第10話 初の大規模クエストで初体験・前編

そんなこんなで三日後、準備を整えて教会に集合した。


自分は結局、興味もあり七〇〇〇リオンの高級治癒ポーションも買い足した。

備えあれば患いなしって事で、思いのほか出費がかさんだと思っていたら、思わぬ報酬が出る様だ。


今回の作戦は冒険者ギルドを通して通商ギルドの協力の下、正式クエストとして二四〇万リオンの報酬が付いた……これにはみんな驚いたが、通商ギルドとしてはこの村との交易路を復活させたい思いがある様だった。


と言うのも、戦乱の影響でこの村の希少薬草などの特産品の需要が高まっているという事らしい。

それともう一つ。

どうもキャラバンが一度この村に向かった様なのだが、途中で全滅したらしく、その時の積み荷と遺品回収もクエストに含まれていた……


「つまり、予定よりも大規模討伐になったって事?」

不安気に聞いた自分に対して、アルティは何時に無く真剣な表情で頷いて返した。


当初は、はぐれアンデッドを倒して数を減らせれば良いかな程度だったのが、本格的なアンデッド討伐クエストになってしまったのだ。


ただし、報酬が大きい事もあって参加冒険者は多かった。


自分達三人にレミィ、そして元衛士のエリアに仲間のセルス、オイフェン、リデル、この三人はエリアと一緒にいる所を酒場でよく見かける。

それと先日、この村まで逃げてきた若い神父のコプール、ギル鍛冶店で働いているデミュールとドワーフ族のファバル、それに狩人のレスターの計一二人だ。


他にも希望者が居たらしいが、コプールの襲われた場所まで約三日、その間の村の警護も必要でこのメンバーになった様だ。


「往復一週間は掛かるから鍛冶職人が居てくれるのはありがたいね」


「ちょっと危険度が増したけど、このメンバーなら大丈夫だと思う。レン兄もその装備なら慌てなければスケルトンなんて余裕だから、慣れるまでは無茶しない事!」


「了解した」


ココに来て一番緊張しているのを感じるけど、不思議な事に恐怖心はないかな……ゲーム感覚でアンデッドを舐めているのか、今までの経験で自信が付いたからなのか、自分でも理由は分からないけど、やれる気がする。


三人一組の四編成で、先行偵察&攻撃が自分とアルティとカルノスで、攻撃パーティーがレミィにエリア、ファバル組とオイフェン、リデル、コプール組の二つ。最後にレスター、セルス、デミュールの後方支援パーティーでクエスト開始だ。


