第11話 初の大規模クエストで初体験・後編

その後、日が昇るのを待って交代で睡眠を取り昼過ぎに出発。

日暮れ前に拠点となる木を見つけて探索したのだがこの日はモンスターに遭遇する事がなかった。


次に遭遇したのは、翌日、三日目の夕方である。


この日も昼間の遭遇は無かったのだが、拠点を探している途中でゾンビを発見した。

「確認できるのは一〇体だけど、スケルトンも近くにいるはずだよ」


アルティが木の上から報告する。その下ではカルノスが精霊で周囲を探っている。


「いた! 少し奥にスケルトン……一二体とゾンビが五体かな」

カルノスも別グループを発見した様だ。三〇体近い集団か……まだ日が出てるうちに、この数を発見出来たのはラッキーだったかもしれない。


「これは拠点探しの前に片付けた方が良いね。多分まだ隠れているだろうけど、夜になるとヘルハウンドとスペクターバットも出てくるはずだし」

アルティが木から降りて来て提案してきた。


当然、自分もカルノスも賛成なので、後方のパーティーメンバーと合流することにした。


「三〇体以上は居そうだな……ゾンビが多いって事は大分中心地点に近いのかもな」

エリアの言葉に、今までお気楽な感じだったみんなの雰囲気が引き締まる……


あ、これが冒険者なんだ。

と変に感心してしまう。


特に表情が険しい訳でもなく、普段と変わらないのだが空気が変わったのが分かる。

ここからが本番、生きるか死ぬかの真剣勝負……その意気込みと言うか、覚悟と言うか……そんな感じの気迫を纏った様な雰囲気。

少なくとも平和ボケした日本の一般人である自分が、本来感じる事の出来ない雰囲気をこの場で感じている。


「紛争地域の兵士なら纏っているのかもな……」


そんな独り言を言っているが、今では自分も冒険者の端くれである。

それなりに危険なクエストもこなしてきたが……どことなく余裕があったと言うか、遊び気分だった様な気もする。

まだ一五歳だと言ってもアルティもカルノスも優秀な冒険者だったことが大きい。

だから安心があったのだと思うが……


「レン兄、今回は下手すると五〇体は相手にしないといけないかもしれないし、状況によってはそのまま目的地に突入って事もあるから覚悟しておいてね。」


「あぁ、分かった……」


鉄壁だと思っていても、物量で攻められれば綻びが出来るもの……それをみんなは知っているのだろう。


エリアやその仲間は元兵士だし、他のメンバーも生死を賭けた状況を何度も経験しているんだと思う……

自分もこの戦いでその感覚を知る事が出来るのだろうか? 

この世界に来て半年、正直未だに非現実的な、ゲームの様な感覚が抜け切れていないのが分かる。

死んでも復活できるんじゃないか、ピンチには凄い能力が目覚めて大逆転するんじゃないかと……多分こんな感覚を持っていてはいつか死ぬんだろうとは思っている。


まぁ、こればかりは死線を何回も越えなければなくならない様な気がしている。

死を知るのが先か、覚醒するのが先か……

そもそも戦場でもない比較的安全なあの村で数年過ごしたところで理解出来るものなのか? と言う根本的な疑問もあるが、真面目を身上とする普通の自分としては現状の最善を尽くすだけだ。


「荷物はココに固めておこう。太陽が沈む前に片付けるぞ!」

『おおおー!』


作戦開始だ!


自分達先行組はゾンビの集団は無視して、その奥のアンデッド集団に備え少し離れた位置に身を潜めた。そして後続組がゾンビを攻撃する間にアンデッド達がそちらに殺到し始めるのを側面から攻撃する。


そして戦闘が始まると、予想通り身を潜めていたアンデッド達が現れて混戦となった……その数は五〇を超えていそうだが、皆が次々に倒していく。

自分も、初めての生ゾンビには少しビビったが既に六体倒した。


これは日暮れまでに倒しきれるんじゃないか? 意外と余裕じゃん!


