第4話 運の良さと仲間と
森の中は木々が生い茂り、ジャングルとまではいかなくとも、それに近い感じで、毒々しい花や虫がやたらと目につく……
それにリスや小型の鹿のような小動物も多く目にしたが、どれも現世のモノとは違っていた。
当然と言えば当然か……ここは別世界の地球だけど『神』様がエーテルを使って少しいじってあるらしいから、進化の法則も違うんだろう。
因みに『エーテル』とは現世や異世界関係なく全次元全宇宙に存在するらしい……
オカルト好きならお馴染みのエーテル、五大元素の一つとか、光の素とか言われるあのエーテルである。
その不思議物質エーテルは、基本は天体活動の原初のエネルギーらしく、宇宙膨張のエネルギーであり、さらに星の誕生消滅などの現象や天体活動からも発生するモノの様だ。
その為、天体自体と宇宙空間には密度に差はあるがエーテルが存在する。
まぁ人間を含めた現世の生物の中にも多少取り込まれている様だけど。
その未知のエネルギーであるエーテルを使い、人工的に作られたモノがこの世界には多数存在するらしい。
だからなのか、道端で見つけた動植物の種類の多さは異常なほどだった。よく似ていても形や色が微妙に違い、それらが同種なのか亜種なのか分からなかった。
「まぁ、自分の様な生物好きにはたまらない環境だけどね」
そんな独り言を言いながら道の先に目を向ける。
やはりこの道は何者かが作ったらしい。所々枕木が埋めてあったり切株があったりと手が加えられている。
それとこの道は森の中を貫いているのではなく、基本的には小川に沿って作られていて、開けた場所も多く、意外に歩きやすくなっていて助かった。
「これで人に会えたらラッキーなんだけど。主要街道って感じではなさそうだから、期待しない方がいいかな。でも、そうなると問題は集落に辿り着くのにどのくらい掛かるかだけど……こればかりは知り様がないから考えるだけ無駄か。それに場合によっては夜営の事も考えておかないと、こんな森の中の夜道なんて歩く自信ないし……」
そう色々考えると……今は意外に楽だと思っていたけど、山場を迎えるならこれからだよなと気を引き締め直して足を速める。
それからどのくらい歩き続けただろうか……途中で立派な角を持った鹿と睨みあい、川では自分よりも大きなハサミを持ったカニを発見して逃げてみたりと、いろいろ目新しい体験をしつつ随分歩いたと思う。
そして陽もだいぶ傾いてきた。
そこで夜営する場所として、道沿いに開けた河原を見つけ、焚き火の準備をすることにした。
「流木や小枝がそれなりに落ちていて楽だし、見通しは良し。火を焚いておけば野生の動物はわざわざ近づいて来ないだろう……」
そう、わざわざ近づいて来るのは捕食者である! 敵である!
「何が居るか分からない土地で野宿なんて、不安しかないけど……」
そんな事を口にした瞬間であった。
近くの森の中からガザッと、大きな音が聞こえた! 自分は咄嗟に木を放り出してそちらに体を向け、刀に手をかけて身構えた……
そして、森をジッと見つめるが、特に何も見えない……けど、今までの小動物とは違う何かがいる気がする……鼓動は心臓が破裂するかと思うくらい速く、手も顔も汗でびっしょりである……この緊張感に既に心は折れかかっていた……
「なにこれ! 心臓痛いんだけど! マジ無理無理!」
と心の中で叫びながらも、ゆっくりと刀を抜いて構える……と同時に、森の中から大きなモノが飛び出してきた!
いきなり捕食者登場か⁉ と同時に心臓が飛び出しそうになった。
それは大きく両手を挙げて咆哮を放った!
