第16話 ドワーフ王国開放戦、開始!

ユミル村に戻ると、そこにはギルとファバルが来ていた。

どうやらギル達も作戦に参加すると言う事だった。


それから更に一週間。

いよいよ作戦決行の日がやってきた。


結局、結界無効化の首飾りは四個しか用意出来なかった様で、参加メンバーはバンダル、ディアドラ、キュアン、ギルの四人に自分達三人とブリギッドの八人という事になった。


……すこし心もとない気もするが仕方ない。


残りの者は結界が消えるのを待って突入する手はずになっている。

ユグド王国へのメイン通路は撤退時に破壊して塞いでしまい今は使えない。その代り人一人がようやく通れる隠し通路があり、そこから王国内には侵入する。


占領されたと言ってもハイドワーフ達にとっては勝手知ったる故郷である。道に迷う事は無い。

後はどれだけ早く、敵に見つからずに動力室に辿り着けるかで決まる。

もし敵と遭遇した時は、仲間を呼ばれる前に排除する、それも静かにだ。

敵に気付かれ仲間を呼ばれれば一人、一〇〇体以上を相手にすることになりかねない……それは同時に失敗を意味する。


それを考えれば少数精鋭は正解なのだろうけど……リスクはデカいなと内心不安に思っていた。


しかし取り敢えずは、当初の予定通りに王国内への侵入は問題なく成功した。

隠し通路は王国内の粗大ごみ置き場の一つに繋がっており、その周辺に敵影は無かった。


宝物庫はココから南西に行った奥にあるらしく、大半の敵はそこと、南にある王の間にいると予想された。

動力室はココから南東に少し行った所にあるのだが、そこに繋がる通路も破壊してあり隠し通路からしか入れない。

まずはその隠し通路のある倉庫を目指す。


薄暗い地下王国の中を、敵に見つからない様に素早く移動する……

そんな緊張の中でも、やっぱり気になるのがドワーフの地下王国だ!

そう思っていたのは自分だけではなく、アルティとカルノスそれにブリギッドも辺りをキョロキョロ見渡しながら移動している。


地下の王国は天然の洞窟を利用しているのか、至る所に鍾乳石が見えた。

しかし、その広さはエヴァン村に匹敵する程だった。

多分、大幅に拡張されているのだろう……その証拠に、洞窟の天井を支える様に伸びる巨大な柱が無数にそびえ立っていた。そしてその下の空間には家々が立ち並び街が造られていた。