村の東側の農地を抜けて森の中の街道を進む。

村を出たのが朝で既に夕方に刺しかかろうかと言う時間帯になり、最初のアンデッドと遭遇した。

スケルトン三体で生前の武器だろうか槍と剣で武装している。


コチラがカルノスの魔法召喚で呼び出したトンボの様な精霊で辺りを探索していて、先に発見できたのだ。

よって向こうはまだ気付いていない。


「この付近にはあの三体だけみたいだ」

カルノスが他の精霊で周囲を探り報告してきた。


「随分、村の近くまで来ているな……今日は遭遇しないかと思っていたけど……」


「そうだね……早めに作戦を実行しておいて良かったよ……この付近には村の人達も来るからね。カル、後ろには連絡した?」


「したよ。取り敢えずあの三体は俺たちで倒そうぜ。レンヤ兄の練習にも丁度良さそうだし」


初の人型との対戦か……しかも武器持ち……緊張するな~


「じゃ、僕は支援するよ」


そう言ってアルティは弓を構えた。カルノスもいつでも魔法で支援するぜとウインクしてみせる。


自分は愛刀之定を抜いて、身を屈めて少し離れた位置にいるスケルトンの方へと近寄っていく。

そして、ある程度距離を詰めた所で体を起こし全力でスケルトンの右側に走り込んだ。これで三体が自分の位置からは一直線に並んだ形になる。


その瞬間、アルティが奥のスケルトンを射抜いて注意がそちらに逸れた。


絶妙のタイミングだな。

と感心しながらも突進する。


スケルトンがコチラに気付き剣を振りかぶったが


『遅い!』


と心の中で呟きながら、剣を振り下ろそうとする脇を右にすり抜けざまに横薙ぎ一閃し、そのまま後ろのスケルトンとの距離を詰める。

そして突き出された槍を上段から切り落とし二歩踏み込んで、胴目がけて切り上げる。

その直後、後ろから剣が地面に落ちる音がして、次に目の前のスケルトンが灰になり崩れる様にして消えた。


「「おおおー」」

「レンヤ兄、凄いね」

「全然問題なさそうだね」


二人は嬉しそうに声をかけてきた……自分も『ハァ~』と大きく息を吐きながら二人に見えない様に小さくガッツポーズをして、二人に笑顔を返す。


「何とか行けそうだ。打ち合ってないから力は分からないけど、スピードは問題ないかな」


「良かった。これならガンガン倒して行けそうだね。さぁ次、探がすよ」


結局その後は、五体のスケルトンと遭遇しただけで夜になった。

どうもゾンビはここまで辿り着いていない様だ。


但し油断禁物。夜はアンデッドの時間帯で活発になる。

その為に交代で見張りを立てて休む事になるのだが、野営地はカルノスが魔法をかけた木の下に設置する。

その魔法とは『聖樹』と言うらしく、聖水と清石と言う浄化の力のある石を使い、地脈上の大木に聖属性を付与して結界を作る魔法で、結界自体は弱いらしいがアンデッドや魔獣などは力が弱まるので余程の事がないと近寄って来ないという事だ。


これで少しは安心して休息が取れる。


「このほのかな光は魔法のせい?」

野営地とした木が焚き火に照らされるのとは別に青白く光っている様に見えた。


「よく気付いたね。普通の人にはあまり見えないんだけど。レンヤ兄はもしかしたら魔法の素養があるかも。これで焚き火を消したらコダマが現れるんだ」


「コダマって木の精霊のコダマ?」


「そう、そのコダマ。物知りじゃん。木霊は淡い光の玉でこの木の周りをゆらゆらと漂うんだ。これならみんなも視認できるんだけど、聖樹の光が見えるのは魔力を感知できる人だけなんだ」


「てことは、自分にも魔法が使える様になる可能性が?」


「可能性はあるかも。村に帰ったら試してみよう」


カルノスの言葉に興奮を覚えた……賢者様に現世の人類にはまず魔法の素養はないと言われて最初から選択肢に入れてなかった。


しかし、異世界に飛び込んだのならやっぱり魔法は使ってみたいと思うのは当然だ!

これには、やる気が湧いてきた。さっさとクエストを終わらせて魔法の可能性を確かめてみたい! と言う気持ちが渦巻いて、眠るどころか変に眼が冴えてしまった……

そんな訳で仕方なくこのまま起きておく事にした。


まぁどうせ夜中には起きるんだし……


そう思い、焚き火を消し見張り役以外は寝息を立てる中、自分はふわふわ漂う木霊をボ~と眺めていた。

それから数時間が過ぎ、さすがに睡魔に襲われ始めた時、見張りに立っていたレスターが警戒の声を発した。


「お客さんのお出ましだ。デミュールみんなを起こせ!」

その声に自分も起き上がり森に目を凝らす。

そこにはスケルトンらしいシルエットと赤く光る小さな玉がいくつも見えた。


「ヘルハウンドまで出てきたね。でも三体なら大丈夫かな」

いつの間にか自分の隣に来ていたアルティが森に視線を向けながら言った。


「それって魔獣?」


「そう、この森にいる魔獣でアンデッド発生の原因かな。他にはレン兄も以前戦ったコカトリスとバジリスクが居るけど、奴らはこの街道沿いには滅多に出てこないんだ」


「バジリスクって、あの速攻逃げたヤツだよな?」


「大丈夫だよ。ヘルハウンドは弱い方だから」


そうは言っても魔獣だよな……アンデッドと共にそんなのが一緒に現れるなんて聞いてないんだけど……


そう、これは作戦である。

アンデッドは夜が活動時間。つまりいくら結界があるからと言っても、アンデッドのいる森で夜に焚き火なんかしていれば寄って来るのである。


それが今回の目的だった。

実はこれを逆に利用して誘き寄せて、殲滅しようという事になり待ち構えていたのである。


この作戦にはもう一つ重要な意味がある。それは自分たちの行動を昼夜逆転させる為でもあった……つまり昼間休んで夜間行動する。

アンデッドは薄暗い森の中なら昼間でも行動するが多くはない。メインはやはり夜なのだ。


その為、昼間に身を潜めている敵を探しまわって体力を消費して危険な夜を迎えるよりは、こちらも夜をメインにすれば良いのでは?

