第17話 ドワーフ王国開放戦、王の間攻防戦!

そこでギルは先手必勝と、打って出ることを提案した。


まだ気付かれていない今なら、王の間まで近づける可能性が高い。カニ型ゴーレムで敵を別の場所に誘導してその隙に地底の星を設置する! と言う作戦案だった。

ほぼ無謀に近い作戦思えたが、この袋小路で消耗戦を強いられるよりは可能性がある様に感じた。


「ギル案に一票」


と自分が手を上げると、他のメンバーも賛同してくれた。


「外で稼働できるガーディアンゴーレムは五体、カニ型ゴーレムが三〇〇体だよ。その内、ガーディアン三体とカニ型二〇〇体を宝物庫に送る。さらにここの通路にもカニ型五〇体配置してこの二カ所で敵を引き付ける。その間に地底の星を設置できれば形勢逆転だよ」


そうディアドラは胸を張るが


「ここに引き付けるのはマズくないか?」


キュアンが当然の不安を口にする。しかしディアドラも引かない。


「あの通路は一体づつしか通れないからね。カニ型だけでも十分対処できるさ。それにもし侵入されてもガーディアンゴーレムも一体いるからね。それにあたしもブリギッドもいるんだから心配いらないよ」


「そうです。私も魔法使えますから大丈夫です!」


ブリギッドもそう言うけれど、やはり心配だという事でキュアンが残る事になった。


という訳で、自分とアルティ、カルノスそしてバンダルとギルの五人で王の間に向かう事になった。


「しかし、どうやってこちらに敵を呼ぶ? 大声で叫ぶか?」


「それならゴブリンが首から下げていた笛で呼べるかも、入り口開けて、近くに死体を転がせておけば勝手に突入してくるんじゃないかな」


「おっ、それでいこうじゃないか。なら作戦開始だよ。それから、お前さん達、カニ型一体持っておいき! それで会話ができるからね」


そうして、自分達五人は通路を出て王の間へと移動を開始した。

今回の作戦は、王の間に着いたらカニ型通信機で連絡を入れる。そしたらディアドラが残りのゴーレムを起動してくれる。


陽動後、どの位の敵が残っているかで難易度は大分変るけど、結界の場所が分からないのではこれを成功させるしかない。

自分達が研究施設区画に到着した時、隠し通路の方から笛の音が聞こえた。いよいよ陽動作戦の開始だ。

研究施設付近の敵は、建物の中からも出て来て全部で一〇〇体ほどいる様に見えた。オーガやオークも見える……

指揮官らしい体格のいいゴブリンがホブゴブリンなんだろう。

大丈夫なのかと不安がよぎるが、バンダルに促されて先を急ぐ事にした。


王の間へと街の脇道を慎重に進む。

時折、大通りを敵の集団が移動して行くが、方向的にどうやら宝物庫に向かっている様だった。宝に目が眩んでいるのなら、こちらとしてはラッキーなんだけどなぁ、と淡い期待を抱いてしまう。


そう、それは正に淡い期待だった……けど、ラッキーもあった!