「ちょっと待って! 脅かすつもりはなかったんだよ」
と、何て雄叫びだ! ちょっと待てとは……ちょっと待て? あれっ?……完全にパニックで我を忘れていたのか……今更、それが雄叫びでなく人語で……しかも目の前にいるのは人だと気づいた……
「えっ、誰⁉」
何とも間抜けな質問だったが、この時はこれが精いっぱいだった。
「あっ、僕はアルティと言います。怪しい者ではなく人を探しているんですが……剣を下してもらえると嬉しいな~なんて」
アルティと名乗った少年はそう言って笑いかけてきた。
その笑顔を見て、急に恥ずかしくなり構えていた刀を下した……こんな子供にビビッていたのかと思い情けなくもあった……
あぁ、逃げたい気分だ。
「ありがとうございます。で、お兄さんに一つ聞きたいんだけど……お兄さんは渡界者ですか?」
ん? お兄さん? ……そう言えば今は見た目十七歳の少年なんだっけ。そうするとこの少年とはそんなに離れてないのか……何歳くらいだろう、年下だよな……
「あの~お兄さん? そんなに見つめて、僕の顔に何か付いてるかな?」
アルティはそう言いながら少し顔を赤らめた。
「あっ、ごめん。えっと何だっけ?」
「えっとね、お兄さんが『渡界者』なのかどうかなんだけど」
渡界者?……そう言えば、異世界解説の映像の中に出てきてたかな。確かこの世界に迷い込んだ現世の人間の事だったか?
「そうだね、渡界者になるのかな……まぁ、迷い込んだんじゃなく、賢者様に連れてきてもらったんだけど」
「やっぱり、お兄さんがそうだったんだ。良かった、て言うか本当だったんだ」
「本当だった? 君がもしかして賢者様が言っていた協力者?」
ここに飛ばされる前に賢者様が言っていた事を思い出した。
「向こうの世界では近くに協力者がいるはず。その者を頼るのが良い」
と無表情のまま語っていたなぁ……
「うん~とね……女神様の神託を受けたのは村の司祭様で、その孫のお姉ちゃんが迎えに来てて、僕はその付き添いかな。で、その神託って言うのが本当かどうか僕たちは疑っていたんだよね。でも本当にお兄さんがいて、ちょっと感動してるんだ」
そう言って屈託のない笑顔を向けてくる……可愛いじゃないか、と思いながら安心して刀を鞘に納めた。どうやら、わざわざ協力者が迎えをよこしてくれた様だ。
「はぁ~、人で良かったぁ~。最初の難関クリアかな」
本当は歓喜の雄叫びでもしたいところだが、人前で恥ずかしいので小声でつぶやく程度に我慢した。
「なんか言った?」
「いや、気にしないで。それより、その迎えに来てくれているというお姉ちゃんはどこにいるのかな?」
「もうすぐ来ると思うよ。僕は人の気配がしたから先行して様子を見に来たんだ……」
気配を感じてね……耳を澄ましても他に人の声も足音も聞こえないし……そんな遠くから気配を感じ偵察とは、見た目から察するに狩人ってとこか……なんかカッコいいな。
「ところで、お兄さんの名前は? それと……年上だよね? 僕は十五歳なんだけど、お兄さんは何歳なんですか?」
と質問しながら歩み寄ってきて、グッと顔を近づけてくる……
そこで気付いた。
アルティと言う少年が美少年である事。そして賢者様に何となく似ている事に……髪型は近いが色はブラウン、瞳の色もグリーンでなによりこんな笑顔なんてなかったけど、あの賢者様が笑えばこんな感じかな……
と考えて顔が熱くなるのを感じて、慌てて半歩下がる。
「あっ、えっと、そう言えば名前がまだだったか……結城連也、今は十七歳かな……」
「ユウキレンヤか……変わった名前だね、それに、なんか雰囲気的にもっと離れてるのかと思ったけど、そんなに歳も離れてないんだ」
そう言ってアルティは手を差し出してきた
「よろしくね、レン兄」