中には天井にまで繋がったマンションの様な大きな建物や、豊富な地下水を利用した滝に水路もあり、その脇では今でも大きな水車がいくつも動いている。


更に、通路は石畳と石階段で整備されていて、荘厳な雰囲気を漂わせていた。

そんな街並みを、本来なら暗闇の地下で目にする事が出来るのは、王国にそびえ立つ柱が放つ淡い光のお陰だった。

隠し通路ならともかく、こんな街中で明かりを使っていてはすぐに敵に見つかってしまう所だ。


ディアドラ曰く

「あの柱には星の石と月光石が大量に使われているのさ。本来は地上と変わらない位には明るかったんだけどね……」


それでも柱の発する光のお陰で明かりが無くても周辺を視認できるのはありがたかった。


そして、色々と物珍しさにじっくり観察したい気持ちを抑えながら、王国の街中をキュアン達の後に続いて移動して目的の動力室近くまで辿り着いた。

しかし、その手前の広場には五〇体ほどの敵がたむろしているのが見えた。


「うわぁ~……あそこを突破するの?」


カルノスがキュアンに尋ねると


「それでも構わんが、ここで騒ぎになるのはマズい。回り道をするぞ」


「あそこは何の建物なんだ?」


「あそこは、あたしが管理していた魔法の研究施設さ。何をしてるのか知らないけど、奴らには宝の持ち腐れさ!」


ディアドラが悔しさを滲ませた強い口調で教えてくれた。

目的の倉庫はここを突破せずとも、大きく迂回して辿り着けるという事で敵はスルーして先に向かう事になった。


それから暫く歩き到着した目的の倉庫も不要品の廃棄場所だった。

内部を見渡すと最近持ち込まれた様な廃棄物もあったので現在も廃棄場所として使われているみたいだった。

その為、ここでもたもたしている訳にはいかなかったのだが、隠し通路の入り口を廃棄物が塞いでいたので撤去する時間が必要だった。

なるべく音を立てずに、静かに一つ一つ移動させる……


ただ単に物を移動させているだけなのに嫌な緊張感がある。


「これ、もし落としたらどうなるかな……」


「……レンヤ兄、止めてよ! なんか目が血走ってるけど……」


「アンデッドの時みたいにはいかないからね。ここの敵達は、力は大したことないけど知能が桁違いだから統率がとられ連携してくるから」


自分のおバカな発言にアルティとカルノスが真顔で答えて来たが、その話を聞いていたギルは満更でも無かった様で


「はっはっはっ、なかなか威勢がいいの。もし奴らに見つかった時は儂とレンヤで大暴れして引き付けるとするか?」


話しがヤバい方向に進んだけど


「いいね、その話乗った!」


と勢いで答えてしまった。


「それなら俺も付いて行くぞ」


キュアンが楽しい事なら俺も混ぜろという軽い感じで言ってきたが、本気なのか冗談なのかよく分からない。

基本ドワーフ族は強気であり豪胆だった。だからそう言う場面になったら本当に飛び出し行きそうだと思った。


そんな馬鹿話をしながら作業をしていると、見張りに立っていたブリギッドが近づく敵を見つけた。


「何かが近づいてきます!」


一斉に作業の手を止めて警戒態勢を取る。


「……」


「一体だけみたいだけど、まっすぐこっちに向かってる……手に壊れた梯子の様なモノを持ってるからゴミを捨てに来たのかも」


アルティの報告にみんなが物陰に身を潜める。

自分は入り口の扉の脇に移動して身を屈め柄に手をかけて息を潜める。


それから暫くして、何やらブツブツと呟きながら一体のゴブリンが何も知らずに扉を開け倉庫に足を踏み入れた。


次の瞬間! 


ゴブリンの頭をアルティの矢が貫き、崩れ落ちそうになるゴブリンの身体と持っていたゴミを自分が素早く室内の脇に引っ張り込んだ。


なかなかの連係プレーだったと心の中で自画自賛する。

それにしてもアルティの腕前にはいつもながら拍手を送りたくなる。

お陰で素早く物音一つ立てずに処理できた。


間近で初めて見たゴブリンは、想像どおりの姿だった。


「映画やゲームのまんまだな……餓鬼とは別モノらしいけど……今度ゆっくり観察してみるかな」


初めての生ゴブリンを見ながらそんな事を呟く。

身なりも想像のままで、お粗末ながら防具を身に付け腰に剣、背中に弓を持っていた。

まぁ、一体一体は大したことなくても弓で遠距離から大量の矢を射られては圧倒的に不利になるだろうと思ったけど、今は作業を急ぐ事が最優先だ。


一通りゴミを除けて、隠し通路の扉を開けた。

『ゴゴゴッ』と少し大きめな音を立てて扉は開いた。


その音に慌てて辺りを警戒するが敵が来る様子はなかった。

そしてゴブリンの死体をゴミの下に隠して全員が通路に入り再び扉を閉じる。


通路はやはり人一人がやっと通れる程度の広さしかない。そこを奥へと進んでいくと壁にぶち当たる。その壁を押し開くと小さな空間があり梯子が掛かっていた。

それを登ると色々な石や結晶が並ぶ部屋の中に出た。


「あの時のままだね……」


部屋に辿り着いたディアドラが懐かしそうに言う。


「ここは、あたしの研究室だったんだよ……さぁ、こちだよ」


部屋を出た通路の先には、中央に大きなアメジストの様な六角柱の結晶体が浮かぶ広い部屋があった。

その部屋には何かの文字が書かれた石柱に石板、水晶玉に結晶石がいくつもあった。

そして床には、王国内でいくつも見かけた碁石の様な形をしたサッカーボールほどの石が転がっていた。


カルノスとブリギッドの二人は部屋に入るなり目を輝かせていたが、ディアドラから『勝手に触るんじゃないよ』と注意されて、そわそわしながら部屋中を歩き回っている。

その間にディアドラが石板を操作して石柱や結晶石の配置を変えていく。

そしてブリギッドに色々指示してその結晶石に光を灯し始めた。


すると部屋中に書かれた文字が、まさに大きな魔法陣の様に光りだした。

それと同時に中央のアメジストも微かに光を放ち出す。


すると今度は床に転がっていた碁石が、カタカタと揺れ『カシュッ』と音がしたと思うと、八本の足と一対のハサミが生えてきた……

碁石の正体はカニ型の小型魔道ゴーレムだった。

どうやら魔道ゴーレムが今でも動くと言うのは本当だった様で安心した。


更に、部屋の壁際に立っていた鎧姿の石像まで動き出していた。


「これで、作戦は半分成功した様なものだな、ディアドラ!」


そうバンダルが声をかけるが、ディアドラの表情は険しいままだった。


「これは、ちょっとマズいね……」


「なんじゃ? 何がマズいんじゃ⁉」


ギルが聞き返す。


「魔道力が思う様に出ないのさ……魔力の不足だね」


「……魔道力と魔力は別物?」


緊迫した空気の中、ついそんな疑問を口にすると


「魔力はこの世界にあるエーテルから変換される力さ。エンシェント族と魔力石がそれを可能にしているね。魔道力はその魔力と地脈の力、これもエーテルと自然の魔力の融合体の様なもんだけどね。その二つの力を使って生み出した力が魔道力なのさ。地脈の方は問題ないんだけどね……」