と思ったけど、フラグになるんじゃないかと口には出さなかった。

がしかし、その努力は無駄だった様だ……


他のメンバーを確認しようと後方を確認すると、乱戦状態だった後方組がいたエリア一帯が緑のガスの様なモノに包まれていたのだ。


「あの緑のガスみたいのって……」


アルティにそう声をかけた瞬間、猛スピードでアルティは駆け出していた。

その後を自分とカルノスも追いかける。


「カルノス! あれってコカトリスなんじゃ……」


「そうだよ! コカトリスのブレスだ! あれで誰か麻痺してたらマズイ! 麻痺や毒はアンデッドには効かないから……」


「カルノスはみんなの所に向かえ! コカトリスは自分が引き付ける!」


「……分かった。無理しないで!」


アルティ、カルノスと別れて毒ガスを迂回して発生源へと向かった。

アンデッド達が何体かこちらに向かって来るが、進路上の二体だけ切り倒して走り続けた。


そして目の前に、トカゲの尻尾を持ち茶色と緑の羽に覆われた鶏を見つけた。

まぁ鶏と言っても四メートルほどの大きさで、尻尾と足の爪には毒があり、そして毒と麻痺効果のあるブレスを吐く魔獣である。

以前、薬草採取の途中でこれより小型のコカトリスに遭遇して戦ったことがあるのだが、あのブレスとタフさに随分苦労させられた。


だからと言ってココで躊躇している暇はない……あのブレスで回復役が全員麻痺してしまったら洒落にならない。

それに、もし何人も動けない状態になっていたらコカトリスを相手にする余裕はないはずだ……

覚悟を決めて、そのままコカトリスに突進する。

幸いな事にこちらにはまだ気付いてない様だ、と言うよりは前方からの矢の攻撃に対して威嚇している様だった。


アルティかな……それならと進路を尻尾に変更する。

そしてうねうねと動く尻尾の付け根目がけて之定を振り下ろす。


スキル『斬り落とし』!


『クゲェェーッ』と言う咆哮がしたと思うと鋭い足爪の後ろ蹴りが飛んできた。

それを後ろに飛び退き様に刀を横薙ぎして爪一本を切り落とした。


二本の武器を切り落とされ怒り狂ったコカトリスは当然こちらに猛反撃してきた。

ブレスにくちばし攻撃、羽ばたきに毒爪攻撃と容赦がない。回り込もうにもそう簡単には回り込ませてくれない。近距離攻撃の隙に切り付けるが大してダメージを与えられない。

しかもアンデッドが何体か寄ってくるし、夕暮れも近い……


マジでヤバいかも! 夕暮れまでにはせめてコカトリスだけでも仕留めておかないと……

アンデッドの仲間入りか……

そんな弱気な考えが頭に浮かび始めた時


『クゲェェーッ』と再びの咆哮。

新しい攻撃モーションかと身構えるが、よく見るとコカトリスの右目に矢が刺さっている……という事は


「レン兄! 支援するよ!」

おおぉ~神の助けだ! ありがとうアルティ!……と心の中で涙を流して感謝する。


「引き付けて! その隙に懐に飛び込む!」

姿は見えないが頼もしい相棒に大声で伝える。


「了解! ラビットファイヤーアロー」


返事と共に弾丸のごとき矢が無数にコカトリス目がけて打ち込まれ始めた。

これを羽ばたきの風で蹴散らそうとするが逆に広げた翼を射抜かれている……たぶん今は鉄の矢を使っているのだろう。


風を物ともせずあの連射……相変わらず凄いなぁ、惚れ惚れしてしまうよ。


アルティの遠距離からの猛攻に耐えかねたコカトリスが遂に、アルティが居るだろう森の奥目がけて毒のブレスを吐いた。


これを待ってた! 

アルティの援護射撃の中、寄って来るアンデッドを倒しながら待っていた! この瞬間を!


この機を逃さず、コカトリスの懐に飛び込んだ。

尻尾を切り落とされブレスも吐いた今、懐に入ったコチラを攻撃する手段は足だけだ!

その左足を走り込み様に一閃、左に体勢を崩して浮きかけた右足にも斬撃を叩き込み離脱する。

そして倒れ込んだ胸元に渾身の突きを入れる!『牙〇』……これが止めになった様だ。


……別のネーミングのがいいかな。

などとあまりに鮮やかに決まった連続攻撃と最後の突き技に付いて思いを巡らせていたら


「お疲れ様。て、まだ終わった訳じゃないけどね」


そう言って現れたアルティはゴーグルに、昔の映画に出てくる強盗が付けていそうな逆三角のマスク姿だった……いや、サバゲーマーなら居そうな格好か。


そんな自分の視線に気づいたのか

「あ、これは毒ガス対策だよ。どちらにも特殊な薬草が染み込ませてあるんだ。狩人には必須アイテムの一つだよ」


「それで、最初に躊躇なく毒ブレスの中に突っ込んだんだ……それで被害は?」


「レミ姉含めて四人が麻痺してたけど、運が良かったのは、あのブレスはアンデッドに効かなくても視界を奪ってくれたからね。後は追い付いてきたカルの解毒魔法で回復して事なきを得たって感じ」