王の間の手前の広場に、周りに頭蓋骨を積み上げ、ドワーフのミイラを吊るした禍々しい塔が建っていた。

その事をディアドラに伝えると


「それが結界の起点だよ! その塔に魂封の白虹石で作った短剣を突き立てれば結界を破れるはずだよ!」


という事だった。

しかし流石に重要施設だけあって敵の数は多かった。


「三〇〇はいるね……それに空を飛べるグレムリンが居るのが厄介だよ。まだ力の強いオーガが少ないのがマシな点かな」


ココに居る敵は、グレムリンにオーガ、そしてゴブリンにオークだった。


少し離れた建物の中に身を潜めている自分達にアルティがその様に報告してきた。


「一人六〇体か、ちと多いのぉ」


「流石に無理があるって……でも、俺の魔法なら突破口を開く事は可能だけどね」


ギルに対してカルノスが強がってみせるが


「実際問題、厳しいぞ……王の間の扉はどうであった?」


「開いていたよ。それに出入りもあった」


バンダルの問いにアルティが答える。


「そうなると、王の間にはホブゴブリンとある程度の数がいる可能性が高いな」


ココに結界があり、警護の兵がそれなりにいるとなると、宝物庫の方には下手したら残りの五〇〇体を超える敵がたむろしているのかもしれない……

いくらゴーレムが強力だと言っても長時間は持たないだろうなぁ……となると


「地底の星を優先した方が勝機は高いと思う」


「そうだな……結界を解いた所で援軍が来るのは何時間も先だ。数の不利は最低三日は埋まらんのだからな」


「となると、王の間には正面からは無理じゃな。裏から回って奇襲をかけ、まずは扉を閉めんとな」


「それで行くか」


バンダルとギルが自分の意見に賛同してさっさと作戦を立てた。


「あの二人って、なんだか楽しそうだね」


アルティが耳元に囁きかけて来た。


「ああぁ、多分国に戻って来てうれしいのもあるんだろうな……占領されていても自分達の国だし、それを今から取り返そうとしているんだから、テンションも上がるさ」


「それもそうか……僕にはそんな経験ないもんな……」


そう言ってカルノスの方をチラッと見る。


国を取り戻す戦い……国を追われたカルノスも内心思う所はあるのだろうとは思うけど、特に本人が語らないのならコチラから触れる事ではない。


ただ、このユグド王国の開放は少なからずロベア王国開放の一助にはなる事は間違いない。


自分とアルティはカルノスに歩み寄り、肩に手を置いて


「「頑張ろうな!」」


と声をかけた。


そんな自分達の顔をキョトンとした感じで交互に見ながら


「あ、あぁ……」


と答えるのだった。

まぁ戦いに挑む者の思いはそれぞれという事だな。と勝手な想像を膨らませながら移動を開始した。


王の間への隠し通路の入り口は大分離れた食糧庫の中にあった。

そこには見張りの兵が二体いたが、自分が食料庫の上から奇襲して素早く倒した。

そして死体を建物内に運び込み、隠し通路を通り王の間へ急ぐ。


その途中『なんか地下に来て、こんな所ばかり通ってないか』とカルノスが愚痴をこぼすがそれも仕方ない。蜘蛛の巣は張っているし、埃っぽく空気も悪いのだ。まぁ一〇年以上使われていないのだから諦めるしかない。

そんな通路を進んで辿り着いたのは、王の間に隣接する調理場だった。

秘密の覗き窓から外を確認すると辺りには敵影は無かった。そこでディアドラに連絡を入れる。


「こっちは全然余裕だよ。それよりそっちは大丈夫かい?」


「今から王の間に突入する所だ」


「そうかい……ならゴーレムを起動するよ。……バンダル、無理するんじゃないよ」


その通信が終わり暫くすると、外の広場の方が騒がしくなった。


「まずは扉を閉める事が最優先だ。その後、ある程度敵を排除したら壁を登りコレをはめ込む……よいな、では行くぞ!」


バンダルの合図で一斉に飛び出した。


まず自分が、続いてアルティが飛び出し、全力で扉の方へと駆け出す。

前方の敵をアルティが射抜きコチラに気付いて寄ってくる敵は自分には珍しく之定と孫六の二刀流で切り倒して行く。

その後ろをカルノス、バンダル、ギルが追いかけてくる。


「二刀流なんて珍しいね⁉」


アルティが矢を次々射かけながら話しかけて来た。


「おっと! まぁね。一撃の威力は落ちるけど数を捌くのにはいいかと思って!」


自分も勢いを止めず、敵を退けながら答える。


「て事は、もしかして初めてなの?」


「その通り!」


自分の即答に、信じられないという表情を向けて来た。


「もうすぐ扉だ!」


「了解!」


お互いが左右に分かれて扉を押す。当然それを阻止しようと敵が向かって来るが後続の三人が食い止めてくれる。それでも外の敵が異変を察知してこちらに大挙して押し寄せて来た。


「マズイよ! 間に合わない!」


アルティがそう叫んだ時


『セアラ・アガラス』とカルノスの魔法が殺到する敵の前に炸裂した。


それにより何十体かの敵を葬り、尚且つ進行を止める事が出来た。その隙に扉を閉め閂をかける……これでなんとか第一関門突破だ! と振り返る。


「……意外と数いるな」


「そうだね……」


自分達五人の目の前には一〇〇体近い敵がいた。


「この位の数がちょうど良いハンディじゃわい!」


「言いよるな、ギルよ。そうだの、この位の差がないと張り合いがないわ!」


そう言って二人のハイドワーフが敵に突進するのをすかさずカルノスが魔法で援護する


『ヘッケンローゼ・バインド』


「あれ、もう二刀流は終わり?」


「ココからは確実に仕留めないといけないからな。こっちの方が自分には合ってる! グレムリンは任せた!」


「了解、無理しないでね!」


アルティの声を背中に受けながら自分も敵の中に突っ込んでいく。

バンダルは盾で攻撃を防ぎながら片手剣で、ギルはハルバートを両手で旋回させて敵を次々倒していく。

ゴブリンとオークの力は大した事はなかったが、一部の弓で遠距離攻撃を仕掛けてくるのが少し厄介だった。

そこにもし空を飛べるグレムリンが加わっていたら、もっと苦戦しただろうが、アルティが早々に射落としてくれたのでそれ程苦戦する事無く戦う事が出来ていた。


それよりも問題なのはオーガである。

さすが元ドワーフだけあって力が強く戦闘能力が高い。しかも一〇体いるオーガの内、三体が立派な鎧を身に付けている……多分指揮官クラスだろう。


王の間での戦闘中も、背後からは扉を激しく叩く音が聞こえてくる。


そう時間をかけている余裕は無かったが、アンデッドと違い連係が巧みでサクサクと倒しすという訳にはいかなかった。

オーガ達が前面に出てコチラの突進を受け止め、ゴブリンとオークが後方から矢を射かけてくる。

そしてこちらの隙を伺っては、後方に回り込もうとしている様だ……なかなかどうして、知能が高いではないか! と感心してしまった。


しかし……

『ラピッドファイヤーアロー』

『エイス・アガラス』


そんな後方に密集した標的を、この二人が見逃すわけがない。

矢と氷柱の雨がゴブリンとオークの集団を襲う! 

