第18話 ドワーフ王国開放戦、星を掲げよ!
正直な感想を口にすると、壁には彫刻が施されているので登れない事は無いのだろうけど今はとても時間がない……
……そう言えば、なんかこんな競技あったなっと壁を眺めていると、再び大きな音がして、とうとう敵が入ってきた。
それに対して自分とギルが武器を構えて臨戦態勢を取った時
「僕がやる! カル、それ貸して!」
そう言うと、アルティがカルノスからリュックを受け取り壁に向けて走り出す。
バンダルはアルティに付いて行き、カルノスはこちらの援護に回った。
「ウララァッ! ここから先は通さんぞ!」
ギルは大声をあげて敵に突っ込んで行く! 自分もそれに続く。
扉は開かれた訳ではなく、敵は斧で壊された隙間から侵入して来ただけで数は多くない。
しかも小柄なゴブリンと増援に来ただろう餓鬼ばかりだ。
その為、王の間は自分とギルの無双状態だった! 侵入して来たゴブリン達もこちらに向けて突進して来るし、こちらもその中を突き進んで行く。
ハルバートを猛スピードで旋回させながら進むギルはまるで岩盤を削って掘り進む掘削車の様で面白い様にゴブリン達が斬り飛んでいく。
自分も負けじと二刀流に持ち替えて切り倒して進む。
側面に回ろうとする敵はカルノスが魔法で倒していき敵の死体の山を築いていく。
しかし、ゴブリンも馬鹿じゃなかった。
コチラに攻撃を仕掛けつつ、残りが扉の閂を外そうと必死になっていた。
「カルノス! 魔法でっ!」
「無理だ! 扉まで壊しちゃうよ!」
とのやり取りを聞いて、ギルが近くの長椅子を掴むと思いっきり扉に投げつけた。
それは見事、閂を外す事に夢中になっていたゴブリン達に命中した。
その後も次々と、椅子や机を放り投げ続け妨害を繰り返す。その間自分は、ギルに近づくゴブリンを相手にしていた。
のだが、それもそろそろ限界が近い……隙間は大きな穴に代わりオークやオーガ達が侵入して来た。
「アルティ! まだか⁉」
自分が後ろで奮闘しているだろう仲間に声をかける。
「もう、ちょっと……あと少し頑張って!」
これは何としてでも持ち堪えなくては……
「なぁ、ギル」
「なんじゃい⁉ さっきみたいにはいかんぞ!」
「いや……もう、扉、要らないよな?」
「あぁ? ……確かにそうじゃな」
大きく広がった穴から敵が続々と侵入し続ける扉は、既に扉の役目を終えていた。
それを確かめて自分とギルはカルノスの近くまで後退した。
そして拘束魔法で敵の足止めをしていたカルノスに対して
「もう扉はいらない! ドデカいのをぶちかませっ! 時間は稼ぐ!」
「はぁ⁉ ……あっ、そう言う事か。了解!」
その言葉に一瞬戸惑った様だったが、すぐに魔法の準備に入った。
幾ら詠唱が必要ないと言っても大魔法には意識を集中する僅かな時間が必要なのだ。
その時間を稼ぐため自分は二刀を上段に構え同時に振り下ろした
スキル『刀閃・双撃』
同時に放たれた斬撃は侵入しようとしたオーガ二体を切り裂きその場に沈めた。
その死体に、後に続けと殺到していた敵達は行く手を阻まれる形になった。
これで時間は稼げた!
その瞬間背後に凄い冷気を感じて振り返ると、カルノスを物凄いオーラが包んでいた。
あっ、これは凄いやヤツだ! と思った瞬間
『エイス・ウールヴル・レーヒュル!』
カルノスが魔法を放つと、狼の姿をした氷精が現れ吹雪を伴い竜巻と化して目の前の敵を飲み込んで王の間の扉を吹き飛ばした!