それを聞いて『はぁ~』と大きく息を吐き出して安心した。

「それは良かった……」


誰かの犠牲を覚悟していただけに、心の底から本当に良かったと思った……この危険と隣り合わせの異世界に来てもまだ人死には会っていない……出来ればこのまま合わずに済む事を祈るばかりだ。


「それもレン兄のお陰だよ。あそこでコカトリスに襲われてたら犠牲が出てたと思う」


「まぁ冒険者の端くれだからね。最善だと思う行動を取っただけさ」


……自分で言ってて恥ずかしい台詞を吐いてしまった。

そんな自分を、茶化すでもなく笑顔でアルティは見つめている。


「さぁ、一度みんなの下に戻ろう。ほとんどアンデッドは倒したけどもう日が沈むよ」


「ああぁ、そうだな」


ギリギリ日暮れ前には倒せたけど、既に第二波が迫っていた。


さっきの戦闘で完全にアンデッド達を呼び寄せてしまったのか、更に七〇体近く押し寄せてきた。

しかも案の定、ヘルハウンド五体にスペクターバット八体のおまけ付きだった。


そして既に日は沈み夜になり、アンデッド達は活発化してまたも大混戦になった。


そんな乱戦の中、今まで支援に回っていたカルノスが大暴れしていた。


アンデッドを魔法で倒すには聖属性で浄化するか火属性で灰にするしかない。

それは下級のゾンビでも同じだ。だから今までは移動阻害で支援に回っていたのだけど、今回は別の手段で支援……いや、攻撃していた。


それは、遠距離広範囲の地と水属性魔法で破壊するのだ。


一度破壊されたアンデッドは三分位で再生するのだが、その間は完全に行動不能になると言う特性を利用しての足止め攻撃だった。

普通に破壊されたアンデッドは七割方再生してからじゃないと武器では倒せないのが難点なのだが……

それと言うのも、再生前ではダメージが通らず、再生途中だとまた破壊状態に戻るだけで倒せないと言う変わった特性も持っていたのだ。

それでもこちらの戦法の方が多くの敵を一時的に行動不能に出来るし、敵の数的にこれが最終戦になるとの目算からの出し惜しみナシの攻撃だ。


逆に、今までメイスを片手に暴れ回っていたレミィは、コプールと共に回復の支援に徹していてくれた。

そんなレミィの代りという訳でもないのだろうが、ドワーフのファバルが片手斧の二刀流でアンデッドの群れの中で暴れまわっている。

その薄らと燐光を放つ斧はアンデッド達を面白い様に灰にしていた。

 