との意見から、比較的安全な昼間休んで、アンデッドを見つけ易い夜に戦う事になったのだ。


確かに、その方が効率が良いと思うけど……夜の戦闘大丈夫かなぁ

と一人不安に思っていたが、皆からはそんな様子がうかがえない


「スケルトンは一〇体ほど、ゾンビは居ないみたいだ……この辺はまだ少ないね」


「じゃ、さっさと片付けましょうか」

と言いながらレミィはメイスを振りかざしてスケルトンに突進していく……そんな彼女に、神聖魔法の方が安全で確実なのに、と言いたげな視線をみんなが送るが、それぞれ戦闘態勢に入る。


辺りは聖樹の効果でほのかに明るく更に、いつの間にか召喚されていた光の精霊が森の奥も照らし出していた。


その中、アルティとレスターが弓でヘルハウンドを牽制し、コプールがみんなに聖属性付与の魔法をかけ、カルノスが手当たり次第に移動阻害の魔法をかける。

レミィはメイスとガントレットでスケルトンを粉砕して回り、この短時間で既に五体を倒している。


その間に自分も二体を切り倒して三体目と対峙していた。

他のメンバーはヘルハウンドと対峙中だった。


夜のスケルトンは、昼間よりスピードはあったが大した事はなかったし、打ち合ってもパワーで負ける事もなかった。

これなら余裕だと三体目に切りかかろうとした時


「レン兄! 横に飛んで!」

アルティの声に反射的に左へと飛び転がっていた。


その直後、『ブオゥ』という音と共に炎の壁が目の前に現れた様に見えた。


それは転がった状態の低い目線だったから壁の様に思えただけで、発生源を確認して理解した。

これはヘルハウンドの炎のブレスだったのだ……一匹抜け出して来たのかと思い起き上がりながら後方を確認すると、そこではアルティ達がデカい蝙蝠達と戦っているのが見えた。


「おっと、新手の登場か……」

その蝙蝠は支援組とヘルハウンド組に襲い掛かっていた。

「上空と地上からとはなかなかヤルね~」


そんな無駄口を叩きながら体勢を整える……運が良かったのはスケルトンと自分の間を炎が隔てた事で、スケルトンが動きを止めた事だった。


「地面に転がった時に襲われてたらマズかったかも……さて、スケルトンとヘルハウンドの二体相手か……」


「スケルトンは任せて!」


あれ、もうそっちは終わったんだ。

と内心感心しながらその言葉に従い、自分はヘルハウンドに突進した。


敵もこちらを見定めて身構え、そして口を大きく開き、炎のブレスを吐く。

一応自分の着ている服は耐火素材で出来ている為、ある程度の火ではビクともしないがここは炎を避けて側面に回り込む。

そして一気に差を詰めて切りかかるが、さすが狼型の魔獣だ、素早い動きで避けられた。


「コカトリスに比べて断然素早い……うわっ」

また、横に飛び退く。さっきより小さいが炎のブレスの連射である。


「ノーモーションなら連射可能なのか……でもあの威力ならブレスの中を突進出来るかもしれないな……」

そう作戦を考えていると


「キドゥーシュエードラム!」

その声が響くと同時にヘルハウンドが光の柱に包まれた。

その様子を見てヘルハウンドに突進して袈裟切りに切り伏せた。


「お疲れ様」


「レミィのお陰だよ。じゃなきゃヘルハウンドを無傷で倒せなかったよ」


「ふっふっふ、もっと褒めていいわよ」


「はいはい、それより向こうはどうなった?」


「向こうも終わったみたいよ」


結局、スケルトン十一体、ヘルハウンド三体、スペクターバット五体を倒した。

その内スケルトン七体をレミィ一人で倒している……さすが脳筋司祭だ。


「レン兄も凄いよ。ヘルハウンド倒したんだから」


「いや、あれはレミィの魔法のお陰だよ」


「そうだけど、でもレンヤは一撃で倒したじゃない。いくら私の魔法が効いていたからってヘルハウンドは一撃でそう簡単に倒せないのよ」


「……そうなの?」


「うん、そうだね。ヘルハウンドは物理攻撃も魔法も効き難いから倒すのに時間がかかるんだ。だから二人付けて更に僕たちが後方支援してたんだけどね。まさかスペクターバットまで出てくるなんて予想外だったよ」


「そうだね。でもこれで疑問が解けた」

今まで偵察とヘルハウンドの炎による火災の消火に行っていたカルノスが戻ってきた。


「カルノス。何の疑問が解けたんだ?」


「それは、キャラバンの全滅だよ。キャラバンの護衛はそれなりに腕の立つ冒険者なり傭兵を雇うはずなのに全滅したって言うのが気になってたんだ。でもスペクターバットまで居たなら納得だよ」


「そんなに厄介なモンスターだったのか?」


「暗闇に紛れて音もほとんどしないし、奴らの鳴き声で平衡感覚が狂わされるし、アルとレスターが居たから大した被害が出なかっただけで、普通のパーティーなら苦戦必至だね。しかもアンデッドとヘルハウンドの相手もしながらなら全滅してもおかしくない」


おや? これはもしかして余裕がなくなったって話しなのかな?

これからはもっと気を引き締めてかからないとマズいって事か……

なんか、どんどん難易度が上がって行く様な気がするんだけど……


そんな不安な気持ちを抱えながら先に進む事になったのだった

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