「はぁ~……もう、魔力無いから」
そう言ってカルノスは床にへたり込む……
それにしても凄まじい威力だった。
扉の前にいた敵は全て切り裂かれ凍り付いていたし、何とか魔法を免れた敵もその威力に完全に及び腰になっていた。
そんな中……
「よしっ、嵌めたよ!」
アルティの方も無事完了した様だ。そしてバンダルが壁に手を振れて呪文を唱え始める。
『スヴァルトアールヴ・ラリュミエール・エードラム』
すると、壁にはめ込まれた地底の星がオレンジ色の光を放ち始めた。
その光は徐々に強くなり王の間全体が光に包まれて、少しの間視界を奪われた。
そして視界が回復した目の前には、陽が差し込んだ様に明るい王の間が広がっていたのだ。
その原因は、壁に嵌め込まれた地底の星がオレンジ色に輝き、扉の吹き飛んだ入り口から光が差し込んでいるからだった。
そして自分達五人は王の間を出た。
そこには地上と変わりない明るい世界が広がっていた……今までいた同じ地下王国だとはとても思えない光景だった。
巨大な柱は、仄かな月明かりから満月の様に光り、石造りの建物や石畳の道は所々光を反射してキラキラと輝いている。
そんな街の中を、大混乱に陥った闇の軍団が右往左往していた。
完全な形勢逆転である。
「なんか、凄い光景だね。ある意味、これも絶景だよ」
そうアルティが冗談を言ってきた。
確かに、絶景かもしれない……地下の煌めく街中を、ゴブリン達が縦横無尽に逃げ惑う光景は……
「二度と見れないだろうな」
中にはこちらの姿を見て襲い掛かってくるモノもいたが、大概は逃げ回るだけだった。
そして残った広場の敵を掃討して結界の柱に、結界破りの短剣を突き立てる。
『バキッ! バキッ!』
柱は、短剣を刺した所から音を立ててひび割れが縦横無尽に走り、そして爆破処理で崩れるビルの様に、粉々に砕け散ったのだった。
これで、ドワーフ達を苦しめていた結界は消滅したはずだ。
半日もすればユミル村で待機していたドワーフ達がやって来るだろう。
自分達は取り敢えず、王の間を拠点として合流まで休憩する事とした。
敵はまだいるのだろうがどうやらこの付近には近づいてこない様だった。
いつの間にかゴーレムの数が増えているのもあるのだろうが、指揮官を葬った危険人物が居座っているのが伝わっているのだと思う。
お陰で結界破壊後は一切戦闘は無く、休息を取ることが出来た。
暫くして、ゴーレムと共にディアドラ、キュアン、ブリギッドの三人がやってきた。
向こうは,途中から通路に侵入して来なくなったらしく、睨みあっていた様だ。
そう言う訳で、こちらの話を聞いたキュアンが活躍の場を逃したと悔しがっていた。
「安全が第一だと思うけどね、ハイドワーフは勇敢だな」
「まぁ基本、みんな戦士だからね……でも、レン兄から安全第一なんて言葉が聞けるなんてね~」
おっと、しまった……まだ怒ってらっしゃる。さてどう躱そうか……
「そ、そう言えば、カルノスの最後の魔法凄かったね。まるでフェンリルを召喚した様だったな。いや~、本当に凄かった」
「アレは俺のとっておきの一つだから。ふっふっふっ……て言うかレンヤ兄、フェンリルも知ってるんだね」
「え? ああぁ。それよりアルティも凄かったと思うだろう? それとも見た事あった?」
「……はぁ~。僕もあの魔法は初めて見たよ。それよりフェンリルは知らないけど、氷狼なら今の時期狩れる場所あるよ」
「氷狼⁉ ちょっと興味の湧く名前だね。詳しく!」
「氷狼はね……」
どうやら、お許しが出た様だ。
エヴァン村に戻ったら今度は氷狼狩りにでも行くかな……
それから半日ほどしてドワーフ族の戦士たちと合流して、王国内に残る敵の掃討作戦にも参加したのだった。
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