そして、アルティとレスターがスペクターバットを次々と射落とし、残りのメンバーがアンデッドとヘルハウンドを相手にする。


大混戦とは言ってもこちらが優位に戦闘を進めるそんな中、自分は初体験をした……


腕チョンパされるという体験を……


自分はその時、スケルトンとヘルハウンドの二体を相手をしていたのだが、スケルトンを倒した時に之定をヘルハウンドに咬み止められてしまった。

そこに別のスケルトンが切りかかってきたので思わず左手の籠手で受けてしまったのだ。


しかし、そこまでは良かったのだ。

その後ろにもう一体スケルトンが隠れていなければ……


死角から現れたスケルトンの一撃に、一瞬迷っている間に左腕の肘から先がスパッといかれたのだ。

その瞬間は何が起こったのかと混乱したが、すぐさま激痛が走り腕を斬られた事を理解した。

それで右手の刀も放してしまった……


ただ不思議な事に、その激痛にも、切れた腕から噴き出る血にも動揺しているはずなのに何故か、そのまま戦闘を続けた……いや、続けていたという感覚かもしれない。


腕が無いのも理解し死ぬかもと思いつつも、痛みや恐怖で身体が動かなくなる事もなく戦い続けていた。

多分この世界で色々なモノを斬り、その状況を自分に置き換えて想像していたのが意識の暴走を抑えたのかもしれない……いずれ自分もこんな風に斬られるんじゃないかと……


実際にこの時は

「あぁ~あ、腕飛んだなぁ。ポーションで治るかな~」

なんて事を考えながら敵に相対していたのだ。


その後の状況はと言うと、左腕で受け止めていた剣は、その支えを失い主のスケルトンと共に前のめりに倒れ込んだ。

だたし、そこには腕を切り落とした別のスケルトンの剣があった。


それは思わず放してしまった之定を咥えていたヘルハウンドも同じだった。

そのヘルハウンドは之定を咥えたまま、まっすぐ前方に突進して来て、そのまま倒れ込んで来たスケルトンにぶつかりもつれ込んだ。


自分はそれを一歩引いて半身で躱しながら、空いた右手を腰に回しもう一本の愛刀、孫六に手をかける。


そして孫六を鞘から抜き様に踏み込み、仲間に覆いかぶされて剣を起こせないスケルトンの首を撥ねた。

その直後、体制を立て直して飛び掛かってきたヘルハウンドには、身を屈めて下から切り上げてこれまた首を撥ね飛ばしてやり、そのまま残りのスケルトンと向き合う。


「残りは起き上がってきたスケルトン、とその後方にゾンビ2体か……ははっ、なんか笑えてくるね……」

頭も左腕も感覚が麻痺しているのを感じながらも、先ずはスケルトンを倒さないと、と思い孫六を袈裟きりに振り下ろしたのだが……


そこで本日二度目の初体験をした。


孫六の一振りでスケルトンが真っ二つになったのと同時に、三日月状の何かが後方のゾンビ達に向け飛んで行き二体とも切り裂いたのだ。

ゲームとかではお馴染みの剣圧での遠距離攻撃……

本来自分が習得できないはずのスキル『刀閃』の獲得であった。


自分自身このスキルに驚き興奮したが、取り敢えず敵を殲滅して無事に生き延びた事にホッとした。


がそんな余韻に浸っている場合ではなかった!

スキルも凄く気になったが、それよりも先ずは腕である。


今ではもう痛いのか分からない位に麻痺していたが、洒落にならない出血に今更焦りだし、直ぐに高級治癒ポーションを飲んで、切り落とされた腕を拾い上げ切り口を合わせてみた。


「まさかこんなに早く試す事になるとはね……おおぉ~、すげ~ちゃんと繋がった……」


自分の切り落とされた腕がみるみる繋がり再生されていく。

「これは、今後高級治癒ポーションは必須だな……」


上級の治癒ポーションの再生能力は凄まじく、ぼろぼろのぐちゃぐちゃでも『モノ』が在りさえすれば元通りに再生するらしいのだ。

但し一日以上経過すると再生できないと言う事で、戦闘で負傷した場合は最優先の回収対象になると言う話を薬屋でシュールな絵図らを思い浮かべながら聞いていたが、その重要性を実感できた。


まぁ仕組みは不明だが、取り敢えず異世界人の自分にもポーションによる再生が効く様で安心した。

そして孫六を戻して落ちていた之定を拾い上げて、次の獲物を探し始めてた時にはほぼ戦闘は終了していた。


犠牲者ゼロ、大勝利である!


「これで殆どのアンデッドは退治できたんじゃないか」

自分がみんなに合流するとエリアが話しかけてきた。


「そうだな。今日だけで一〇〇体以上は倒しただろうから、もし残っていても大した数は居ないと思う」


「よし、今日はココをキャンプ地としよう」


流石に疲れたのかアルティとカルノスも木にもたれ掛かり座り込んでいたが、自分を見つけると笑顔で手を振ってくる。

そしてお互いの戦果を報告しながらキャンプの準備を進める。


そこで自分が腕チョンパされた事を話すと随分心配された。どうやら二人にもその経験は無かった様で、その話を聞いたカルノスは


「もう冒険者としては俺たちと同じかもね。死線を超えた冒険者は一気に強くなるから。レンヤ兄も相当ポイント増えたんじゃない?」


「冒険者ポイントか? ……本当だ、凄い増えてる⁉」


「不利な状況で、それを打破するとボーナスポイントが付くんだよ。今回、レン兄はコカトリスも倒しているからね。もう立派な冒険者だよ」


立派な冒険者か……確かに初めて本気の命のやり取りをした気がする。

生きるか死ぬかの戦闘に腕が切り落とされ、そして再生するとか、まさに異世界体験!


……でもそれら全ての感覚はリアルだった。

そして自分が強くなった確かな実感がある。


気が付くと辺りから虫の声が聞こえ始めていた。

まだ昼間は日差しが強いが、日本の様に確実に季節が移り始めているのが分かる。そんな虫の音に耳を傾けていると、目の前を涼しくなり始めたそよ風に乗せて、月光綿毛草の綿毛が黄金色の光を発しながら飛んでくる……

この自然も神秘的な光景もすべて現実なのである。


「これが今の自分の現実……」


そう独り言を呟いて眠りに落ちていく。

そう言えばこちらに来てから全然向こうの夢見ないな、もう、このまま……この世界で暮らしても……良い……の……に……


『半年、お疲れ様』


『あれ? 賢者様? どうしてここに?』


『半年たったから、その連絡』


『そうですか。調査結果の方はどうですか?』


『順調、特に今回のクエストは有意義だった』


『どういう風に? と聞いても大丈夫ですか?』


『アンデッド化する前の人間の生命エネルギーの補充は八割まで確認。更に、モンスターとしての生命エネルギーの補充も少ないが確認した。アンデッドは一度で二度美味しかった』