地脈ってそんなエネルギーだったんだと一人感心していると


「魔力石なら持って来てただろ? それでは足りんのか?」


確かに今回持ち込んだ荷物の中に太陽石の結晶である『地底の星』と共に何個か魔力石を持って来ていた。


「残念ながら足りなかったようだね……もう少し魔力が残ってると思ったんだけどね」


「今ココで動いているゴーレム達は?」


今までカニ型ゴーレムと遊んでいたアルティが聞いた。


「ココは最優先で動力が回される仕組みになっているのさ。それに足りないと言ってもカニ型ゴーレムなら数百単位で起動できるし、ガーディアンゴーレムもここ以外に数体なら問題ない。それ以上は魔道力が溜まり、動力装置の自己循環システムが動き始めれば三割は動かせるはずだけど……それ以上は魔力石を取って来ないと無理だね」


「その自己循環とやらにどの位かかるのだ⁉ その間、敵に気付かれずに済むのか⁉」


「そう焦るもんじゃないよ、バンダル。三日もすれば自己循環は始まるよ……ただ、これ以上の魔道力が発生し始めると気付かれる可能性は高いね。街灯やら水の循環装置やらが動き出すからね。それでも三割ゴーレムを起動できれば勝機は出てくるさ」


「三割か……微妙なとこだな……最悪、王の間に突撃してこの地底の星をはめ込むと言う手もあるぞ」


「それは危険すぎる! 確かに王国に光が戻れば敵は弱体化するだろうが、そこまで辿り着ける保証がない!」


キュアンはそう言ってバンダルを抑える。


今回の作戦は、結界の無効化とゴーレムの起動だけではない……王国に光を灯す事も目的の一つだった。

現在の戦力差を縮める為に、光で敵を弱体化できれば戦闘を有利に出来……その為には王の間に行き地底の星を壁に嵌め込む必要があるのだ。


「先ずは、結界の起点がどこかを探すのが先さ」


そう言ってディアドラが石板に向かった時、部屋が赤色で照らし出された。


「秘密通路に侵入者だよ」


皆に緊張が走る。


「ココに通じる通路はあれだけ?」


「ああぁ、あれだけだよ」


「という事はあそこを抑えられたら終わりか……なら通路内で迎え撃ってそのまま出口確保かな」


「場合によっては、そのまま打って出るしかないかも知れんの」


そう言ってギルがハルバートを担ぐ。

そして自分と共に通路に向かい走り出した。その後にアルティが続く。


キュアンも両手剣を抜き放ち通路に突入しようとしたが、ギルに


「お前はココでもしもに備えて待っとれ!」


と言われ、渋々と言った感で引き下がった。


先頭はギルで、途中「こんな狭い通路でハルバート?」と言ったが槍の様に突き技主体でいくから心配いらん!と怒られた。


その後ろを自分が之定を構えて続き、アルティは弓に矢を番えて少し離れて付いて来る。

そして通路の中ほどにあるカーブの手前で身を潜め待ち構える。


暫くすると、話し声と共に何者かが近づいて来るのが分かった。


「ウゴの奴、仕事サボってお宝を独り占めする腹だぜ。きっと!」


「あの野郎、許さねー。俺達にも分け前をよこせってんだ!」


嗄れ声の会話内容からしてこの通路が隠し財宝の部屋にでも通じているものだと勘違いしている様だ……『ウゴ』と言うのは多分さっき倒したゴブリンの事だろう。


「あんな、開けられもしねぇ財宝を当てにするよりこう言う小さな事を積み上げて、さっさとトンズラだぜ」


「そうだな。もうこんな所は飽き飽きだぜ」


そんな会話と共にカーブの向こうに敵影が見えた。


それを確認してギルが低い体勢で数歩踏み出しハルバートを突き出す。

その後ろのゴブリンをアルティの矢に任そうとしたが、完全にもう一体の陰に入っていた様だ。

アルティの『ダメ』の一言で自分が駆け出す。

低い体勢のままのギルの背中を踏み台に、前に、両手で柄を握りしめて切っ先を突き出し思いっきり突進した。

突き出された之定は先頭のゴブリンを貫き、その体ごと後ろのゴブリンに突き刺さる。

それを勢いのまま壁まで押し切る。


そして、すぐさまアルティが自分の横をすり抜けて前方に飛び出し、他の敵影がないか確認するが、後続はいない様だった。

そのまま三人で通路入り口の倉庫まで進んで確かめてみるが、他に敵の姿は見えなかった。


「このままでは隠し通路が見つかるのも時間の問題じゃな」


という事で一旦動力室に戻って今後の方針を話し合う事にした。

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