第2話 プロローグ
「星が巡ってきた……」
「みんなも準備に入った頃……」
「時間……成功確率は高くない……、儀式を開始する……」
「この世界に良き巡り合わせを……」
神なんてモノが存在し得るのか? 異世界なんてモノが存在するのか……
自分は存在してもおかしくないとは思っている。
ただ、それはゲームや漫画の様なモノではなくリアルな世界……現在と少しだけ違うだけの現実的な……
最近、変な夢を見る事がある。
古代文明の様であり、ゲームのファンタジー世界の様でもある……そうだ……神話の世界観的なモノだ……
それは、こう言っていた……私は人の願いから生まれたと……
地球上に人類が文明を築き始めて五〇〇〇年、人はあらゆるモノに祈りを捧げた。そして宗教観が芽生えそれは加速度的に広がった……そこから生まれる祈りという思いのエネルギーも増大し地球上に蓄積されていった。
そしてある時、そのエネルギーとエーテルが結びついて新たなエネルギー体が誕生した……それには人に由来する意思があり、知識があった。
それが『私』である
私は自身の存在を認識、理解したが、自ら人類に関わることはせず、ただそこにあるモノとして一〇〇〇年ほど経過した。
その間も思いのエネルギーは貯まり続けたのだが……
その量は予想以上で、遂に人類不干渉を貫いてきた意思とは関係なく、エネルギーそのモノが人類に干渉し始めた。
私は何とか自身全体を制御しようとしたのだが失敗した。
それも致し方無い事である。
思いとは願いであり、その塊であり大きくなり過ぎたエネルギーの一部が願いに対して無意識に反応するのは必然であった。
ただ、仕方ない事だったとしても、海が割れたり、都市が一夜で滅んだりとそれは人類に多大な影響を与えてしまった。
その為、私は人類から遠く離れた場所に移ろうと考えた……
しかし、それは簡単な事ではなかった。
そもそも人の思いから生まれたモノである為に、人と完全に繋がりを断つ事は不可能だった。
ただ距離が離れただけでは影響を断ち切れなかったのだ。
それ故に、私は別の宇宙軸に移動しようと考えた。
ただし、単に別宇宙へ移動したとしてもそこの人類、もしくは自身と同じようなエネルギー体に影響を及ぼしては意味がない。
そこで見つけ出した答えは……別の宇宙軸に存在する人類が存在しない地球を見つけ、そこに移る事……
それがこの世界の始まり……
水の中を漂いながらキラキラと輝く海面を見上げている……
何だか綺麗な景色だなぁ……そんな事を微睡みの中で思っている自分がいる……
あれは何だったのだろうか……映画のプロローグ……神話の朗読かな……
あぁ……なんだかまた……深く沈んでいく様な……そんな……
『ピピッ ピピッ ピピッ』
「……うるさい……」
『ピピッ! ピピッ! ピピッ!』
しつこい目覚ましの音で目を覚ます……いつもの事だ。
「もう朝か……はぁ~…会社行くの面倒くさぁ~……」
また、変な夢を見ていた様だけど……疲れが溜まってるな……
最近、よく似た夢を見る。
だけど詳細を覚えている訳ではない。いつも神話の様な……そんな話を漂いながら聴かされている感じなのだけど……
「熟睡できてないのかなぁ~……。全然疲れも取れないし……」
「ふぁ~…… 準備でもするか……」
悲しい社会人の性である……ボヤキながらも会社に行き、きっちり仕事をこなす。
そんな普通の生活の日々。
今までと違うのは半年前から人手不足で激務が続いている事か……残業代が増えても、独り身、無趣味の自分には株の肥やしになるだけだ。