アンデッド化は別扱いって事か……まぁ一度死んでる訳だし……て事は、もしかしたら補充対象は魂に由来するのかも知れないな……その辺はホーント系で試すと分かるかも……


『……それは良かった。でも、だからだったんですね。生命ポイントが予想以上にカウントされてたのは……あとパーティーメンバーが倒した分も少し入って来ていますよね?』


そうなのだ、元々パーティーを組めば冒険者ポイント自体は共有される。

攻撃に参加せずとも討伐ポイントは付くのだが、なんと倒した獲物の生命エネルギーも自分に共有される事が分かった。

森での狩りの時に確かめたのだが、自分が倒した時の量の三割ほどであるが、これは有益な情報だった。


『入って来ている。だから今後もパーティーでのクエストをオススメ』


『了解しました。だけどもうこんな規模の戦闘はこの付近ではないかもしれませんよ』


『……西の山の洞窟。最後に、戦闘跡にお宝が落ちてる。では、また半年後に……』


『洞窟? そこに何が……、あとお宝って? ……賢者様~……』


……


…………


「レン兄、起きて、交代の時間だよ」


「賢者様……交代……?」


「寝ぼけてるね。僕は賢者様じゃないよ」


「……アルティか……ああぁ、交代時間ね、了解」


もう朝日が昇り辺りは明るかった。夢か……


「アルティ、昨日倒したモンスターの中にレアアイテム落とすヤツなんて居た?」


「んん~、コカトリスは当然として……本当に極稀にゾンビとスケルトンが冥府の玉骨て言うのを落とすらしいけど、僕も見たことないし見つけたって人にもあった事ないよ」


「それって特別な効果があるの?」


「それを素材にした武器はアンデッドやホーント系に絶大な効果があるらしいよ。ナイフですら下級なら一撃とか聞いた事あるけど……探しに行くの?」


「巡回がてらね。それにコカトリスの爪と遺品も探さないと」


「なら、僕も付いて行くよ。もう見張りなら二人いれば大丈夫だと思うし、行って来ていいよね?」


そう言って一緒に見張りに立っているデミュールとリデルに確認を取る。

二人は行って来いとばかりに手を振り、デミュールは遺品回収用の麻袋を投げてよこした。


「その中に、特定できそうな遺品入れて来てー」


「了解。じゃぁ行こうかレン兄」


昨日の戦場にはアンデッドの死体はない。みんな崩れ去ったのだ。

残るのはヘルハウンドとスペクターバットにコカトリスの死体だけだ。

ただヘルハウンドは半分魔物らしく死体は太陽の光が当たると灰になってしまうのだ。だから日が高く昇れば消えてしまうのでその前に牙を回収する。


次にコカトリスだ。コカトリスの毒袋は高価なのだが倒してから時間が経ち過ぎていてもう取り出せなかった。それでも爪と尻尾の棘、羽を回収できた。

これだけでも相当な額になるはずだ。


後は遺品回収。

スケルトンが持っていた武器やゾンビが身に付けていた装飾品などがそこら中に落ちている。

それらを袋の中に詰めていく……


これは故人を特定する重要な手がかりになり、一度冒険者ギルドに預けられ、選別後にリスト化されて各地の冒険者ギルドに渡される。

そして世界各国のあらゆる都市で開示されると言う仕組みらしい。

行方不明者の家族はその情報を手掛かりとして探すシステムだ。そんな事で遺品回収も冒険者の重要な仕事の一つになっている。


そんな中、遺品回収がてら夢で賢者様が言っていたお宝なるモノを探していたのだけど、コカトリスの死体の傍で変わったモノを見つけた。

それは透明感のある白い棒だった。手に持つとずっしりとした重さがある、骨と言うよりは石の様だ。

それが二本も落ちていた。綺麗でツルツルして手触りも良かったので取り敢えず腰のポーチに差し込んでおいた。


二時間ほど探索しただろうか、遺品も回収し終わりキャンプに戻る事にした。


「レン兄、お宝見つけられた?」


「おう、見つけたぞ。これ、綺麗な石の様なモノ。何かわかる?」


「本当だ、綺麗だね。真珠みたいだけど……石の様に重たい。もしかしてこれが冥府の玉骨なのかな?」


「でも骨っぽくないからな……元々ココにあったのかドロップしたのか分からないけど、コカトリスの傍に在ったんだ」


「まぁ綺麗だし、帰ったら鑑定してもらおうよ。後はキャラバンの荷物を回収したらクエスト完了だね」

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