……君の直感は正しいよ、と感心する。
「あぁ、こちらこそよろしく。アルティ」
アルティと握手を交わしながら思った。これはラッキーだったかな……モンスターの襲撃もなく、協力者とも会えて、しかも最初に会えた子は性格も良さげだし、幸先のいいスタートを切れたんじゃないかな。
そうして、お互い親交を深めたところで、お姉ちゃんとやらが追いついてきたらしい。
一人は神官風のブロンドのロングヘアーの女性レミィに、もう一人はアルティと同い年位だろうか、魔法使い風の少年カルノスだった。
二人ともアルティから自分を渡界者として紹介された時には、『へぇ~、本当にいたんだ』と同じ反応をしていた。
そして、お互いに自己紹介をした後、興味深々に色々質問してくるレミィとカルノスを制止して、アルティの『暗くなる前に夜営の準備をした方が良い』という意見を尊重し、四人で協力して夜営地の準備を進めた……その後、夕食を取りながら三人の質問に答える形で今までの経緯を話した。
自分は賢者様に頼まれて、ココの神様が生まれた異世界から来た事。ここで6年間過ごし、自身が生命エネルギーにどの様な影響を及ぼすか調査する事など。
「凄いわ! 本物の女神様に会って言葉を交わすなんて……時の賢者様が実在するなら私がお仕えする川と湖の女神様もどこかに……はぁはぁ……」
どうやら女神様の話がレミィの琴線に触れたらしい。この世界でも女神様に会うのはもちろん、人前に現れたと言う様な話は稀らしい。
因みに女神とは神『エーテリオン』に造られた
『大地の女神』と眷属『山と鉱物の女神』『火山と地震の女神』『生命の女神』
『海の女神』と眷属『航海と星の女神』『嵐と雷の女神』『死と冥府の女神』
『水の女神』と眷属『川と湖の女神』『雪と氷の女神』『森の女神』
『火の女神』と眷属『鍛冶と破壊の女神』『砂漠と熱風の女神』『昼と始まりの女神』
『魔力の女神』と眷属『運命と夢の女神』『夜と終わりの女神』『時の賢者』
の二十人で、それぞれが世界の様々な事象を司っている
「今回のおばあちゃんの時と同様、仮初めの姿で現れたりする事は稀にある様だけど、今まで直接言葉を交わしたと言う人には会った事ないです。レンヤさんの場合は特別なんですよ。これは……女神様と面識のあるレンヤさんに協力していれば……いずれ、私も女神様にお会いできる可能性が……はぁはぁ……」
レミィは話の途中で一点を見つめだし息を荒くしてブツブツと言い始めた……もしかしてヤバイ人なんですか? 狂信者じゃないよね? 完全に目がイッちゃってるんだけど!
「あの! レミィさん! 落ち着いて! 女神様になら『原初の神殿』に行けば会えるらしいですから」
「えっ! そうなんですか⁉」
レミィが自分に飛び掛かる勢いで聞いてくる……顔近すぎ……
「賢者様がそう言ってましたから」
自分はレミィの両肩を掴み少し下がらせながら言った。
「あぁ~、これこそ女神様の啓示です」
そう言って感謝の祈りを始めた。
「でも、原初の神殿ってほとんど見付かってないはずだけど……もしかしてレンヤ兄は場所、知ってるの⁉」
今まで、自分とレミィのやり取りを黙って聞いていたカルノスが羨望の眼差しをコチラに向けてくる。
このアルティと同い年の魔法使いの少年は、世界の秘密に興味があるらしく、先ほどまでは自分が賢者様から教えてもらった世界の成り立ちの話に、あれこれと質問していたのだが……
ここでまた興味を引くキーワードが出てきた様だ。
原初の神殿……女神様が誕生した時に作った最初の神殿で、今もそこに女神様はいるらしいのだが、殆どが歴史に埋もれて所在不明になっている。
そして賢者様も場所は教えてくれなかった……よって
「残念、自分も場所は知らないんだ。ただ今でも全部残っていて、見つけられたら助力を得られるって言ってたから」