それに一瞬気を取られたオーガ達の隙をコチラも見逃す訳がない!


「ぬおぉっ!」


バンダルは盾を構えて体当たりで二体のオーガを弾き飛ばし、残った一体に切りかかる。ギルもオーガ二体の斧を弾き飛ばし、ハルバートを構え『三連槍!』からの『断頭台!』と連続技を繰り出していく。


自分もオーガを二体を相手にしていたが、打ち合いや力比べは自分のスタイルじゃない。

瞬発力で翻弄して隙を見つけて一刀の元に切り伏せる……とまではいかないが一撃必殺を信条に一体を倒し、残りもう一体と対峙するが、後方に控えていた指揮官クラスのオーガがこちらに向かって来るのが見えた。


これは先に仕掛けないとマズいを思い、正眼に構えたまま剣を突き出して間合いを詰める。

相手も一歩踏み出しこちらの刀を払い除けようと両手斧を振り下ろした。そのタイミングで切っ先を右に回転させつつ真下に向けて刀への打撃を回避する。

そして次の瞬間その切っ先を切り上げてオーガの右腕を切り落とす。更に、踏み込みつつ返す刀で『切り落とし』を発動してオーガを倒した。


更にそのまま息つく暇なく、増援の一体との戦闘に入る。


増援は二体見えたのだが、いつの間にか新しい獲物を求めてコチラに参戦しに来たギルがもう一体の相手をしている。最後の指揮官ぽいオーガはバンダルに襲い掛かっている。


残りはどうなったかなと、周りに素早く目を巡らせると、アレだけいた敵影も随分減り、ゴブリンとオーク達はアルティとカルノスの攻撃によって完全に統制を失っていた。お陰で厄介な矢を気にすることなく、自分達はこの強そうなオーガに集中できそうだった。


しかし対峙して分かったがこのオーガは明らかにさっきまでのオーガより強い。

スピードも一撃の重さも断然上だ。さっきまでの様に上手く隙を作れない……

さて、どうしようかと考えながら戦っていると、『ドシャッ』と音がしてギルが相手していたオーガが倒れ込むのが見えた。


「げっ⁉ 早っ⁉」


思わず口に出していた。

その言葉にギルが気付き、ニタッとこちらに笑いかけて来た。


「……その挑発乗ったぁ!」


上段に構えてそのままオーガに正面から突っ込んだ。そんな自分に目がけて相手も渾身の力で斧を振り下ろしてくる。

明らかに相手の得物の方がリーチが長く、こちらの一撃が届く前に脳天に斬撃を食らうのが目に見えている。

視界の端に、驚愕の表情でギルがこちらに向かって来ようとするのが見えた気がしたが、そんな事を確認する前にオーガの一撃が頭上に襲い掛かってきた……

が、その一撃を上段で刀を横に構えて受け、そのまま半歩体を左にずらし切っ先を右斜め後ろ下に逸らして攻撃を受け流した。

そして、そのまま刃を滑らせて前のめりになったオーガの首元を一閃する。


『ふぅー』と大きく息を吐いて体制を整えると、ギルがこちらを唖然と見ているのに気付いた。


「ギル、後ろ!」


「分かっとるわい!」


ギルは振り向き様にハルバートを一閃、ゴブリン三体をまとめて吹き飛ばした。そして


「お前さん! わしを揶揄ったな!」


「えぇ~何のことかな?」


わざとらしく、揶揄う様な口調で答えるが、実際はタイミングを間違えればヤバかったと内心ドキドキしていた。

少し無茶したが、まぁ正面突破も可能さ! と言う所を見せたかったんだけど……


一発本番で上手くいって良かったぁ……


そんなやり取りの後で、バンダルの方に目を向けると、そちらも最後のオーガに剣を突き立てて止めを刺した所だった。これで王の間には自分達以外いなくなった。

これで後は地底の星をはめ込むだけ……


「ちょっと! レン兄! 最後のは何⁉ 無理しない様に言ったよね⁉ 最後のは際どかったよね⁉ レン兄なら他の方法あったよね⁉」


ホッとしたのもつかの間、アルティに詰め寄られる羽目になった。

それをギルは楽しそうに見ている。

仕方なくカルノスに助けを求めようにも


「無茶したレンヤ兄が悪い。諦めて」


とそっけない返答だった。


「いやっ! そんな無茶じゃなかったから、これでも大分強くなって」

と言い訳の最中に『バギッ』と大きな音がして王の間の扉から大きな斧の刃が飛び出しているのが見えた……


「マズい! バンダル! これ何処に嵌めるの⁉」


カルノスが背中のリュックを差して聞く。それに対してバンダルが指さしたのは


「あそこだ! 玉座の後ろにある壁の上だ!」


「「「……」」」


「高いな……自分には無理かな……」

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