首が極端に短い。かと言って手足はワニの様に短い訳でもなく、太く頑丈そうでさらに凶悪そうな爪を備えていた。

顔はトカゲに近く頭から背中、尻尾にかけて大きな石筍のような棘が並ぶ。それ以外にも至る所から棘が出ている。

そして全身を覆う皮膚は岩の様で、前評判通り、ドワーフ達の重い一撃を容易くはじき返していた。


「あれ、本当に傷つけれるのか? ギルやキュアンの攻撃も跳ね返してるけど」


「まぁそう簡単にはいかんぞ。持久戦じゃな。皆がバラバラに攻撃しとる様で同じ所を攻撃しとるんじゃ。そうすればいずれ綻びが生まれる」


そうファバルが教えてくれた。そう言われて見なおしてみると、確かに移動しながらでも同じ部分を攻撃している様に見えた。


「へぇ~。凄いな。何か目印でもあるの?」


「いくら硬いと言っても多少の傷が付くからの。そこを皆、攻撃しとる」


さすが戦い慣れてる戦士達って事か……


「それよりわしらの出番はまだか」


「次のブレスが来た後だから」


とはやるファバルをカルノスが抑える。


この戦闘ではギルはハルバートではなく両手斧を、キュアンは片手槌を使っている。その二つ共魔法の武器で、ギルの斧はファブニールを切り付けるたびに爆発が起きているし、キュアンのハンマーは衝撃波を出している。

そんな凄い武器でも苦戦しているのが分かる。

それでも皆、攻撃の手を緩めない……


そんな中ついに!


『グアアァー!』


ファブニールが雄叫びを上げた。

見ればキュアンの攻撃で頭の棘が折れ、ギルの攻撃で左前脚の皮膚に亀裂が入っていた。


それを見て思わずガッツポーズをとるがファブニールの方はお怒りの様だった。

再び『グアアァー!』と雄叫びを上げて顔を持ち上げ目の前のドワーフ達を見下ろし口を大きく開いた!


「毒の霧が来るぞ!」


キュアンの叫びと同時にファブニールの口から紫色のブレスが放たれた。

あのタイミングでは何人かはまともに毒を食らったかも知れなかったが、その救助は補給隊に任せて自分達は防毒マスクをして毒霧の中に突っ込んで行った。


この毒霧が晴れる前にファブニールの脇をすり抜けて背後に回らなければならない。途中何人か毒で動けなくなっていたがそのまま走った。

ファブニールもこれを好機と目に入った動けないドワーフに襲い掛かったが


「ウラァー! 儂はまだ動けるぞ!」


「こっちもじゃ!」


ハイドワーフの二人が切りかかり注意を逸らす。


そして毒霧が薄まり始めた頃自分達は後ろ足まで来ていた。

そこで振り返ると、毒で動けなくなったドワーフ達の救助に手間取っているのが見えた。

予想以上に毒を食らったモノが多かったのだろうか、このままでは被害が大きくなる。


「アルティ! 目を! カルノスはバインド!」


その自分の大声に前を走る二人は一瞬驚いた顔で振り返ったがすぐに戦闘準備に入った。

当然、ファブニールにも気付かれたが、コチラの方が速かった。


『ヘッケンローゼ・バインド』

でカルノスが後ろ足と尻尾の動きを封じた。

その尻尾の付け根に自分とファバルが斬り込む……が、案の定はじき返された。


やっぱり硬いな……


ただ、その攻撃が効いたのかは分からないがファブニールが少し後方を見る様に顔をコチラに向けた。

その好機をアルティは逃さなかった。


『ギガス・ケラ・アロー』


弓から放たれたその矢は赤く光ったかと思うと姿を消し、次の瞬間、棘の隙間を抜けファブニールの左目を射抜いていた。


いつもながら鮮やかなお手並みで、と感心している場合ではない。

ファブニールが怯んだ隙に全員で救護と反撃に出た。

その集中攻撃でいたる所にひび割れが生じ始めて血しぶきが上がる。


「もう一息じゃ!」


「オリャァ!」


ようやくまともなダメージが通り始めたのを見ていっそう激しく攻撃するが、ファブニールも負けじと応戦する。

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