そんなこんなで、今週も毎日終電近くまで残業だったが何とか乗り切った……
まだ四月半ばだと言うのに汗が出る様な陽気な日々が続いている。
昔はこんなに汗かきでもなかったのにとボヤキながら家路へと急ぐ。
自分は「結城連也」三十七歳独身、真面目にではあるが、のらりくらりと攻める事なく楽な方に人生を送ってきたと自負している。
それ故に、特に自慢できる趣味や特技もなし、漫画とオカルト系が好きな『自由気ままに』がモットーの普通のサラリーマンだ。
強いて何かを挙げるとすれば、偏った知識欲は強い方かもしれないが特に今までの人生に活かされた事は無い。
しかし、そんな自分でも仕事は自由気ままにとはいかず……社畜生活で心身共にダメージは蓄積されるばかりだ。
まぁそれでも、明日は仕事が休みだし、このまま久しぶりにゲームでもするか、それともネットで映画を見るのも良いかもしれない。
そんな事を考えながら部屋に辿り着てみれば、結局そのまま風呂にも入らずにベッドに倒れ込んで夢の世界へと落ちていったのだ……
そして、どのくらい寝たのだろうか……
あたたかな風が髪を撫で、見た事もない綺麗な鳥らしきものが空を舞い、そして目の前には……
変な夢を見ていた。
その中で神の誕生だの、別宇宙への旅だの、冒険をしてみないか等、いろいろと言われてそれらに興味本位に承諾を繰り返していたら……
いつの間にか大森林が広がっていた……
「……本当に異世界に来たのか? ……さっきまでの事も一応、現実だとは納得したのだけど……いやぁ~本当に来てしまったのかぁ……」
などと独り言をつぶやきながら自分の周囲を改めて見渡してみると……
いまは森の中……のどうやら塔らしきモノのてっぺんにいる様だ。
円形の白い石畳の床、その外周を等間隔に並ぶ白い柱……
そしてその向こうに広がる森、と川も見える。
その川の反対側には崖がありその中腹から水が幾本も流れ出している。
そして崖の上にはまた森が広がり、その遥か奥に山脈も見える。
この塔は、その流れ出す水が作る小さな湖の上に立っている様だった。
「凄いな……ここからでも湖の底が見える……それに、空も高いし青い……」
そう見上げた視線の遥か先には、蝙蝠の様な羽に長い首と尻尾が付いた様なシルエットが見える気がする……のだが……
「襲ってこないよな……」
少し不安に思ったが、それで実感が湧いてきた。
「本当に異世界に来たんだ……来ちゃったよ……」
ゲームや小説でお馴染みの異世界転移!
誰しもが夢見る……かは、分からないけど、スリリングな異世界だ!
そしてココでの目的は、ズバリ!
『6年間無事に過ごす事!』
その一点である。
現世の人間がこの世界の『生命エネルギーにどの様な影響を与えるか』を検証するのが目的らしく、この世界で生き延びられるなら過ごし方は本人に委ねられているだ。
その為、冒険者になるも良し、商人になるも良し、戦士を目指すのも、街に引きこもるのも自由。
取り敢えず生きてさえいればいいと言うが最低条件なのだが……
その理由もちゃんとある。
それは、この世界では死んだら即アウトなのだ。
復活呪文なんて都合のいいものは存在しないし、現世には心臓発作扱いでの死に戻りで終わり。
つまり、命懸けの新生活である。
まぁ、サブ的な事で最重要の任務もあるのだけど、それも強制ではなく、一部は生活の一環で賄えるので、やはり無事に過ごすと言うのが最大の目的だと思っている。
ただ、異世界行きを承諾するような人間が、ここで冒険者にならない訳がない!
現世では味わえない非日常を期待して来ているのだから!
そんな事を思い、目の前に広がる光景に暫く感動していたが、改めて情報の整理する事にした。
少しでもリスクを抑え、今後の方針を決めるのに現状把握は必須である。
そもそも、あの無表情の『時の賢者』様に連れてこられたこの世界は異世界と言っても、別宇宙に存在する地球だという事だから、ある程度の自然と科学的法則は現世と変わらないはずである……
と期待しているんだけど……
「少しでも今まで身に付けてきた無駄な雑学が活かせれればいいなぁ……」
「しかし……数日前から見ていた夢はここの存在を言っていたんだな」
この世界と現世の大きな違いは、神と呼べる意識体『エーテリオン』の存在と、エーテルから造り出された生命体に魔力の存在である……
「まさか、あの夢からこんな展開に発展していくとはね……」
最初に、調査に協力してほしいと言われたが……場所も地域も国名すら不明。場合によっては即死の危険性もあり。
報酬は現地調達と+α……まぁこの+αが危険を顧みずこの異世界行きを承諾する要因になるのだけど……
それにしても、現実は小説より奇なりとはこの事だな……そんな事を考えながら事の始まりを思い出していた。
「結城連也さま、調査にご協力お願いできませんか?」
「……?」
そう夢の中で、いきなりファンタスティックな格好をした女の子に問いかけられたのが始まりだった。
当然これは夢だと理解した。妙に意識や感覚がはっきりしていたがたまにある事で半覚醒状態なんだと思っていた。
それも仕方がない。
目の前の無表情というか、ボーっとした感じと言うべきか……
その女の子は中学生くらいの少女で、魔法使い風のローブを纏い、紫のミディアムヘアーに紫の瞳。
歯車が組み合わされた機械仕掛けの髪飾り。
左手には江戸時代の置時計の様なものを持ち、右手に持つ杖の先には懐中時計らしきものがはまっていて、しかもそれらの周りを小さな光る物体が飛び回っている……
まるで時間を操る魔法使いの様な格好をしていたのだ。
これは、夢にしても……ファンタジーだ。何の影響なんだろうなこれは……せめてどう言う設定かは知りたいけど。
そう思いながらも夢の進行に付き合う事にしたのだが……
「設定?……」
「……」
「…………」
あれ? 変な事言った? と言うか、さっきの声に出てたかな……?
自分の感想に対して何かを考えていたのか、しばしの沈黙ののち少女から出た言葉は
「私は『魔力の女神』の眷属『時の賢者』、調査場所の国は分からない。だから出来るだけ異世界で即死しない様にサポートは万全」
であった……なんか、変な事を言い出したのは少女の方だった。
「ちょっと待て⁉ 時の賢者? 国不明? 異世界? それに今、即死って言った?」
「……間違い、すぐに死なない様にサポートは万全」
「言い直したけど同じだよねそれ? 何その命懸けの調査⁉ いくら夢だからってそんなハード体験は希望してないんだけど。しかも『異世界』て⁉ 更にその知らない世界のどこに飛ばされるかも分からないって事なのか⁉ それに『時の賢者』て、それが名前⁉ 色々突っ込みどころ満載の設定だな⁉」
あまりの突拍子もない少女の発言に、つい大人気なく声を荒げてしまったのだが、少女は今までと変わらず淡々と
「人間の言うところの『名前』と言うのはない。向こうでは単に『賢者様』と呼ばれることもある」
と後半の質問にだけ答えてくれた。
まぁ、夢なんかに文句を言っても仕方ないんだけどね……
「はぁ~、これは本当に自分の夢なのか? 何故こんな凝った設定なんだ」
とため息交じりにうつむき考え込んでしまう。
何故こんな夢を見てるんだ? ……これは無理にでも起きて夢を終わらせ、寝なおした方が良いんじゃないのか? などと考え始めていると
「一つ訂正しておく。先ほどからあなたはここが夢の中だと思っている様だが、それは間違い。ここは現世こと現宇宙と異世界こと別宇宙の狭間の空間。そして今現在、あなたにとっての現実」
と時の賢者様が、アニメキャラが言いそうな更におかしな事を言ってくる。
自分は顔を上げて時の賢者様を見つめるが、やっぱり微動だにしない表情からは何も読み取れなかった。
少しぐらい笑顔を見せてくれてもいいのにと心の奥でつぶやくが、今はそんな事はどうでもいい!
これが現実? このゲームや漫画に出てきそうな今の状況が?
この時は本当に焦った。あまりにもおかしな状況に夢から覚めようと色々試したが結局……
徐々に、思考が麻痺しだしているのか、その混乱する自分をもう一人の自分が傍らで傍観している様な変な感覚に襲われて来た……そして、だんだんと意識が遠のき始めた。
あぁやっぱり夢だったんだ……このまま深い眠りに落ちていくんだと安心していると
「理解できた?」
「ッ⁉」
その声に、意識を一気に引き戻された。
虚ろな視線を賢者様に戻しつつ、自分が額に背中、手に……大量の汗をかいているのが分かった。
どうやらあまりの事にあっちの世界に逝きかけていた様だ……
……あまりにも現実味が無さすぎる。そう思い、再び思考を巡らせるが
強力な暗示は肉体に影響するらしい事を考えれば、夢に感覚を支配されているような状態ならこのリアルな感覚も夢でないとは言い切れないはずだし……
とは思っているのだが、でもやっぱり夢でこんな、変にリアルな感覚を体験出来るのだろうか……
それに、そもそも異世界とは?
そんなモノが本当に存在し得るのか?
……逆に存在しないと言い切れるのか?
平行世界を異世界と言うならそれは存在してもおかしくない様に思える。と言うか、自分は平行世界や別宇宙は存在していると思っている……
この世界が唯一無二であるはずがない。
観測手段がないだけで宇宙の概念も時間も本当はとんでもない状態で存在しているのでは……
いや、それこそが普通の状態なんじゃないか……
そんな変な事を考えていた時期もあったが、もしかしたら、それが夢に反映されているのかもしれない……
などと暫くは色々考えてみたが、答えが出るわけでもなく……
取り敢えず、もう少し様子を見る為に無理矢理に納得する事にしたのだ。
話しを進めない事には状況は打開されないし、相手の意見を聞くのは重要な事だと思っている……それを取り入れるかは別にして。
そこで重要な事を賢者様に尋ねた。
「えっと……その異世界って言うのはですね、何らかのオーバーテクノロジーが作り出した世界なのか、現世の平行世界的なモノなのか、それとも魔法なんてモノがあり現世と全然違う異生物が跋扈する的なモノのどれですか?」
「仮想世界ではない。別の現実世界であるが、神が存在する世界。魔法あり、亜人種あり、モンスターありの世界。ちなみに私はさっきも言った通り二十の女神の一角。『賢者』とは呼称で私もれっきとした女神」
ここでまた、そんなとんでもない答えが返ってきた。
二十人も女神がいるのか、全員美少女なのかなと想像してしまったが……重要なのはそこじゃない!
完全なファンタスティックな異世界じゃないですか……
平行世界、別の時間軸の世界というならまだ理解できるが、そんな魔法やモンスターが存在する世界があるものなのか?
いわゆる物語の中の世界、知的亜人種にモンスター、それに魔法って……ゲームの様なプレイヤーに都合のいい設定の異世界と言うのなら、自分はその存在に対しては完全に否定派なのだけど……
そう、そんなゲームの様な世界は、自分の命を預ける世界ではない。自分とは相いれない世界だと思いかけていた時に、新兵器が登場したのだ。
それは脳に直接、知識と映像を送り込む謎の球体だった。
そこから流れこむ映像はまるで、以前、愛知万博の日本館で見た全天球型映像システムを更に何かすごい技術でパワーアップした様な感じで圧巻の一言だった……
もちろん内容は衝撃的で、まさにファンタジーそのものだったけど。
それにより、神の様な存在の誕生と、その異世界と異生物の成り立ちを理解したのだった。
魔法は魔力と言う一種の自然エネルギーから成り立っている事も……
そんな情報に飲み込まれて混乱状態の時に示されたのが、異世界行きの決め手となった+αの提示である。
「異世界でのサポートとして、装備品と異世界の知識、それに若く強化された肉体の提供」
それが賢者様が告げた事だった。
神器クラスの武具や圧倒的な必殺技などが貰えるわけではない。
しかし、細胞に少し手を加えての『若返り』と多少の肉体強化は現世に戻っても効果は健在だと言う……
正にカネでは買えぬ宝物だ!
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