「そっか……でもその情報だけでも十分だ。やっぱり古代の謎は自ら冒険して見つけるのがロマンだよなぁ……」
「カルノスは考古学者志望なのかい?」
「一応そうかな。魔法使いだから魔法の探求もしながらになるだろうけど。メインは考古学の研究にするつもり。だからレンヤ兄の話はすっごい役に立ったよ!」
「その夢の為に、カルを鍛えてあげているのが僕なんだ。因みに僕はトレジャーハンター志望ね」
夕食後、周辺の見回りに行っていたアルティが、自分の隣に腰を下ろしながら話に入ってきた。
「鍛えてるの?」
「そうだよ。今でこそ体力もついて足腰も強くなったけど、昔は貧弱な魔法使い君だったんだ。それが遺跡探検をしたいって言うから、僕が狩りに連れ歩いて鍛えたんだよ」
そう言って揶揄うように笑顔をカルノスに向けるが、当の本人はふいっと顔を背けて素知らぬ顔で紅茶を飲んでいる。どうやら本当の話のようだ……でもそれなら
「すると、自分もアルティの狩りに付いて行けば鍛えられるのかな」
「もちろん! 森を駆け巡るから体を鍛えるのにはもってこいだよ! レン兄は昔のカルよりは素質ありそうだから直ぐにパワーアップ出来ると思うよ! て事で村に着いたらすぐにでも僕が色々教えてあげるよ!」
随分と前のめりにアルティは勧めてくるが、最低でも今の装備で数時間は楽に動ける様にならないと不味いだろうと考えていた自分には正に渡りに船だった。
「なら、お願いするよ」
「うん! お願いされた!」
そう言って満面の笑みを浮かべる。
その後、しばらく雑談をしてから交代で火の番をしながら睡眠を取ることになり、自分が最初の番を買って出た。
というか、まったく眠気が襲ってこない。異世界での初めての夜……出迎えの三人に会えた安心感よりもまだ興奮の方が大きい様である。
でも、それも仕方の無い事だと思う。
夜の河原では、所々でコケや草花が淡い緑色の光を放ち、川底には青白い小さな光の粒が散りばめられ、まさに天の川状態になっていた。
それだけでも十分幻想的なのに、極めつけは夜空だ!
色鮮やかな満点の星空なのは言うまでもないが、そこには普通の月ともう一つ青い月が浮かんでいるのだ。
しかもそれらは自分の知る月の倍ほどの大きさだった。
それに加えこちらの地球には環まであり太陽の光を浴びて濃い天の川の如く輝き、夜空の神秘性を高めるのに一役買っていた。
コチラの地球は現世の地球より誕生時の小惑星との衝突が一回多くその分少しだけ大きい。つまり引力が少し強い事になる。
その結果、その後の隕石衝突が増え環ができて、更に青い月も衛星として捕らえることが出来たという事の様だ。
まぁその分大絶滅の回数も増え進化が遅れた様だけどね。
そして神秘的な月の青さは水に由来する。では倍の大きさに見えるのは……あれ?何故だ? 距離が単純に近いのだろうか? それとも何か別の要因が……まぁいいや。
そう、今目の前に広がるこれは現世の地球では絶対に見る事の出来ない絶景だった。
この光景に見惚れて結局、交代時間になっても寝る事なく、明け方近くに寝落ちするまでずっと夜空を眺めていた。
そして、自分の寝落ちから二~三時間ほどして朝日が昇り始め、それで目が覚めてしまった。
寝不足気味かもと思ったが、そのまま最後の火の番だったカルノスと共に朝食の用意をし、みんなで朝食を取った後は手早く後片付けをして村に向けて出発した。
昨日とは違い不安もなく、心なしか体も軽く感じられ、清々しい旅路だった。
「そう言えば、みんなの住んでいる村は何て言う村なの?」
その問いにアルティとカルノスが
「「エヴァン村だよ!」」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます